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意気投合


「あっ、いや、その……

 ねえ—— 玲奈さんから聞いてたんです」


 あっぶね〜、危うくボロ出しそうになった。

 ホントいろんなとこに地雷が転がってやがる。それに俺は嘘をつくのがあまり得意ではない。

 つまりは嘘なんてつくもんじゃないということなのだろう。

 

「そっか、やっぱり玲奈さんとは仲が良いんですね」


「……そーかもしれないです」


 個人情報を聞いてる時点でマナー違反だろうし、なんか申し訳なくなるな。

 アハハハ、もう、とりあえずそういうことでいいや。

 

「そうですか、それで私の趣味でしたよね?」


「あっ、はい、休日とか何してるんですか?」

 

「基本的にはファッション雑誌を読んだり、ドラマを見たりしてますかね。カフェにもよく行きますよ」


 まぁ、一人ですけど……

 天音さんは少し恥ずかしそうに最後にそう付け加えた。


 孤高タイプの天音さんは一人の方が気楽なのだと思っていたが、決して思うところがないわけじゃなさそうだ。

 もしかすると、意外と誰かと何かをするのも嫌いじゃないのかもしれない。

 今のクラスだから天音さんは人を寄せ付けないだけ、俺たちと一緒に食事をしてることからもそんな気がしてくる。


「そうなんですね、大体想像してた通りです」


 それにしても趣味が180度違うな。

 あっ、でも俺もドラマは一応みるから150度ぐらいにはなったかもしれない


「葵さんの私に対してのイメージってどんな感じなんですか?」


 天音さんのイメージか……

 まず、勉強は学年トップクラスだろ。毎回のテスト上位者のところに名前が載っている。運動神経の良さに関してはこの前の体育祭で十分に思い知らされた。

 それに料理も出来て、容姿も男が二度見する程の美女だ。


 いや、改めて思うけど非の打ち所がなさ過ぎる。


「……完璧超人とかですかね」


「えっ!?、完璧超人……って、私はそんな大した存在じゃないですよ」


「そんなことないです、天音さんはホントに俺なんかじゃ比べものにならないくらい凄い人ですよ。

 男性にとっては理想ですし、女性から見ても憧れの的だと思います」


「そんな……、あの、もしかして私のこと口説いてます?」


 天音さんは少し目を細めてそんなことを聞いてきた。


「いやいや、別にそんなつもりはないです。これは俺の本心からの言葉ですから」


 俺が天音さんを口説く!?、なんの冗談ですかい?

 そんな度胸もなければ、口説く為の技術もありません。


「……それは、葵さんから見ても私は理想の女性だということですよね?」


「はい、それはもちろん!、天音さんのような芯の通った人は俺の憧れですし、もう文句の付けようがないです」


 何か夢中になれることがあるって本当に羨ましい。


「それに——「あっあの、もういいです。この話はここまでにしましょう」」


 顔を赤くした天音さんが少し強めの口調で俺の言葉を遮った。


 やべっ、怒らせちゃったか?


 それから暫くの間、会話がなくなりお互いにご飯を口に運ぶだけの時間が続いていた。

 恐らくモテる男子ならこんな沈黙を甘い言葉や面白い話で消し飛ばしてしまうんだろうな……


 だが、もちろん俺にそんなスキルはない。


 俺がこの微妙な空気に耐えられているのは、このお店の雰囲気が大きいと思う。

 居心地が良いから少しだけ緩和されてる気がするのだ。


 まぁ、それでも気まずいのは余り変わりないんだけど……


 いつも一緒に食事はしてるけど、隣には東雲が居るから殆ど会話に困ることはなかった。

 ああ東雲、やっぱお前スゲェよ。


 天音さんとよく言い争いにはなっているが……


 それに天音さんのことをまったく知らない他人として話すの、滅茶苦茶疲れるんだよ。

 これなら、まだ碧として接していた方が今より断然マシだった。


 天音さんも少し気まずそうにしながら口を動かしていた。


 ここは男として何か話題を……

 あっ、そうだ。確かドラマをよく見てるって言ってたよな。


「天音さんって、バイアスというドラマ見てたりします?」


 かなり唐突な質問になってしまったが、それはもう仕方ない。


「えっ、知ってます!バイアス、あれ滅茶苦茶面白いですよね!葵さんも見てるんですか?」


 予想以上の天音さんの食いつきに気圧されながらも、俺はホッと息を吐き出した。

 良かった何とか繋がった。


「はい、結構あんな感じの医療ドラマ的なのが好きで、ちょくちょく観てます」


「そうなんですね、でしたら少し前に放送してた。命のリスペクトってドラマも観てました?」


「命のリスペクト、もちろん観てました!

 あれはもう最高ですよね。あの普段はかなり情けない主人公が、ピンチになった時にもの凄い実力を発揮するところとか好きなんですよ。それに幼馴染とのやり取りも面白くて……」


「分かります!、毎回、もうくっついちゃえ!なんて思いながら観てるですけど、なかなか進展しませんよね」


 最初は少しでもこの場が盛り上がったらなんてつもりで喋っていたのだが、想像以上にドラマのことでの会話が楽しくて、先程までの重たい空気のことなんて完全に忘れてしまっていた。

 それから30分間は話題が途絶えることはなかった。


「そういえば命のリスペクト、また今度映画するみたいですよ」


「えっ、ホントですか!?」


 俺は直ぐに携帯で調べてみる。

 うわっ、ホントだ。公開日は明後日じゃねーか……


「めっちゃ観たい……」


 命をリスペクト、かなり好きだったんだよな。今まで観てきた医療系ドラマの中でトップ3は堅い。

 それくらい俺がハマったドラマなのだ。


「あの、もし良かったら、一緒に観に行きませんか?」


「えっ?」


 まさか、映画の誘いを受けることになるなんて思っていなかった俺は驚きの余り固まってしまった。


「べ、別に無理して来てもらう必要はありませんから。その、忘れて下さい」


「いえ、全然嫌じゃないです。寧ろ俺なんかが一緒で大丈夫ですか?」


「はい!、結構一人ですることが多いんですけど、未だに映画は一人で行けなくて……

 なので一緒に行って貰えると助かります」


 こうして天音さんとの映画が決まった。

 しかも、予定はまさかの公開日である明後日だった。

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