表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
翼の勇者  作者: た~にゃん
第二部 旅のはじまり
52/105

Chapter05-5 再会と拒絶

 結論から言うと、リディアとジーンたちは無事に再会を果たした。


 ジーンが連れてきたウィルをリディアが魔法で〈隠し〉て、リディアはヘリオスの【変態】魔法で、砂色の小さなカニに姿を変えてもらった。


 『リディア』の姿絵を見られてしまった以上、『聖職者ディオ』として街を歩くのも危険と思えたからだ。


『どうする? リディアちゃん。東の門へ行ってみる?』


 〈空間〉からウィルが問う。


『僕は行ってもいいと思ってる。ロバもそのままだし、ヨルクは僕たちを騙して売るようなヤツじゃないよ』


 そう言ってきたのは、ヘリオス。


 リディアもそう思う。ヨルクとは、良い信頼関係を築けていると思う。信じても……。


『私はイヤ! このまま飛んでラームス村に帰りましょう? あの村はフュゼと仲が悪そうだもの。今なら外つ国の商人も居座ってる。簡単には中を調べさせないと思うわ』


 と、メリル。


 メリルの言うとおり、ラームス村は今なら外つ国の商人が連れてきた傭兵が守っている。安全ではあるのかもしれない。


『そうよ! まだ時間はあるもの。次の街まで飛びましょうよ。お金はまた稼げばいいじゃない!』


 実際、リディアたちの懐には大銀貨が二枚とさらにあの〈厄災〉(異世界種)が吐き出した魔核が数個入っている。リディア一人だけなら入門料には困らないのだ。


 身の安全を考えるなら、それが最善の選択肢だろう。


 しかし――。


『俺は……まだ行けない。〈厄災〉(異世界種)の意思を確認したんだ。〈勇者〉として、彼らの願いを叶えないといけない』


 ジーンの言葉で、メリルは黙り込んだ。次の街へ行くのだって、肝心のジーンがいなければどうにもならない。彼が『残る』と言っている以上は。


『私たちを運んで、アンタが夜の間にここに戻るんじゃダメなの? こっちは命がかかってるわ!』


 食い下がるメリルだが、〈厄災〉(異世界種)がゴールデンロッド駆除に駆り出されるのは明後日の夜。往復の時間と、夜しか活動できないことを考えると、その案は無理がある。


 皆、考え込んでしまった。


『一旦、ラームス村まで運んでくれないかな? ジーン』


 ややあって、ヘリオスが言った。


『メリルの言うとおり、フュゼに留まるのはリスクがある。村には夜戻ることも伝えてあるし』


 休息は必要だ。こういうときは尚のこと。ジーンだけでなく、リディアが動けなくなっても困るのだから。


 しかし、村に戻ろうとしたリディアたちを待ち受けていたのは――。


「大変申し訳ありませんが、聖者様方には今夜限りで出ていってもらいたいのです」


 村長に伝えられた、衝撃的な拒絶の言葉であった。




◆◆◆




「大変申し訳ありませんが、聖者様方には今夜限りで出ていってもらいたいのです」


 夜――篝火が煌々と、木の柵を照らしている中。村長は硬い表情でリディアに告げた。


「ワームから助けていただいたことも、薬を作ってくださったことも、腕の立つ従者の方を護衛に貸してくださったことも、心より感謝しております。そのことに何ら嘘はありません」


 重々しい口調で村長は告げた。その顔は厳めしく、当初この村を訪れた時とはまるでかけ離れた表情――いったい何があったのだろうか?


「何か貴方がたによくないことをしましたでしょうか? もしそうなら謝ります。いったい」


 何が、とリディアが問う前に。村長はなぜかリディアを睨むようにくしゃりと顔を歪めて叫んだ。


「貴女です! アンタですよ、リディアさん! アンタが! 夜中に押しかけてきては『ちょうだい、ちょうだい』と! アクババの旦那様がたいそうご立腹しておられるのです!」


「ええっ?!」


 驚いたのはリディアだ。村長の言ったことにまったく身に覚えがない。


「我々だって恩のある聖者様方を追い出したくなどない! ですが! 我々はアクババの旦那様を失っては、村の者を守れんのです! フュゼはアテにならん! 未来が! かかっているんですよ!」


 言葉に嘘はないのだろう。村長の目にはリディアに対する明らかな怒りがあると同時に、目は潤み、板挟みの苦渋がありありと見て取れたから。


 でも、誰がリディアを騙って夜中に押しかけたのだろう。


(あ!!)


 思い当たるのは、一人しかいない。


『メリル!!』


 思わず、〈空間〉の中に『念話』で叫んだ。


 ウィルが手作り風呂を拵えた日から。メリルはどうしてか、リディアの服を勝手に着ていってしまっていた。それが、毎日――つまり、三日間。


 メリルとリディアは、鏡あわせのようにそっくりな見た目と声。服を交換してしまえば、別人だと気づけるわけがない。メリルはリディアに成りすまして……!


『どうしてそんなことしたの!』


『アンタになんかわかんないわよ!』


 怒鳴りつけたリディアに返ってきたのは、泣き声の混じったメリルの喚き声。


 メリルが姉の服を勝手に着ていってしまうことは、子供の頃はしょっちゅうだった。大人になってからもちょくちょく……。けれど、『勝手に借りる』ことはあっても『盗る』ことはなかったから。きっと姉の持ち物が羨ましかったのだと思っていた。メリルは気まぐれだから、たまたま着てみたくなったのだろう、と。


 でも今回はわけが違う。どうして……!


 憤懣やるかたない――そんなリディアの頭を誰かがグイッと強く押した。


「不肖の弟子が、申し訳ありませんでした……!」


 目に映ったのは、地面。リディアの頭を押さえたのは、ヘリオス。彼は直角に腰を折り、村長に頭を下げていた。悪いのは、彼ではないのに。


「弟子がご迷惑をおかけした以上、お世話になるわけには参りません。今まで、本当にありがとうございました」


 頭を上げないまま、ヘリオスは芯のある、強い声で言った。その姿勢のまま、彼の手がトントンとリディアの背を軽くたたく。


「……私が愚かでした。申し訳ないことをしまし」


「まったくです!!」


 謝罪は、最後まで言わせてはもらえなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ