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体育祭の閉幕


 俺は今、手洗い場で全身についた砂を洗い流していた。

 本音を言えば、今すぐに家に帰ってシャワーでも浴びたいぐらいだった。


 ああ、マジで痛って!、分かってたことだけど滅茶苦茶しみるんだけど……


 とりあえず簡単に洗い流せるとこだけ洗うと、後は少し濡らしたタオルで汚れを拭き取っていく。

 タオル、後もう2枚くらい持ってきたら良かったなぁ。


「はい、タオル」


「おお、マジで助かるわ。ありがと……って姉さん!?」


「それ以外に誰に見えるのよ」


 俺の背後からタオルを差し出してくれたのは相変わらず麦わら帽子にマスク姿の姉、玲奈だった。


 簡単に人の心を読みやがって。


 とりあえず俺は姉さんから有り難くタオルを借りて残りの部分を拭き取ることにした。


「もう、ホントに無茶しちゃって……」


「いやぁ、最初はいけると思ってたんだけどな」


「まぁ、誰よりも速く棒に触ってたのは碧だったからね。

 足を滑らせさえしなければ確実に一本取れてたでしょ」


 実際にその通りだった。

 俺は棒までの間を全力で走って1番に触れていた。しかし、あそこまでスピードを出したのが久しぶりだったこともあって、グランドがあんなに滑るとは想像してなかったのだ。


 っ、痛っ!


「ほら、タオル貸してみなさい」

 

 それから姉さんは俺からタオルを取り上げると俺の手の届かなかった部分を優しく拭いてくれた。


「姉さんありがとう」


「次からは女の子の前だからって調子に乗っちゃダメだからね」


「はい……」


 的外れな言葉でもないので素直に頷いた。だって美少女が見てたんだから、誰だってそうなるでしょ!

 結果的に大失敗だったワケなんだが……だが、やってしまったことはもう仕方ない。ここは開き直るしかないのだ。


「ほら、水でも飲んで」


 そう言って今度は水筒を渡されたので、こちらも有り難く頂戴することにする。


「何から何までホントに悪いな」


 いやぁ、やっぱり冷えた水は美味しい。体には余り良くないけどね……

 姉さんはそれが分かっていたのか、少し控えめに冷やしてくれているような気がする。


「それで、音葉ちゃんとは付き合ってるの?」


 ブーーッ!!


 2度目はお茶でなく水を吹き出した。

 コイツ、今俺が口に含んでいるのを確認してから言っただろ。絶対にわざとだ!


 それを証明するかのように、いつの間にか姉さんは俺が吹いた水がかからない位置まで移動していた。


「ホント、碧って分かりやすいわね。

 それじゃあ動揺してるのがバレバレよ」


「違うって、ホントに音葉とは普通の友達だ」


「うん、知ってる。それは音葉ちゃんの様子見てたらそれはすぐに分かったから。

 どちらかと言うと私が気になってたのは音葉ちゃんと歌織さんの関係の方よ。何かやり取りが不自然だったし、確か碧はあの時もお茶を吹いてたよね?」


 ああ、ダメだ……確実にバレてる。

 さっきから汗が止まらない。


 このままだと脱水症状になりそうだ。

 水分補給したばっかだけど!


「そ、そうだっけか?」


 俺はダメ元でとぼけてみる。

 流石に音葉について本当のことを話すのはいくら姉さんでも気が引けた。内容が内容なだけに、音葉本人かもしくは鈴菜さんの許可がいると思うのだ。

 姉さんは信用しているが、それで広まってでもしまえば俺には責任は取れない。


 だから、もし問い詰められることになっても、決して答えるつもりはなかった。


「……まぁ、いいわ。これ以上は詮索しないであげる。何か聞いて欲しくなさそうな事情がありそうだし。

 とりあえず、あの二人は姉妹、そう思っておくことにするわ」

 

 すると、意外にも姉さんは手を引いてくれた。


「助かるよ……」


 俺がそう答えると姉さん少し呆れた表情で「正直過ぎるのも考えものね」と言ったのだった。



 それから1時間ほどかけてそれぞれの競技が終わりを迎え、ついに待ちに待った結果発表の時間になった。


 俺たち2組を含めた生徒達は少しドキドキしながら結果発表を聞いている。

 当然のことだが学年によって競技が違うので、学年ごとの順位が出ることになっていた。

 まずは一年から、放送部の生徒が優勝から最下位のクラスまでの順位を包み隠すことなく公表していく。


 最下位まで言うのは少し残酷な気持するが、まぁ、今回は俺たちのクラスには関係ないことだ。

 全競技を見ていた人ならば、大まかな順位は分かるからな。


 俺の予想では優勝、もしくは準優勝辺りだと思う。

 斗真に天音さんと、運動能力の高い生徒が多かったからな。そして、俺の相方を務めていた東雲も殆どの競技で上位を獲得していた。


 ちなみにだが、去年の順位は既に覚えていない。

 なにせ、体育祭自体に興味がなかったからだ。しかし、今年はそんな俺も、俺たち2組が優勝することを少しだけ期待をしている。


 きっとそれは真剣に取り組んだからだと思う。

 そのお陰で体育際は予想以上に楽しかった。

 

 そして一年のものが終わると、続いて俺たち2年の結果発表に移った。


『2年の部、優勝、——2年3組。準優勝2年2組……』


 残念ながら惜しくも、準優勝という形に終わった。

 どうやら大縄跳びとかの団体競技が少し足を引っ張ってしまったようだった。


「ああ、我らの焼肉が……」

 隣でガッカリそうな声を漏らした中山君。

 だが、中山……君は考えるまでもなく、足を引っ張った側だからね。大縄跳びとか3回目で引っ掛かっていたじゃないか。


 外から見ていると分かりやすかったこともあって俺は見逃さなかった。


 まぁこれで、ひとまず高級焼肉店はお預けだな……


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