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斗真と風花 ① 〜side 風花


 私は昼休みになるといつも通り、彼を誘いに行った。


 今やこれが習慣になってしまってる為、殆ど無意識下の行動だと思う。

 

「ねぇ碧、飯行こ!」


 しかし彼は少し躊躇いがちに答えた。

 

「悪い東雲、少しお腹が痛いんだわ。だから先に行って食べといてくれないか?」


 未だに名字呼びか……

 私が勝手に名前で呼び始めただけなのに、そんなことでちょっとした不満を覚えてしまう。


「分かったわ、なるべく早くしてよね」


 流石にそう言われてしまえば、仕方がなかった。

 私としては別に教室で待ってても良かったんだけど、こういうのは待たれる側が意外と嫌だからね。


 私は取り敢えず屋上に上がると、いつもと同じような場所で腰を下ろした。しかし、毎日彼と一緒に食事していたせいか、なんだか今日は少し落ち着かない。

 ホント僅かな間、居ないだけなのにな……


 碧がいつも私に居場所を作ってくれてたんだと、改めて感じさせられるひと時だった。

 

 よし、やっぱり弁当を食べるのくらいは待っておくか。

 別にそれならいいよね……

 そんな想いで待ち続けること数分、屋上の扉が開かれる。


「碧、意外に早かったじゃん」


 天音さんかもと、一瞬思ったのだが先に口にしてしまっていた。


「違う、俺だよ、……碧じゃなくてすまない」


「えっ!?」


 一瞬、何が起きたのか分からなかった。

 なんで、なんで?……

 私は今、幻を見てるのだろうか?


「と、斗真……どうして?」


 ホントに訳が分からない。

 私は彼の顔を真正面から見つめる。ああ、久しぶりだなぁ、こんなに斗真の顔をじっくりと見たのは……


 あの事件が起きた日から、私は彼の姿をさりげなく目で追うことはあっても、それは彼に気づかれないようにしていた。

 横顔を見る時もチラ見程度、米谷さんと楽しそうに喋ってる時も、クラスメイトに囲まれている時も私は遠くから眺めてるだけだった。


 やっぱり、カッコいい。

 

「風花、久しぶり。多分いろいろと混乱してると思うけど、最初に言わせて欲しい。

 あの時は、約束守れなくてゴメン。俺、風花の話をちゃんと聞くって言っておきながら嘘ついた」


 約束と言うのはおそらくあの日、後で私の話を聞くと言ったことだと思う。しかし、結局その約束が守られることはなく斗真との会話はなくなった。

 でも、そんなの全部私が悪いのに、なんで謝るのよ。


「違う、斗真は何も悪くない。あれば私がダメだっただけだから」


 しかし、彼は首を横に振った。


「それだけじゃない、それからのことだって……

 俺は風花がクラスメイトから無視され始めた時も何もしなかった。それってイジメに加担していたのと一緒だと思う」


 どこまでいっても斗真は自分を責め続ける。


「だから、違うっての……」


「でも、何度も風花に話しかけるタイミングはあったはずなんだ。なのに、俺は何もしなかった、だからこの通り謝らせてくれ」


 斗真は再び頭を深く下げた。

 許すとか許さない以前の問題だと思うんだけど。だって斗真はホントに何も悪くないんだから。

 けど、もし私が許すと言って彼の心が軽くなるなら……

 

「分かったわ、斗真からの謝罪はちゃんと受け取るしそもそも怒ってない。だから、気にしないで……

 それと、今度は私の方から斗真に謝らせて欲しい」


 斗真は顔を上げると静かに私の言葉を待った。


「斗真のこと騙していて本当にゴメンなさい。裏切ってゴメン、あの時の私は斗真の気持ちなんて一切考えてなかった。表面上は取り繕っていても自分が良ければそれでいいって考えてたんだと思う。

 それで斗真のこと凄く傷つけて、友達だって裏切った。最低で最低で最低な行為だったって今は反省してる。

 あれだけのことしておいて、今日はチャンスをくれてありがと……斗真、ホントにゴメンね」


 やっと謝れた……

 あの日以来私はずっとこの機会を探し続けていた。でも、怖くてなかなか踏み出せなかった。今の私は昔と変われてあるのだろうか? そんなことを考える度に不安になって、結局勇気を出せないままでいた。

 でも、それが今日やっと叶った。

 許して貰えるかは分からない。それでもずっと、ずっーと謝りたかった。


 謝っただけで心が少し軽くなる。

 気がつけば私は泣いていた。

 いつから、こんなに泣き虫になったんだっけ。最近は泣くことが多くなった気がする。

 

 斗真はそんな私を暫くの間、黙って見ていた。


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