理解不能
送られてきた位置情報の場所までやってきたはいいが……
何処だよここ?
全然定食屋じゃないんだけど。
「碧、こっちよ!」
大きなビルの前で手招きをしていた姉さんに連れられて俺はそのビルの中に入っていく。
「姉さん、これはどういうことだよ」
「ここで説明してる暇はないから、とりあえず私について来て」
それから姉さんに連れられること数分、妙にデカい鏡の設置された部屋に連れてこられた。
あれ?、そう言えば、前にきたメイク室もこんなとこだったような……
「その方が、真堕君の代わりですか?」
長身で長い茶髪の女性が俺の姿を見て、少し不安そうな顔を浮かべた。
なんで初対面の人間にそんな表情されなきゃいけないんだよ。
いやいや、それにマダ君て誰だよ。
「うん、こんな見た目だけど整えればそれなりにはなるから大丈夫!それじゃあアカネちゃん、軽くでいいからメイクと髪のセットの方はお願いね。
私は少し現場の様子見てから戻ってくるから」
「あっ、ちょっと姉さん!」
とりあえず話が聞きたい。
「あら、もしかして玲奈さんの弟さんだったの?」
「はい、そうですけど、これどう言う状況ですか?」
メイクにセットって、俺、マジで何やらされるワケ?
「えっ、貴方何も聞かされてないの?」
「はい……」
俺がそう答えると姉さんにアカネちゃんと呼ばれていた女性は呆然としてから頭を抱えた。
「うー、もう、玲奈さんったら」
「ちなみに貴方は誰ですか?」
「レイナさんのメイク担当の古都茜です」
「えっ、姉さん担当!?」
もう、俺の頭の中はパンク寸前だった。
「……ホント何も聞かされてないんですね。これはちょっと玲奈さんにはドン引きです。
でも、まぁ、申し訳ないんですけど、時間が余りないので兎に角じっとしていて下さいね」
古都さんも少し困り果てた顔をしていた為、俺はもう黙って頷くしかなかった。
もう、いい。どうにでもなりやがれ!
それから古都さんが俺の髪を上げると息を呑む声が聞こえてきた。
ああ、町丘さんお墨付きの残念フェイスが露わになってしまったのか……
それで古都さんはというと、目に力がこもって先ほど以上に集中し始めていた。
「時間が30分しかないのがホント惜しいわ……」
そんなことを呟きながら作業を進めている。
30分じゃどうしようもない顔ってか?、なんか遠回しにディスられた気分になった。
「えっ!?」
それで古都さんの言う30分が経過しようとしたそんな時、彼女が突然驚いた声を上げる。
「あの、どうかしたんですか?」
「あっ、いや、もしかして貴方、RoeleのPVに出てた男性の方ですか?」
うげっ、バレた……
どうしよう、なんて答えるべきなんだ?
「い、いえ、人違い「そうよ!」」
姉さん!?
いつの間にか戻ってきていた姉が隠すことなく肯定した。
「大丈夫、安心してアカネちゃんは私の信頼してる人だから。バラすようなことは絶対にしないわ」
「やっぱり!、それにしても実物は動画よりも凄いですね」
「まぁ、なんたって私の弟だからね」
姉さんと古都さんがそんな会話をしていたが、既に俺の頭の中には入ってきていなかった。
それよりも、それよりも……
「姉さんごめん、流石にいろいろと説明して欲しいんだけど……」
我慢の限界だった。
すると姉さんは俺が本気で困っていることを感じとったのか、真面目な表情になってから頭を下げた。
「ごめん碧、かなり強引過ぎたとは思ってる」
姉さんが意外と正常な感性を持っていて少し安心する。
だよね、強引もいいところだ。姉さんじゃなきゃ間違いなくキレてたから……
それから姉さんはポツポツとこの状況を説明し始めたのだった。




