恋の遠回り 〜side 音葉
仕事の都合で出かけていた私は、昼休みに歌織さんと近くの店でランチをしていた。
しかし、それどころではなくなってしまう。
「か、歌織さん!既読ついたのに碧から返事来ないんだけど、どうしよう!!
……私なんか変なメッセージ送っちゃったのかな。もしかして嫌われた!?」
嘘なんで!?、そんなの嫌!
それは私がトイレに行った際に、碧にメッセージを送ってから15分後のことだった。
食事を終えた私は返ってきているであろう、碧からのメッセージを楽しみにアプリを起動させたのだ。
しかし、私の予想に反して彼からのメッセージは来ていない。
確か既読がついたのは送ってからすぐのこと、こちらに戻ってくる際に、既読がついたのを確認できたからそれは間違いない。
だから既に返信があるものだと思っていた。
だが、現実は違う……彼とのトーク画面には私から送ったメッセージを最後に何もリアクションがなかったのだ。
電波が悪いのかと思って何度か画面を上に引っ張って更新を試みるも、状況は変わらない。
なっ、なんで返事してくれないの!?
つまり既に少なくとも10分以上が経過している。それなのにまだ返信が来ていない。
これは私にとって初めての経験だった。
だから、不安がどっと押し寄せてきて、居ても立っても居られなくなってしまった。
携帯も先ほどからメッセージ画面を開いた状態で待機し続けているのだが、一向にメッセージが届く様子がないのだ。
「分かったから、音ちゃん、ちょっと落ち着いて」
これは、いわゆる既読無視である。
まさか既読無視を碧から受けることになるなんて……
でも、このまま終わる訳にはいかない。
「ちょっと電話してみます」
「えっ!?ちょ、それは待って」
私がコールボタンをタップする直前で歌織さんに手を掴まれてしまった。
「なんで?、歌織さん邪魔しないで、これは私と碧の問題なんだから」
「いやいや、私に相談してきたの音ちゃんでしょ……」
「えっ、そうでしたっけ?」
そう言われればそんな気もしてきた。
正直なところ、少し混乱してて自分が何を言っていたのか覚えていない。
「んー、これは思ったより重症ですね」
歌織さんは軽く頭を押さえていた。
えっ、私そんなにヤバかったな?……
「あのね音ちゃん、碧君は今何してると思いますか?」
「何って……」
今は12時30分頃だから・・・
「私たちと同じようにお昼ご飯食べてたとか?」
「はい、恐らくですが私もそうだと思います!
でも音ちゃんとは違って、学校で昼食を食べてるはずですよね?」
「それがどうかしました?」
学校に行ってるならそれは普通だよね。
「恐らくですけど、碧君の周りには沢山の同級生達がいると思います。いくら、碧君の交友関係が狭いとしても、誰かと一緒に食べる可能性は十分にあると言ってるんです。
そうですね……例えば、1月程前に体育祭で会った東雲さんとかならありえますよね」
あの女と……一緒に食べてる?
その可能性は十分にあった。確かに碧に随分と馴れ馴れしく接していたアイツなら……
パキッ!
何かが割れたような音がした。
「お、音ちゃん、携帯の方から妙な音がしたけど大丈夫?」
「あっ、えっ?」
気がつくとプラスチック製の携帯のカバーが少し割れていた。
最近替えたばかりなのにもう寿命がきたのだろうか……
どうやらハズレを引いてしまったようだ。また新しいの買わないといけないな。
歌織さんの方を見てみると、少し引きつった顔をしていたのはきっと気のせいだろう。
「あの、分かってるとは思いますけど、これはあくまでも私の推測ですからね」
「分かってます」
「コホンッ……改めまして少し質問を変えますね、音ちゃんは今携帯を触ってます、そこで今、音ちゃんが食事中だとして、私が食事中に携帯を触るなと怒ったらどうしますか?」
「それはもちろん、直ぐに携帯を触るのを辞めますよ」
「そうですよね、普通は誰かに声を掛けられたら手を止めます。
だったらその時に音ちゃんが碧君に返信中だったとしたら?」
「それなら、トイレに行くとか嘘をついてメッセージを送ると思います」
「その通りで……って違うから!
何キョトンとした顔してるのよ。ホントに音ちゃんは碧君のことになると何に関しても馬鹿になりますよね」
馬鹿とは失礼な……ちょっとだけ自覚あるかもだけど。
「あの、この際だから言わせて貰いますけど、音ちゃん、最近碧君のこと少し避けてますよね?」
「っ————!!」
えっ、バレてたの!?
「分かりやす過ぎます」
「だ、だって、体育祭のあの時から、面と向かって話すのが妙に恥ずかしくて……
でもその分、連絡はこまめにとるようにしてます。昨日なんて2時間近く電話しました!」
「……それ多分逆効果になってると思いますよ」
えっ?
私の頭の中は一瞬にして真っ白になった。




