作戦なんて知らねぇ
斗真達がリレーから帰ってくると、大勢のクラスメイト達にすぐ囲まれてしまった。
この時ばかりはいつも人を避けている天音さんも例外なく動きを封じられてしまう。彼女に集まっているのは主に男子なのが少しキモいが……
それにしても斗真にタオルでも渡そうと思ってたんだがな、これじゃ無理か。
俺はタオルを片手に立ち尽くしていた。
「おっ、良いところでタオル持ってきてくれてんじゃん」
そんな時、手を濡らした状態の東雲がこちらに寄ってきて俺のタオルで手を拭こうとしてくる。
「って、おい止めろよ!それは流石に違うだろ」
「ったく、冗談だって……」
東雲はそう言いながらポケットからハンカチを取り出して濡れていた手を軽く拭いてしまう。
「何か、失恋した乙女のような表情してたから慰めてあげようと思っただけだし」
俺がいつそんな表情をしてたって言うんだよ。
「なんだ、お前のその両目は飾りか?」
「んー、違うって。カラコンがズレて見えにくかったの」
そう言って少し黄色みの帯びた眼球を見せられる。
そんな馬鹿な話があると思いますか?いいえありません。
まさか、ボケて返してくるとは、東雲のやつも腕を上げたな。
……にしてもカラコンって随分と派手なもんだな、後で先生バレて怒られてくるといい。
「ふぅ、それで何のようだ?」
近づいて来たからには理由があるはずだ。
「特に用がある訳じゃないんだけど……やっぱ斗真ってちょーかっこいいよね」
「ああ、そうだな。ちょっと凄すぎて怖いくらいだ」
もしかして、コイツさっきの感動を誰かと共有したくて俺に喋りかけているのか?
まぁ、好きな人の大活躍だもんな、興奮して当たり前か。
「うん、ホントにね……私とじゃ絶対に釣り合わない」
東雲の顔色が少し暗くなる。
「まぁ、そんな卑下するようなことでもないさ。そう言うのって釣り合う釣り合わないじゃなくて、大切なのはお互いの気持ちだろ?」
「そうかもだけど……それに・・・ってなんでアンタなんかに励まされないといけないワケ!?
恋愛経験ゼロのクセに!」
くっ、痛いとこを突いて来やがる。
「別に大切なのは数字じゃない」
「じゃあなんなのよ?」
「……いや、それは分からん」
すると予想通りグーパンチが飛んできたので、俺はそれを片手で受け止め……られなかった。
東雲は1度フェイントをかけてから俺の腹を殴った。
—— グハッ ——
うっ、痛え。
本当にコイツは手加減というものも知らないのだろうか?
これで俺の身体に後遺症でも残ってみろ、絶対に訴えてやる。
「それより、……あ、碧、もう少しで棒引きだけどこんなとこに居て大丈夫なのか?」
恥ずかしいなら名前呼び止めとけよ。
とも思ったが、もちろん本人には伝えない。
そう、大事なのは気付かないフリをすること、これが思いやりってやつなんだと思う。
「そういえばそうだったな。んじゃそろそろ行ってくるわ」
「まぁ、その、あれな……頑張んなよ」
東雲は少しモジモジしながら俺にそう言ってくる。
なんだよ、急に照れたりなんかしやがって……
俺は普段の東雲からのギャップ差で、可愛いと思ってしまった。
調子狂うな。
まぁ、応援されたからにはそれに応えるしかない。
「おう、任せとけ。棒の一本や二本、余裕でとってきてやる」
俺だって頑張れば斗真の半分くらいなら活躍出来るはずだ。
音葉も姉さんも何処かで見てるはずなんだから、少しくらいカッコいい姿を是非とも見せたい。
ヨシっ!
俺は自分自身に気合いを入れて戦場へと向かったのだった。
⌘
「ちょっとアンタ大丈夫なわけ?」
「いや、もうダメだ……」
うう、身体中が痛い。もう棒引きなんてクソくらえだ。
「引っ張られた時、手を離したら良かったのに。あの人数差じゃ誰でも無理だって」
ホントにおっしゃる通りだと思います。
「でも、一番端の棒は元から捨てる予定だったなんて、そんなの聞いてなかったんだ」
まさか、クラスでそんな作戦を立ててたなんて思いもしなかった。
そのせいで俺は、たった一人で複数人相手と棒を取り合うことになったのだ。そして、結果的に引きずられまくった挙句血まみれになったのが今の現状だった。
まぁ、話し合いとかにまったく参加してなかった俺が悪いんだけど。
「東雲ごめん、ちょっと色々と洗ってくるわ」
「了解、……ホント、何が余裕なのよ」
返す言葉がねぇ。過去の俺は何をほざいていたのやら。
とりあえず俺は、自分の席へと戻らずにそのまま手洗い場へと向かうのだった。
作品名変えるかもしれません




