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救世主は唐突に


「へぇ、それで連絡先を交換してきたと?」


「はい……」


「碧、貴方馬鹿じゃないの?」


「返す言葉もありません」


 天音さんも映画を観に行く約束をした俺は、その帰り際に彼女と電話番号を交換していた。

 それはメッセージアプリだと名前が碧になってしまっている為と考えて、咄嗟の判断でのことだ。


 今どき携帯の番号となると少し珍しいが、まぁ、そこは何とか怪しまれないように済ませたと思っていたのだが……


 よくよく考えると、葵として出かける度に髪をセットしないといけない訳だ。

 もちろん、そんなセット技術は俺にはない。

 何せ今までに一度もしたことないからな。


「姉さん、頼む。明後日の朝、髪の毛をセットして下さい!」


 俺は地面に頭をつけて頼み込んだ。


「いやいや、ちょっとは自分で努力しなさいよ」


「それはだな、流石に一度も自分でセットしたことのない俺が明後日までにマスターするのは無理が……」


「あのね、私も男の人の髪の毛なんてセットしたことないし、それに茜さんみたいに上手くは出来ないからね」


「でも、俺がやるよりかは何倍もマシだ。ホントに頼む!」



⌘⌘⌘


 ってなわけで、髪をセットして頂きました。


 はい、バッチリときまっております。


 姉さんは上手く出来ないと言っていたが、十分は見れるまでになっていた。

 ついでに服装も選んでもらって見た感じは爽やかな青年と言えるだろう。


 でも、葵としての活動は出来る限り避けたいものだ。


 にしても映画か……何年ぶりだろうか。

 ホントに小さい頃しか行った記憶がないや。


「まさかの雪ちゃんと碧がデートとか……想像してなかったわ」


「デートじゃねーし」


「いや、どう考えてもデートでしょ、でもあの雪ちゃんがそんな積極的に行動するとはね。意外ね……」


「だから違うっての」


 まぁ、そこは俺も予想外だったけどね。

 モデルとしての天音さんは本当に学校の時とは雰囲気が違っている。


「でも、碧の何処に魅力を感じたのかしら。やっぱり顔かしら?」


「もう、そんな冗談言わなくていいから、とにかく行ってきます」


「あっ、もう少し顔を隠していきなさいよ。貴方、一応有名人なんだから、それに別の意味でも……」


 なんていう姉さんの独り言を最後に俺は家を出た。


 そこまでしなくて大丈夫だろ、今日はメイクとかしてるわけじゃないし。

 それに、見れるまでにはなってるとはいえ、ミュージックビデオに映ってた時とは少し雰囲気も違うからな。


 あと姉さんはいろいろと言っているが、うん、これは別にデートなんかじゃない。

 俺は決して勘違いなんかしないから!


 それから数十分間ほど歩いていると、やたらと俺の方に視線が集まっているような気がしてならなかった。


 気のせいだといいんだけど……


 やっぱり姉さんの助言を聞いておくべきだったか?


 暫くして、天音さんとの集合場所付近までやってきた時、いかにもチャラそうな女3人組がこちらへと寄ってきた。


 な、なんだ?

 もしかしたらと、後ろを振り返ってみても彼女達が寄ってくるに値するものは見つけられない。

 やっぱり俺に用があるのか?


 なんか東雲よりもチャラいし、すんげぇ怖いんだけど。

 

「あのさ君、もし良かったら私たちと一緒に遊ばない?」


「えっ、俺ですか?

 いや、そんな金持ってないんですけど……」


 お金を出せとか要求されても、ホントに出せるお金なんて少ししかない。

 ここは出来る限り穏便に済ませたいところだ。


「別にそれはいいっての、足りない分は私たちが出したげるから」


 は?、どういうこと?


 まさか、お金がない分、ストレス発散道具として遊ばせろということか!?

 ヤバい……全力で逃げたら助かるかな。


「あの、すみません。彼になんか用ですか?」


 そんな時、天音さんが救世主のごとくこの場に現れた。

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