イケメンはどっちだ?
「ねっ、めっちゃ良かったでしょ!」
「まぁ、それなりにはね。なんか前のと曲の雰囲気変わってたし……結構好きかも」
天音さんは悔しそうに声を漏らした。
多分だけどよっぽど良かったのだろう。否定するつもりで聞いてみた筈が、否定する要素がなかった。そんな感じが滲み出ている。
「うん、やっぱりこれは神曲間違いなし!
多分だけど近いうちに再生数1億回ぐらいはいくんじゃない?」
いやいや、流石にそれは厳しいんじゃないか?
だが、音葉の楽曲は今までのものも、億はいかずとも、数千万回と再生されてきてるから、あり得ないこともないのかもしれない……
ちなみにその内の数十回は俺だ。
「それはともかく、このミュージックビデオの男性、見たことない人だけど誰だか知ってる?
私、結構テレビとか見たりしてて俳優とかはそれなりに知ってるつもりだったのに……全く分からないわ」
気がつけばまたしてもこの話題に切り替わった。注目されるということはこういうことなんだと改めて思わされる。
「いや、それが私も全然知らなくてさ、今ネットでも凄く話題になってるし、ちょっと凄すぎって感じ」
まぁ、そうなるだろな、何せそれは俺だからだ。
俳優でもなく、ただの少し根暗な一般高校生ですから……
「ちなみに、どんな風に話題になってるんだ?」
一応聞いておくことにした。
「謎のイケメン男子現れるとかかな。皆んな必死になって探してみたりしてるみたいだけど、兎に角情報がなさ過ぎてお手上げ状態って感じ。
正直Roele自体正体不明だから分かるわけないんだけど」
お、おう……
なんだか、メイクの力なだけに素直に喜べないな。
「そうよね……こんな人バイト先とかでも見たことないし、一体何処の誰なのかしら?」
天音さんは顎に手を当てて今までの記憶を思い出しているようだった。
「まぁ、流石に何処にでもあるような定食屋には来ないでしょ、来ても直ぐに分かりそうだし」
—— あっ……そういう設定だったわね ——
「ん?天音さん、なんか言ったか?」
俺は天音さんが小さく何かを呟いたような気がして声をかけてみた。
「いえ、なんでもないわ」
「でも、イケメンって言っても斗真の足元にも及ばないし、斗真の方が100倍カッコいいっての……」
「そうかしら?
私には彼の方がカッコよく見えるけど」
「いやいや、流石にそれはないだろ。
だってあの斗真だぞ!お、こんなやつより1万倍はカッコイイに決まってる」
気がつけば思わず天音さんの言葉に突っ込んでしまっていた。でも、それも仕方ないことだと思う。
だってそいつ、俺なんだよ……何処に斗真に勝てる要素があるっていうんだ?
それくらいは自分が一番分かってるつもりだ。
「……あっ、まぁ、うん、感性は人によってそれぞれだから、とにかく否定はしないわ」
天音さんはそんな俺の姿を見て少したじろいでいた。
それに対して東雲はよく言った!、みたいな顔をしている。
そんな時、俺のポケットに入っていたスマホが震えた。
すると、二人の視線がこちらへと集まってくる。
「ねぇ、だれから?
もしかしてあの女じゃない?」
恐らく天音さんは反射的にこっちを向いただけだが、東雲は違ったようだ。
少し怖い表情でそんなことを聞いてくる。
「さぁ、誰からだろな……」
俺は少しビビりながらも携帯の画面をつけた。
すると、東雲の言う通り音葉からだった。
『ねぇ碧、学校ではどんな感じ?
私たちのことで噂になってたりする?』
十中八九、今回の新曲のことだろう。
昨日の公開直前には、お互いに緊張するよなぁ、なんてことをかなりの間、電話していた。
音葉としても自信はあるみたいだったが、それでも緊張するのだと言っていた。
だから、周囲の反応が気になってたのだと思う。
音葉の方は何かと忙しくて学校の方には行けていないようだった。そんな理由もあってわざわざ俺に確認をしてきたのだろう。
凄い噂になってるから、朝からヒヤヒヤしております、と送ろうとしたところで、コチラを睨むように見つめていた東雲の姿が視界の片隅に映った。
返信は後にしておくか……
俺はさりげなく携帯をポケットにしまったのだった。




