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翼の勇者  作者: た~にゃん
第二部 旅のはじまり
31/105

Chapter02-1 フュゼの冒険者ギルド

 明けて翌日――。


 リディアたちは早朝にラームス村を発って、城壁に囲まれた地方都市フュゼにやってきた。


挿絵(By みてみん)


 一般的に、城壁で囲まれた都市では、浮浪者など街に入れないために、検問が行われている。検問を通り街に入るには、通行料が必要だが。


「ラームス村の(おさ)様のお使いで参りました」


 お金のないリディアは、ラームス村長の使いとして、街に入ることにしたのだ。これなら通行料銀貨二枚をラームス村長に出してもらえる。


 城門の兵士に、村長から預かった書状を見せ、通行料を支払う。兵士はそれを検分し、ヘリオスの法衣を着たリディアを上から下までとっくりと眺めた。


「見かけん顔だ。シスターなどあの村にいなかったはずだが……?」


「シスターではありません。私は男です」


「なに?!」


 ギョッとする兵士。兵士から見れば、リディアの顔立ちは女性にしか見えなかったのだ。しかし、話した彼の喉元をよくよく見ると、わずかな出っ張り――男性だ。


「あ……いや、失礼した。僧侶の方でしたか」


「いえ、お気になさらず」


 品よく微笑む顔は、まるで優美な貴婦人のよう。兵士はついぼうっと見惚れ、急いで咳払いで誤魔化した。男に見惚れてどうする。


「あいわかった。服を脱がれよ」


 検問は、通行料の徴収と疫病対策が主な目的だ。貴族でもない平民は、検問で衣服を脱ぎ、身体に痘痕など病の兆候がないことを証明せねばならない。


「うむ。問題なかろう。通って良し!」


 幸い、肌にシミ一つ無いリディアは、両腕を露わにしただけで検査を通過できた。


(全部脱がなくてよかった……)


 ホッと胸をなでおろすリディアであった。




◆◆◆




「こちらが冒険者ギルドです」


 案内を頼んだ兵が、大通りに入口を開くひときわ大きな建物を指した。


 通行料を払えば、こうして案内を頼むこともできる。初めて訪れる街ではありがたいサービスだ。


「案内をありがとうございます」


 リディアは丁寧に頭を下げて礼を言った。うっかり法衣を裾をスカートよろしく摘まもうとして、慌てて手を引っ込めたのは内緒だ。


『お姉さま!』


 ……バレた。


『気をつけてよ。お・と・こ、なんだから!』




 ウィルの覚書によれば、フュゼは森を挟んで王都から三番目に近い小都市。『フュゼ』とは『狼煙』を意味する言葉だ。

 ゴブリン襲撃のあった麦畑から、ジーンはエルナト街道を辿るように人里を探し、結果ぐるりと森を迂回して、予定の進路よりやや南に出てしまったのだ。


挿絵(By みてみん)


 まだ王都の近隣区域――リディアが『リディア』として街に入るのはリスクが高いと判断し、ヘリオスの【擬態】魔法で性別を男性に見せかけることにした。偽名はディオ。


 ちなみに、同行者は魔法で隠れているメリル、ジーン、それからヘリオスである。ウィルは、また村にワームが出たときの備えで、留守番を頼んだ。恩は売っておいた方がいいという判断からだ。




『うう……ごめんなさい』


『リディア、所作がとても綺麗だね。そういうのは付け焼き刃じゃ身につかないから。うまく騙せているよ』


 しょぼんと肩を落とすリディアを、ジーンが励ました。


『さ、笑顔、笑顔』






 冒険者ギルドのロビーには、冒険者らしき数人の姿があるだけだった。まずはギルド職員のいるカウンターへ向かう。


「ラームス村の長様の使いで参りました。魔核の納品と、討伐依頼を出したいのですが」


「まずは魔核をこちらに。この大きさはワームですか? いつものように長殿の口座に入金でよろしいですね?」


 職員の確認に、淡い笑みでリディアは頷いた。


 森の縁に位置するだけあって、村からは定期的に魔物の魔核なり素材なりをギルドに納めており、その利益を村長が管理しているのだ。


 依頼書を職員に渡し、次いでバスケットに詰めてきたポーションをカウンターに置く。


「旅の途中で採取した薬草をポーションに加工したのですが、こちらで買い取りはできますか?」


「……確認いたします」



 リディアたちが作ったポーションは、固形タイプのもの。液体タイプの方が需要も高く良い値で売れるのだが、残念ながら容器が村では手に入らず、安価な固形タイプにせざるを得なかった。


(いくらで売れるかしら……?)


 カウンターで検分される飴色の塊をドキドキと見つめながら、リディアは初めての『ものづくり』作業を思い出していた。



 森の土をせっせと掘って、ウィスの根を掘り出す作業は大変だったが、楽しかった。


 薬草をすりつぶす作業は「疲れた、疲れた」と言いながらも、楽しそうなメリルと一緒に頑張って。


 グラグラ煮えたつ鍋をかき回すのは、生まれて初めてで。


 ヘリオスが調薬魔法を施し、ドロドロの液体がほんのり光を帯びた瞬間は幻想的で。


 できあがった飴色の塊を見たときは、達成感と未知なるモノに心踊った。



「固形ポーション、しめて28ソルド7ディナリオです。ご確認を」


 キラキラと輝く銀貨と銅貨が、薄い布袋に入ってズシリと重い。



 自分の手で作ったもので、初めてお金を稼いだ。



 ――なんだろう。胸がいっぱいだ。


 男爵令嬢として何不自由なく暮らしてきたリディアだが、現実に硬貨を見るのは初めてだったりする。

 貴族令嬢はお金を持ち歩かない。外で買い物や飲食をしても、支払うのはお付きの者か、店側が後日屋敷まで集金に来る。



「確認いただけました? 次の方が待っています」


 職員に注意されて、ピャッと声をあげそうになり、恥ずかしくなってそそくさとカウンターを離れた。


『ふふ。初めてお金を稼いだわ』


 興奮冷めやらず、〈空間〉の三人に言えば、


『まあ、僕の秘伝のレシピがあればこそだね!』


『アンタは指示してただけでしょうが!』


 ヘリオスが自慢し、それをメリルがばっさり斬り捨てる。僕が私がとギャーギャー言い合いを始めた二人だが、やっぱり嬉しそうだ。


『何より、ジーン様が夜にがんばってくださったわ』


『そーね! 功労者はコイツじゃないわ』


『ぐふぅ……言い返せない』


 メリルとヘリオスの笑い声と、弄られているのかジーンの戸惑った声が聞こえてくる。


「おおい、聖職者の兄ちゃんよ」


 すっかり気が抜けていたリディアは、野太い声と一緒に突然腕を引かれて、危うく後ろに転びかけた。びっくりして振り返ると、筋骨隆々として見上げるような背丈の男が、こちらを睨み下ろしている。


(きィやァ~~~~!!!)


 強面(こわもて)だ。ものすごく。そして威圧感がハンパない。心中で身も世もない悲鳴をあげたリディアであった。

<お金の単位(補足)>

額面の大きい順に、金貨(フローラ:F)>大銀貨(グロート:G)>銀貨(ソルド:S)>銅貨(ディナリオ:D)の三種がある。

1F=5G=50S

1G=10S

1S=10D

つまり、1F=500D

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