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翼の勇者  作者: た~にゃん
第三部 森の王女 厄災の女神
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Chapter01-1 テディー一家とゴールデンロッド

「ママーマ、マーマ(オマエたち、オレたちの味方)」


 ぬいぐるみもどきの〈厄災〉(異世界種)は、ジーンとヘリオスが自分たちの言葉を理解するとわかるや、そんなことを言いだした。

 

「マーマ、マーマ(姫様に会わせてやる。ついてこい)」


(姫様……?)



 〈厄災〉(異世界種)は、自分たちを『山賊テディ一家』と名乗った。曰く、森は彼らの『ナワバリ』であり、『姫様』はニンゲンの中で唯一自分たちの言葉を理解する『女神様』なのだそうだ。


 リディアは首を傾げた。


(姫様が言葉を理解? でも、〈厄災〉(異世界種)と人間は言葉が通じないはずじゃ……?)


 ――そう。〈厄災〉(異世界種)はどんなに知能が高くとも、人間と言葉が通じない。例外は〈聖女〉と〈勇者〉だけ。


「普通の人間が〈厄災〉(異世界種)と言葉を通じることって……?」


「いや、それはないはず」


 小声でジーンに尋ねるも、彼はきっぱりと否定した。


「僕らの近くにいる人間ならあり得るけど、そうでないなら……」


 ヘリオスも不思議そうな表情だ。


「ママー、マ、マ(何コソコソ話してるんだ? はやく、はやく)」


「マ、マ(はやく、はやく)」 


 リディアの服の裾をちょいちょいと引っぱり、つぶらな黒目で見つめてくる――クッ、ダメだ。何このカワイイ生き物ッ!


「マ~~♡」


 思わず頭を撫でしまったリディアに、ベタァとくっつくぬいぐるみもどき。それがクルッとウィルを振り返った。


「マ~~♪」


「ッ! ジーンさん、コイツ今『バーカ』つった! 絶対言ったぁ!」


 からかうように尻尾を振るぬいぐるみもどきに憤慨するウィルを、ジーンは苦笑しつつ宥めたのだった。




◆◆◆




 彼らについていくと、森の縁で数匹の〈厄災〉(異世界種)たちがぴょんぴょんと跳びはねてリディアたちを出迎えた。


「ママー!(ヒャッハー!)」


 彼らは皆、皮の鎧に弓を背負っていた。見れば、さっきの二匹もいそいそと鎧を着て、仲間から弓を受け取っている。『山賊』らしい格好になった。


「ママーマ、マーマーマ(オマエたち、ニンゲンの邪魔した。蜜源、守った)」


 待ち受けていた一匹が進み出て、リディアに言った。


 彼(?)は、他のぬいぐるみもどきと違って、丸い耳にピアスを三つもつけ、鎧も皮ではなく金属。山賊の頭領だろうか。


「蜜源?」


 ピアスのぬいぐるみもどきは、キョトンとするリディアの手をモフモフの両手でタッチ。黒目がキラキラしている。


「マ?」


 リディアはどうしてか〈厄災〉(異世界種)の言葉はわかるのだが、リディアの言葉を〈厄災〉(異世界種)は理解しない。よって会話は成り立たない。

 コテッと首を傾げるぬいぐるみもどきに、ジーンが代わりに話しかけた。


「蜜源ってどういうことかな?」


「マ!」


 ひと声鳴いて頭領が示した場所を、ウィルが魔法で照らし出す。


「これ……!」


 スカートのように広がり垂れ下がる、幾重にも重なった葉っぱ。その頂きには、クリーム色の(がく)に毒々しい黒紫色の花心を持った四弁花が、ギュムッといびつに固まって咲いていた。


「ゴールデンロッド?!」

  

 闇の中、ウィルの光魔法に照らされたのは、なんとあのグロテスク外来種、ゴールデンロッドだった。


「うわぁ?! いっぱいあるし!」


 まるで故意に殖やされたようにあちらにも、こちらにも――ゴールデンロッドの大群落だ。


「まさか、ここってフュゼの人たちが破壊しようとした群生地じゃ……?」


 外来種ゴールデンロッドは、森の土を痩せさせる。それが巡り巡ってフュゼの人々を脅かしていたのは、リディアたちも目の当たりにした。


(人間の邪魔をした……そっか。ジーンさんが鱗モグラの〈厄災〉(異世界種)を帰したとき、ウィル君が討伐隊の作戦を邪魔したから)


 けれど、どうして〈厄災〉(異世界種)がそんなことを知っているのだろう。


「この子たちが、フュゼの冒険者が言ってた『襲撃者』なんじゃない?」


 暗闇の中からメリルが言った。


(……襲撃者!)


 思い出したのは、ギルドでゴールデンロッドの採集依頼を窘められた時のこと。


  


「ゴールデンロッドの駆除が捗らないのは、あの大きさと何者かによる妨害があるからなの。だから、ブロンズ……それも蔦の貴方が手を出したらいけないわ」




 確か、その襲撃者は森に潜み姿が見えず、粗末な矢を射てくるとか――。


 ぬいぐるみのような〈厄災〉(異世界種)は、小枝を削っただけのような粗末な弓矢を背負っている。


「間違いないな。彼らが襲撃者……放っておけないな」


 ジーンが低い声で呟いた。


 ――と。


「キラービーだ!」


 葉っぱスカートの上で半透明の翅を休める巨大なハチ――キラービーを見つけたウィルが、すばやくリディアたちの前に出て身構えた。


「マー!」


「ぬわぁ?!」


 しかし、武装したぬいぐるみもどきに囲まれて弓を向けられ、ウィルはギョッとする。


「ママーマ、マーマ? マ?」


 キリリリリ……。


 小さな弓に棒きれのような粗末な矢をつがえ、〈厄災〉(異世界種)が、低い声でウィルに何やら言った。


「……なんか『敵か味方か』って聞いてる?」


 フリーズするウィルに弓を構えたまま、ピアス耳の頭領がキラービーを指してリディアに説明する。


「マーママ、マーマ、ママ、マーマ(あの強いハチは、オレたちの家畜だ)」


「ハチが家畜なの?」


「マー」


 なんとなくで肯く頭領。さり気なくリディアの手を引き、自分たちの方へ連れていこうとしている。


(家畜……?)


 リディアは頭領の言葉を反芻した。『家畜』とはいったい、どういうことだろう?

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