Chapter04-4 ゴブリンの襲撃(後編)
馬車の食べ物を狙ったゴブリンの襲撃を受けたリディアたち。ウィルと聖女とともに奮戦するが……
「くそっ! キリがねぇ!」
いったいどれだけ集まったのか。倒しても倒しても、後から後から新手が麦畑から飛び出してくる。これは異様だ。
(なぜ、人里近くまでこんなに……)
リディアの身体を魔法で操りながら、ジーンは眉を寄せた。
ゴブリンは知能の低い魔物だ。けれど、飢餓や魔物同士の戦など、よほどのことがない限り、人間の領域に踏み込んでくることはない。
彼らとてわかっているのだ。自分たちより身体が大きく、頑丈な鎧を纏い魔法にも長けた人間の脅威を。だから、旅人を数十匹で襲うことはあっても、これだけの仲間――百は下らないだろう――を引き連れ、人間の住む大きな街や畑を襲うことはないはずなのだ。
(麦はこれほど実っている。彼らの住処で食糧が不足することもなさそうだが……)
そもそも、ゴブリンが集落を築く森は本来豊かなはず。それだけの命を養える、ということに他ならないのだから。
(いったい、何があったんだ?)
ジーンが黙考する間にも、ゴブリンたちは数を増やしていく――明らかに異様な数だ。これ以上の戦闘はこちらが圧倒的に不利。彼らの狙いは荷馬車。それさえ渡せば……。
「一気に片づける! モルドレッドのアニキの力を使うぜ」
しかし、ジーンが口を開く前に、ウィルが鎖鞭を構えて不穏なセリフを口走った。
『待っ! それはダメだ!』
『そうよ! ダメよ!』
〈空間〉から〈聖女〉とメリルも声をあげるも。
「【Explosion】」
迫るゴブリンたちを薙ぎ払うがごとく。モルドレッドの強力な魔力で、焔のように煌々と輝く鎖鞭の軌道に沿って、次の瞬間、
ドドドォォォーーーーン
数メトルにもなろうかという焔の柱――爆炎がいくつもいくつもあがり、空を紅く染め上げた。先ほどまでとは段違いの威力――ゴブリンたちも、その後ろの麦畑も灰燼に帰し、わずかに炎を逃れたゴブリンたちはたちまち背を向けて、逃げていく。
「ハ、ハハッ、ま、護りきった、ぜぇ」
魔力を大量消費したのだろう、息を切らせて、それでも得意げな顔でウィルは、
ゴッ!
「ブッ?!」
ふり向きざまに左頬にグーパンをもらい、ドサッと尻もちをついた。
「このッ、バカ!! なんてことするのよ!」




