トラブルと代役 〜side 雪
撮影日当日……
私はいつもより気合いを入れて服選びをしてから家を出た。
しかし、撮影の時に着る服は向こうから提供されたものになるので正直、あまり関係はない。
「あっ、玲奈さんおはようございます!」
「おはよ、雪ちゃん。今日は頑張ってね」
「はい!」
それから撮影現場に到着すると、関係者の方々に挨拶してまわった。
ふぅ、緊張するわ……
そんな時、現場の方が少しざわつき始めた。
何かあったのかな?
「あの、天音さん少しいいですか?」
安藤さん!?
「はい、なんでしょうか?」
「実はですね、今日ここに来る予定だった真堕君が体調不良で来れなくなってしまったみたいで……」
「あの、じゃあ今回の撮影はどうなるんでしょうか?」
「代わりの人がいない以上、天音さんには申し訳ありませんが、中止とさせて頂くしか……」
「嘘……、でしたらまた別の日に」
「実はかなり期限が迫っていまして、再度日程を調整するとなればかなり難しいんです。ですので、今後どうするのかは一度話し合ってみないと分かりません。
その話し合いの結果をまた後日連絡させて頂きます」
今回の話が完全になくなったという訳ではなさそうだったが、どうなるのか分からないということは、私の出番がなくなる可能性も十分にあるということ。
ああ、せっかくのチャンスが……
玲奈さんがいろいろと協力してくれて、やっと手元まで近づいていた私の夢は予想外の事態によって儚く消えてしまった。
「あの、安藤さん少しいいですか?」
気持ちが沈みかけていたそんな時、玲奈さんが私たちの会話に割り込んでくる。
「玲奈さん……」
「大丈夫!安心して、雪ちゃんのせっかくのチャンスは無駄になんかさせないから」
「でも、真墮君が体調不良じゃどうしようもなくないですか?」
「まぁ、いいからいいから」
玲奈さんは私に向かって笑いかけてくれた後、安藤さんの方を向いた。
「玲奈さんなんでしょう?」
安藤さんが少し意外そうな顔をしながらそう尋ねる。
「今日来れなくなった真堕君の代わりがいたら大丈夫なんですよね?」
「それはそうですけど、玲奈さんもよくご存じの通り、単にそこら辺にいる男性を連れてこればいいってもんじゃありませんよ。
他のモデルさんを探すにしても都合がつくかは分かりませんし、真堕君くらいの容姿と知名度がないと厳しいです」
玲奈さんの提案に安藤さんは首を縦に振らなかった。でもそれも仕方ない話だと思う。
安藤さんにとって、雑誌を売ることが仕事なのだから誰でもいいわけがないのだ。
「それなら、大丈夫じゃないかしら。
私の知り合いに、その条件を満たす男性が居ます。容姿はもちろん、知名度に関しても、最近はかなりのものだと思いますよ」
「それは何処の誰でしょうか?
それにその人の都合が合うかは分かりませんし、許可して貰えるかも分かりませんよ」
「そこも問題ありません。その知り合いの予定は私もある程度把握してますから。
今から連絡したら1時間ほどでここに来れると思いますよ。何処の誰なのかは来てからのお楽しみにしといて下さい。絶対に後悔はさせませんから」
玲奈さんが引き下がらないことを悟った安藤さんは少し深いため息をついてから、ヤレヤレと言った表情になる。
「はぁ、分かりました。玲奈さんがそこまで言うなら一度来てもらって下さい。そこで私が見て最終的に判断をさせて頂きます」
「ありがとうございます!」
そう決まると、玲奈さんは直ぐにその誰かに電話し始めた。少し距離をとって会話をしていた為、何を話していたのかは分からなかったが、遠目から見ても玲奈さんはかなり砕けた表情をしていたように思う。
「雪ちゃん、撮影の準備しといてもいいわよ」
「あっ、はい。玲奈さん、何から何まで本当にありがとうございます……でもあそこまで言って大丈夫なんですか?」
正直、私の為に無理してるんじゃないかとも考えていた。
だから、もし今回のことで玲奈さんの評判が下がるような事態に陥るのだけは防がなければならない。
しかし、私の心配をよそに玲奈さんは自信有り気だった。
「いいのいいの、雪ちゃんの晴れ舞台を絶対に中止になんてさせないんだから」




