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完璧すぎる女


「あ、天音さん!」


 俺は泣きすがるような想いで彼女のことを見つめる。


「葵さんお待たせしました」


 天音さんは優雅な動きで頭を下げてきた。


「あん、なんだよアンタ?私らが先に声をかけたんだけど」


「なんだよはこっちのセリフです。今の私たちの会話から前もって待ち合わせをしてたことぐらい分かりますよね?」


 流石は小藤相手にも臆さなかっただけはある。

 イカつく敵意を剥き出しにしている彼女たちに対しても一歩も引く様子がない。


「は?、黙れよ。ちょっとツラ良いからって調子にのんな。

私たちとヤろうってか?」


「別に構いませんよ。負ける気はありませんし」


 いやいや、流石に少し煽りすぎじゃないか?

 ギャルな彼女達も挑戦的な態度の天音さんに引き際を失ってしまっている。


「へぇ、いいじゃん、やってやんよ」


 しだいにヒートアップしていき、ついに女の一人が天音さんに手を伸ばした。


 マズイっ!

 俺は咄嗟にビビりながらもギャル達と天音さんの間に割り込もうとした。

 しかし、それを天音さん本人に遮られてしまう。


「えっ?」


「葵さん、私なら大丈夫です。お気遣いありがとうございます。でもこういう相手には受け身じゃ長引くだけですから」


 あっ、はい……さいですか。


 天音さんは伸ばしてきた女の手をはたくと、ニコリとこちらを安心させるように笑いかけてくれた。


「テメっ!」


 そんな天音さんを見てギャル達は今度は拳で襲いかかる。


 いやいやグーはないでしょ、再び間に割り込もうかと悩んだのだが、天音さんの表情からしても助けを求めてはなさそうだ。


 俺は結局、呆然と立ち尽くすことを選択してしまった。


 だが、俺のそんな心配をよそに天音さんは全ての攻撃を簡単にいなして、一発もパンチを受けることはなかった。


 いや、どうなってんのコレ……

 ちょっと天音さんのスペック、限界突破しすぎじゃねーか?


 その様子にギャル達も驚きの表情を隠すことができない。

 完全に攻撃を見切り、圧倒的な回避技術を見せる天音さんを前に顔が引き攣っている。


「クソッ、なんで当たんないのよ」


「まだやりますか?、私はいつでも相手になりますよ」


 余裕だな……

 ここまでくると、もうなんか惚れ惚れしちゃう。

 男に守られてキュンときちゃう女子の気持ちが痛いほど分かってしまった。


 でも、今回に至っては逆なんだけどね。


 まぁ、そこはいいか。

 とにかくカッコよすぎだろ。


「チッ、覚えてろよ」


 ギャル達はどこの悪役だよ、みたいな感じの言葉を最後に、姿を消していった。




「天音さん、さっきはありがとうございました」


「いえいえ、寧ろ大事にしちゃってすみません。もう少し穏便に済ませる方法があるのにも関わらず……ちょっと冷静じゃなかっです」


 てか、穏便に済ませる方法あったのかよ。

 内心ではそんなことを思ってしまったが、俺が言葉にすることはなかった。

 もちろん出来ればそっちのやり方をとって欲しいとは思っている。

 でも天音さんと喧嘩になったら十中八九負けるからな……だってさっきの動き見てみろよ。絶対素人のそれじゃなかったぞ。

 そもそも喧嘩になる訳がないけど。


 喧嘩思考といえば東雲のものがうつってしまったのかもしれないな。


「でも、ホントに助かりました。こういうの初めてでかなりパニック状態になってましたから、天音さんが来てくれなかったらと思うとゾッとしますよ」


 天音さんは俺が初めてと言った辺りで、何故だかかなり驚いた表情をしていた。

 

「そういえば、天音さんって何か武道をされてました?」


「あっ、はい、武道といえるほど立派なものではないですが、一応小さな頃に合気道をしてました」


 道理で受け流しが上手いと感じたわけだ。

 素であれだと逆に怖いわ。


「やっぱりそうなんですね、とてもカッコ良かったです」


 女の子に対して使う言葉としてはどうなのだろうと思いつつもそんなことを言ってしまったのだが、天音さんが嫌がってる様子がなかったので一安心だ。


 それにしても、天音さんの出来ないこととは?


「葵さん、何ぼーっと考えてるんですか?、映画行きますよ!」


 まっ、いっか。そのうち見つかるかもな……


「分かりました、すぐ行きます」

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