響かない曲と響く曲
同日、昼休みにて俺は東雲と一緒に屋上に来ていた。
しかし、少し前までとは違うのはそこには天音 雪の姿もあるということだ。
「うへぇ、今日も来るんだ」
そんな彼女の姿を見かけた東雲は、複雑な表情を浮かべている。
「私が居たらダメかしら?」
「いや、そんなことないけど……」
ちょっと前までは俺たちからかなり距離をとった場所で食事をしていたのだが、今ではこうして近づいてきて俺たちと一緒に食事をしていた。
「ほい、天音」
俺がそうして渡したのは一つの弁当箱だった。
「ホントにいつも悪いわね……玲奈さんにまたお礼しとかなきゃいけないわ」
「そんな気にすることないって、姉さんも天音さんが喜んで食べてくれるなら是非って、自ら作り始めたんだし」
斗真との一件で協力して貰ったお礼として、一度だけのつもりで姉さんに弁当を頼んだ結果、どうしてか姉さんは毎日、天音さんの分まで作るようになっていた。
そのことを申し訳なく思っている天音は律儀なことに毎日姉さんにお礼の連絡をしているらしい。
姉さんに迷惑をかけていると思いながらも強く拒めないのはやはり定食屋とはいえ先輩の提案は断りにくいのかもしれない。
「んー、やっぱ玲奈さんの手料理はサイコーに美味しいわ!」
いや、違ったか……これは単純に食べたかっただけだな。
「ホントに私たちと食べてる理由が気に入らないんだけど……」
「別に私は碧君と食べることは嫌じゃないし、……もちろん好きって訳でもないけどね」
知ってますとも、そんな勘違いは致しません。
「その言い方も腹立つんだけど、一緒に食べたいなら素直にそう言えよ」
「誰も貴方には言ってないわ」
「くっ、このっ!」
火花をちらし始めた二人だったが、東雲は音葉の時もそうだったけど誰にでも突っかかっていくよな。
その天音さんの返しが酷いのも問題だけど。
普段から学校では一匹狼の人種だからな。
「まぁいいわ。
あっ……ってかさ、見た見た!?」
東雲は何かを思い出したように瞬間的に大きな声を出した。
「なんだよ急に?」「うるさいわね」
「だから、Roeleだっての!
新しい曲、マジでヤバイから一度聞いてみ!なんていうか、心の底から震えるっていうか、とにかくヤバいんだって」
東雲はあからさまにテンションを上げて、目を輝かせながら子供みたいにそう言った。
「いや、あの良さが分かるか東雲!
あの曲、本当にいい曲よな。サビのとことか思わず口ずさむくらいには好きだぞ!」
俺が東雲と同じテンションでそう言うと、天音さんはギョッとした表情で俺の方を見た。
天音、悪いが俺はその東雲の高いテンションについていける側の人間だからな。
「分かる分かる!
にしても、やっぱり碧は知ってたか……前も歌おうとしてたしね。滅茶苦茶音痴だけど」
「うっせぇな、練習したらマシにはなるから」
前はちょっとだけ調子悪かっただけだし。
初めてのカラオケだったしな。
そんな中、俺と東雲のハイテンションな姿を見ていた天音さんが口を開いた。
「あのさ、Roele自体は聞いたことあるし、私も知ってる曲がそれなりにあるけど、そんなに騒ぐほどなの?
確かに声とか結構好きだけど、曲が洗練され過ぎてる気がするのよね。だからあんまり心に響かないって感じかな」
「お、おう、そうか……」
あながち間違っていないその意見に少し動揺してしまった。
あの頃の音葉は、鈴菜さんの言う通りに音楽を作ってたからな。完璧になるまで、何回も作り直しを繰り返していたのだろう。
それが今回、天音さんにそういう印象を与えたのかもしれない。
「まっ、そんなこと言わずにさ、一回聞いてみ!ほら」
しかし、東雲は引き下がることなく自らの携帯を天音に押しつける。
天音さんは仕方なくそれを受け取って昨日、公開されたMVを視聴し始めた。
恐らく彼女の目には今、俺の姿が映ってることだろう。
今回は曲を聞くことがメインなのは知ってるけど、やはり微妙に恥ずかしい。
それから5分ほどかけて全てを聞いた後、彼女はボソリと呟いた。
「何よこれ……ズルいじゃない」




