夢への第一歩 〜side 雪
雲一つない青空の下で、私は今日もカメラに向かってポーズをとる玲奈さんを見ていた。
いつ見ても綺麗な玲奈さん……でもなんでだろ?、今日の玲奈さんはいつもよりも仕事に集中出来ていないように感じる。
そして、休憩時間に入ると私は直ぐに玲奈さんの元へと駆け寄った。
「あの玲奈さん、どうかしましたか?」
「えっ!?」
「急にすみません、でも、いつもの玲奈さんと少し違う気がして……」
「あ……なるほどね。雪ちゃん、心配してくれてありがとう。
でも大丈夫、少し考えごとをしてただけだから。別に大したことじゃないのよ。
なんていうか、私の想像を軽く超えてくる出来事があっていろいろと混乱してたわ」
玲奈さんの想像を軽く超えた出来事?
この全てを見透かしているような玲奈さんをも、困らせるほどの出来事ってなんだろ?
多分だけど、普通に生活してるだけじゃ絶対に起こらないことだと思う。
「それより雪ちゃん、昨日安藤さんが急ぎの話があるから連絡欲しいって言ってたわよ。多分お仕事のお話じゃないかしら?」
「えっ、ホントですか!?」
安藤さんはファッション雑誌、アリウェストの責任者だった。アリウェストはリビティーアンほどの知名度はないが、それでも私にとってはまだまだ手の届かない存在だ。
めちゃくちゃ緊張するんだけど……
「雪ちゃんは時間があれば私の撮影に顔を出してくれてるし、そこで目に止まったんじゃないかな」
玲奈さんは今でこそ有名雑誌に頻繁に出ているが、もちろん玲奈さんにも私と同じような時期があったらしい。
その、売れて有名になるまでの期間はアリウェストにかなりお世話になっていた、という話を教えてもらった記憶があった。
その恩から玲奈さんは有名になった今でも時々、アリウェストの撮影に協力していた。先月だってアリウェストの仕事を請け負っている。
そして、その時にも私は勉強という名目で同行させて貰ったのだった。
玲奈さんはそんなわたしの行動を嫌がることなく受け入れてくれた。それどころか、自分の日程を私に教えてくれるのだ。
本当に感謝の言葉しか出てこないや……
私は早速、玲奈さんから教えて貰った電話番号に連絡をする。
プルルル、プルルルと2コール程鳴った後、『もしもし、どちら様ですか?』とそんな男性の声が聞こえてきた。
「あの、今回玲奈さんから紹介して頂きました、天音 雪です」
『あっ、玲奈さんと一緒にいた天音さんですか!?
申し遅れました。私はファッション雑誌アリウェストの安藤です。宜しくお願いします』
「こちらこそ宜しくお願いします」
そんな形で始まった安藤さんとの会話の内容は、やはり玲奈さんの予想通り仕事の話だった。
そして、それは私の予想を遥か斜め上に超えていく。
『実はですね、天音さんには来月のアリウェストの表紙を飾って頂きたく思っております』
えっ……
「っ、ホントですか!?
是非、是非お願いします!!」
『あっ、はい、こちらこそお願いします。実はこの前の玲奈さんの撮影の時に、天音さんを見かけて物凄く可能性を感じたんです。
ただ、今回の雑誌は女性向けではなく、男女の両方向けで考えておりますので、ペアの男性の方と一緒に撮影という形になるんですが大丈夫ですか?』
「はい、大丈夫です!」
そして、安藤さんから大まかな仕事の内容を教えて貰うと、最後にもう一度お礼の言葉を告げて今回の話し合いは終わった。
撮影日時はまさかの来週だった。急いで連絡してきて欲しいと言っていたが、ここまでとは……驚きだった。
そして、ペアとなる男性は真墮 裕之私よりも少し年上で、この業界ではそれなりに有名なモデルだ。
「雪ちゃん、どうだった?」
「玲奈さん、私、ついに表紙を飾れることになりました!」
そう言葉にした途端、嬉しさから涙が出てきそうになった。
「えっ、おめでとう!! そっか、雪ちゃんもついに表紙デビューかぁ……
私は雪ちゃんなら絶対に成功するって信じてたわ」
「玲奈さん、ホントにありがとうございます」
私は深く頭を下げた。
「雪ちゃん顔を上げて、これは雪ちゃんの努力した結果だから、私が感謝されることじゃないわ」
「そんなことないです、玲奈さんがいなきゃ私……絶対にここまで来れてませんでした」
私がそう言うと、玲奈さんは「嬉しいこと言ってくれるじゃない」と笑ってギュッと抱きしめてくれる。
そんな玲奈さんの温もりを感じた途端、遂に涙が溢れ出してしまった。
「……雪ちゃん、ホントにおめでとう。撮影の時は私も応援しに行くからね」
玲奈さんはそんな私の頭をヨシヨシと、優しく撫でてくれる。その優しさがまた嬉しくて、更に涙が出てきてしまった。
ああ、幸せだなぁ……




