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茅野


 もう二十年以上前のこと

 自動車免許を取るために

 一ヶ月と少しの間、茅野にいた

 学課は困らなかったが

 実技はまるで駄目

 けれど一日の運転時間は決まっていた

 だから周りを散歩したり

 持っていった吉原幸子さんの詩集を繰り返し読んだ


 先のことなどわからなくて

 実ってゆく稲の穂や

 いなごたちを眺め

 コスモスが咲き

 風がだんだん寒くなっていった

 焦る気持ちと

 合わない仕事に戻らずにいられる安らぎ

 それらが混ざりあっていた


 空がきれいで

 雰囲気の良い神社が多くて

 迷いに沈む自分には

 有り難い場所だった

 けれど長く居すぎたこともあり

 免許取得の試験を受ける資格を得た

 結局免許証は身分証になり

 運転は出来ないが

 折に触れ茅野を思い出してはいた


 合わない仕事を辞めて

 故郷に戻り

 また茅野に行きたいと思って

 時が流れた

 周りの景色が少しずつ変わり

 けれど心は成長せず

 人との関わりは苦手なままで



 久しぶりに旅をした

 住んでいる盆地を離れて

 トンネルを抜けて

 茅野へ行った

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