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体育祭閉幕のその裏で 〜side 音葉


 それは碧の学校での体育祭からの帰り道のことだった。


「音ちゃん、分かってると思うけど勝負はここからだからね」


「勝負……なんのですか?」


 私は歌織さん対して聞き返してしまった。

 そして、この時歌織さんのスイッチがオンになる。


「なにを呑気なことを言ってるんですか!?

 音ちゃんは自分のおかれてる状況全く分かってないですよね」


「おかれてる状況?……」


 別に分かってないことはないと思うんだけど……

 碧のこと好きだって気持ちには気付けたし、東雲さんに対しての感情も嫉妬だったと答えは出た。


 それなのに私にまだ何を求める?


「音ちゃんのバカバカバカ、あんぽんたん!」


「か、歌織さん!?」


「あのね、音ちゃんの中では碧君が好き!で終わりなんですか?それ以上の関係とかは求めないの!?」


「いや、そんなことはないですけど……でも、いきなりはちょっと恥ずかしいというか、そんな感じです」


 もちろん、私だって男女の関係には興味がある。

 それはともかく、自覚して直ぐに動くのはなんだか恥ずかしいし、怖いのだ。

 この想いを碧に告げた時、もし、彼の方から避けられでもしたら、今の私は完全に壊れてしまう。


 だから、ゆっくり考えながらタイミングを見極めようと思っていた。

 

「だから、それじゃ手遅れになっちゃいますって!

 音ちゃん、碧君を好きなのは音ちゃんだけじゃないかもしれないんですよ、本当にそのことを理解してますか?」


 碧のことを好きなのは私だけじゃない……

 その言葉を聞いた瞬間、真っ先に思い浮かべたのは碧とよく一緒にいた東雲さんの姿だった。


 そういえば東雲さん、やけに碧に近づいてたよね。

 もしかして、それって……


 私は突如、とてつもない焦燥感に襲われた。

 天音さんはともかく、東雲さんも碧のことが好きなんだ……

 そして、立場的に碧とよく接触できるのは、私ではなく東雲さんの方だった。

 

 つまり、アピールできる回数に差があるということ。


「それにね、碧君の素顔知ってるでしょ。

 もし、その顔がバレるようなことがあったらライバルは一人や二人どころじゃありません。

 おまけに音ちゃんのMVにも出場する訳ですから、音ちゃんにとってのライバルはどんどん増えてきますよ」


 あの、碧の顔は……

 間違いなく歌織さんの言う通りになってしまう。

 それは疑いようもなかった。


 私、呑気にしてる場合じゃないじゃない!


 だからと言って、これからどんな風に積極的になれば良いのかすら分からなかった。

 だって、何もかもが初めてなのだから。


「か、歌織さん、私どうしたら……」


 私はすがるような気持ちで歌織さんを見つめた。


「ふぅ、ようやくスタートラインにたてましたね。

 でも、安心して下さい。音ちゃんには最強の味方、この恋愛マスター 五十嵐 歌織が付いてますので!」


「歌織さん……彼氏居たんですね」


「い、いないわよ。イ・マ・は!」


 少し気まずい空気が流れてしまった。自称恋愛マスターともなれば勝手にいるもんだとばかり思っていたのは仕方がないことだと思う。


 つまり、これはちょっとした事故だ。


「でも、音ちゃんよりかはずっと、ずーっと経験はありますから」


「そうですよね……はい、頼りにしてます!」


 少し考えたあと、何も知らない私よりかは絶対に知ってることは多いという結論になり、私は歌織さんを頼ることを決意した。


「よし、そうとなれば、今からでも始めましょう」


「今からですか?」


「そうです、東雲さんは今のこの時間帯にでも碧君といるかもしれないんです。ウダウダなんてしてられません。

 初手として……音ちゃん、体育祭の最後の方に私が頼んで撮った写真がありますよね?」


「はい……一応ありますけど、これ私しか写ってませんし、ついでに帽子も被っちゃってますよ」


 自分としてもあまり写りが良くない気がしていた写真だった。そもそも想い出の一環として残すようにと写真を撮る指示を出してくれたのだとばかり思っていたが、違うのだろうか?


「構いません、音ちゃんしか写っていないのは寧ろ好都合です。それにこういう時の為にとって貰ったものですから」


「えっ、そうだったんですか!?」


「そうです!、音ちゃんが私を頼ってくることなんて容易に想像出来たことでしたから。

 まずその写真を、今日の体育祭の感想と一緒に碧君に送りましょう!当然ですけど、文章の方も送信する前に私に見せて下さいね。直せるところは直しますから」


「えっ……でも」 


 いきなりの展開に少し戸惑ってしまう。

 それに、あの写真を碧に見せるのはちょっと……もう少し、いや、もっと写りの良い写真はあるはずだ。


「つべこべ言わず、さっさとやる!」


「はっ、はい!」


 こうして私の恋活は唐突に始まったのだった。

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