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翼の勇者  作者: た~にゃん
第二部 旅のはじまり
33/105

Chapter02-3 冒険者認定試験

「どぉおりゃあぁぁぁ!!!!」


 木刀を振りかぶり、鬼神も泣いて逃げそうな凶悪な顔と筋肉の塊が猛進してくる。


「ひぃッ!!」


『ひぎゃあぁぁぁーーー!! 走れッ! 走るのよバカァーー!!』


 メリルが絶叫するも、リディアは凍りついたように動けない。生粋のお嬢様に俊敏な行動など無茶振りもいいところ。できるわけがない。


「堅牢なるカルキノスよ!

 我らを守り給え!

【鎧】!」


 ヘリオスが魔法の壁で辛くも木刀の一撃を凌ぐ。しかし、



 メギィ!!!



『へ……ヘリオス様! ひ、ひ、皹が入ってますぅ~~』


 なんとワームの体当たりすら防いだ青銀の壁に、ピキピキと皹が入っているではないか!

 代わりにイーノックの木刀も折れてしまったようだが、彼はニヤリと笑うと折れた木刀を捨てて拳を握り締めた。ちなみに素手ではない。


(アレで殴る気ィーーー?!)


 握り締めた拳にはトゲトゲした拳鍔(ナックル)。当たったら絶対痛いヤツだ。リディアの身が竦む。


(……そうだわ!)


 思い出したのは、ゴブリン戦のときのジーンの魔法。彼が自分をコントロールしてくれれば……


『リディア、俺の助けなしで冒険者試験を突破しよう』


(ええっ?!)


 いや、絶体絶命なんだけど!

 恐ろしいゴリマッチョが相手なんだけど!!


『大丈夫だ。俺も通った道だ。やってみよう!』


『そんな……!』


 まさかの「助けなし」宣言に呆然とするリディアの目に、皹めがけて振りおろされる拳が


「【隠せ】! 【放て】ーー!!」


 咄嗟の判断! 


 オレンジ色の帯がイーノックを取り巻き、訓練場の端に転送する。


『ナイス! リディア』


 〈空間〉からジーンの声が褒めてくれるが、それだけだ。助けてはくれない。


 一方、イーノックは驚愕の表情を浮かべたものの、かえってヤル気を煽ってしまったらしい。凶悪な笑みはそのままにリディア目がけて突進してきた!


『なんで?! なんで屋根の上に転送しないのよバカァーー!』


「ごめんなさいぃーーー!!」


 メリルが喚き散らし、リディアが泣きながら喚き返す。でも、大声を出した反動か、恐怖で動かなかった足が動いた!


『よし、走って!』


 ジーンが指示し、


『神速なるカルキノスよ

 我が窮地を救い給え!

 【駿足】!』


 ヘリオスの魔法が発動する。イーノックとの距離があと数メトルのところで、リディアの脚が青銀の輝きを纏い、走る速度がグンと上がる。


「んぉ?!」


 景色が溶ける。 

 砂埃がもうもうと舞い上がる。

 すごいスピードで走っている?! 


 前からは凄まじい勢いで景色が迫ってきて、後ろを見る余裕もない。


『よしっ! そのまままっすぐ走ってリディア!』


 ジーンが励ます。が……。


「【アイス スピア】」


 ヒュン! ヒュン! と、風切り音がリディアの顔の真横をかすめ、何かがズドンと地面に突き刺さった。もうもうと砂煙があがったそこには……


『やァりィ~~~?!』


 飛んできたのは、長さが一メトルもありそうな氷の槍。イーノック、ついに魔法を撃ってきた。


『あンのクソ筋肉!! アタシたちを殺す気よーー!!』


『リディア! できるだけトリッキーに走るんだ!』


「無理ィ~~~~~!!」


 またビュウンと氷の槍が脇をかすめ、リディアの脚は急カーブ。その先には訓練場を囲む高い壁!


「?!」


『避けてぇーーー!!』


 メリルの制止にもリディアの脚は止まらない。そのまま壁に


 靴底が硬い壁面を蹴り、ぐるんと視界が回る。見えたのは、白一色の世界――。


 空だ!


『秘儀! 駿足立体機動ーー!! リディア! 壁づたいにギルドの屋上へ!』


 ヘリオスが叫ぶ。


 壁だろうが遠慮なく撃ちこまれる氷の槍を、でたらめに走りながらやり過ごし、ギルドの建物を駆け登る。


「~~~~!!!」


 必死のリディアは、魔法攻撃が飛んでこないことに気づいていなかった。


「ッ!……ハァッ、ハァッ」


 屋上に到達すると同時に、脚から青銀の光が消え、力尽きたリディアは屋上の床に大の字になり、ゼイゼイと肩を揺らした。


 ドクドクと心臓が暴れて胸が痛い。空にかざした手は傷だらけで、自覚した途端、鈍い痛みを訴える。


 昨日の芋掘りで泥だらけになり、ポーション作りで豆ができ、さっきの一戦で小石でも跳ねたのか、細い傷がいくつもある。


 ――でも。


「い、生きてる……」


 お嬢様だった頃は、これよりずっと軽い怪我でも一大事で。たくさんの使用人やミークたちが寄ってきて、包帯でグルグル巻きにして、有無を言わさず「寝ていろ」と諭された。


 あのときは、ほんの小さな擦り傷でもショックで。怖くて。


 なぜ、あんなに悲壮感いっぱいになっていたのか。


 こんな傷程度では死にやしないのだ。たくさん歩いて、さっきは走り回って。それでも――。


「おおい、兄ちゃん。生きてるか?」


 あれほど心臓が暴れ狂ったのに。もう胸も痛くない。動悸もおさまっている。



 この身体は、思ったよりずっと逞しい。



「ほら、つかまれ」と差し出された手を、わずかなためらいの後に思いきってぎゅっと握って、身体を起こす。


「毛色の変わった魔法だな。〈黒魔法使い〉か」


「ええ」



 この大男から逃げきった。生きのびた。



 〈黒魔法使い〉と問われても、以前よりも後ろめたさは感じない。これが自分だとさえ、今なら言えるかもしれない。身体がぽかぽかする。知らず自信みなぎる笑みを浮かべるリディアの後ろの空は、彼女を祝福するかのように晴れわたっていた。

前話クイズの正解は、セイタカアワダチソウです。

※すみません。調べたらgoldenrodはアキノキリンソウ属の総称でもあるのですね。セイタカアワダチソウはtall~とかlate~とかcommon~と呼ばれるようです。


私たちが知るセイタカアワダチソウは、大人の身長よりもデカくなり、川岸や空き地で大繁殖する厄介者です。が、原産地の北アメリカでは州花にされるほどポピュラーで、また愛されている植物だとか。草丈も短く、大繁殖するようなものではないそうです。※参考『怖くて眠れなくなる植物学』稲垣栄洋著、PHPエディターズ・グループ


環境の違いだけで、植物はこうも変わるって話を書きたかったのです。あ、繰り返しますが、本作に出てくる『外来種ゴールデンロッド』はセイタカアワダチソウとはまっったくの別物です(重要)

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― 新着の感想 ―
ああ、セイタカアワダチソウでしたかw 人間も、環境次第で大分変わりますしね( ˘ω˘ )
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