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それぞれの帰るべき原点


 嵐のような昼食が過ぎ去ると、ようやく静けさが……戻ってくることはなかった。


「ちょっと、律真。アンタどういうことよ?」


 音葉達と別れた後、鬼のような表情で東雲が迫ってきたのだった。


「何がだよ?」


「だから、あの音葉って女のことよ。一体アンタとどう言う関係なわけ?」


「どう言う関係って普通に友達なだけだ」


 俺は事実を伝えるもの東雲は納得する様子がなかった。


「嘘つくなって、ただの友達がわざわざ他校の体育祭見に来るわけがないじゃん。体育祭なんて基本的にどこも変わらないんだし」


 うん、俺もそう思う。

 音葉が特殊な立場であることを知らないのであれば尚更だ。

 

「そう言われてもなぁ、音葉が見にきたいって言ってきたからとしか……」


「名前呼び!?

 もしかしてアンタ達付き合ってるの?」


 そんな恐れ多いこと言うなって、相手は有名人だぞ。しかもあのリミーの社長令嬢でもある。

 あれ?、改めて思うとホントに俺なんかが友達でいいわけ?


「……ホントに友達なだけだって、親しい間柄なら別に可笑しいことでもないだろ?

 お前と斗真だってそうじゃないのか?」


「そうだけど……

 ふぅ、分かったわ、そこは信じてあげる」


「そりゃどうも」


 なんで上から目線なんだよ。それに俺がもし音葉と付き合えたとして、東雲に何の問題があるんだか。

 ……あっ!、もしかしてそれが原因で俺に相手されなくなるのを怖がってるんだな。

 意外に可愛いとこあるんだな。


「だから、そのお詫びに連絡先交換して」


「はぁ?」


 どうやったらそこに着地することになんだよ。


「も、もしかして嫌だった?」


 そんなしおらしい声出すなって、ちょっと驚いてただけだから。

 だってテニス試合でいきなりバドミントンのラケット持って来られたら誰だって驚くはずだろ。

 今の東雲の話にはそれくらい脈絡がなかった。


「いや、大丈夫、本当に全然嫌じゃないから。寧ろこっちからお願いしようと思ってた」


「あっ、そうなんだ……良かった。ほら携帯貸してみ。どうせやり方分かんないだろ?」


 そう言って東雲はさりげなく俺の携帯に手を伸ばした。

 しかし、俺は反射的にそれを避ける。


「やだよ、流石に分かるから。

 だってこれだろ!」


 俺はそうやって彼女にQRコードを見せつけた。


「チッ!」


 嫌、なんで舌打ち!?


 実のところを言うと俺も友達?、として東雲とは連絡先を交換しておきたいと思っていたところだった。

 でも、俺から言うのはなんだか斗真に悪い気がして、なかなか言い出せなかったのだ。

 

 それに、これからの東雲は俺から離れていく運命にある。


 斗真と仲直りさせる。そして、彼女は斗真の助力を得ながら徐々に他の生徒達との関係も改善していくことだろう。

 すると東雲も自然に自分のいるべき場所へと帰っていくことになるはずだ。


 今思うともともと、俺たちは相反する存在なのだった。

 まさに油と水の関係だな。


 無理やりかき混ぜられて一瞬、混ざり込んだかのように見えたものが、その手を止めるとすぐに分離してしまう。


 だから、当然のこと。


 もうすぐ、ようやく俺の望んでいた静かな学校生活が戻ってくるだけの話。

 だから何も悲観することはない。


 ……それでも、それでもやっぱり、「寂しい……かもな」


「ん、何か言った?」


「いや、何も……独り言だから気にしないでくれ」


 それから俺たちは互いに連絡先を交換した。

 そして、俺の携帯には新しく風花という名前が表示されている。アイコンは……猫。

 もしかして猫が好きだったのか?

 

「はい、これでもういいよな」


「おう、連絡先の方はちゃんと交換出来てるはずだ」


「いや、そうじゃなくて……

 その、これからは律真じゃなくて私も碧って呼ぶからな!」


「えっ?、……別に好きに呼んで貰っていいけど」


「そ、そう?。だったらアンタも私のこと風花って呼んでくれていいから!」


 東雲は頬をだけでなく耳まで真っ赤に染めていた。

 そんなに恥ずかしいなら、俺は別に今までのままでも良かったんだけど……


 少なくとも俺には無理だ。


「いや、俺の方はなんか恥ずいから今まで通りで大丈夫だ」


「このヘタレが!」


 —— あの女のことは名前呼びのくせに ——


 彼女の視線からそんな言葉が聞こえてきた気がしたが、まぁ、無理なものは無理なんだわ……


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