俺たちの勝負
さんさんと降り注ぐ陽光のもと、ついに俺たちの出番がやってきた。
携帯をテント下にある自分の席に置いてきてしまったこともあって、音葉達と連絡をとることは出来ないが、きっとこの会場の何処かから見てくれているはずだ。
「律真、私に合わせろよ」
「分かってる、死に物狂いで喰らい付いてやるから心配するな。それより少し気になったんだが、東雲の両親は来てないのか?」
「うん、来てない。ウチのとこの両親あんましこーゆのとか興味ないって感じの人たちだから。
一応、小学生の時ぐらいまでは見に来てくれてたけどね。
でも、そっちの方が私からしても有難いかも。この歳で応援されるのとか柄じゃないし」
見られるのとか恥ずいし、と東雲はそう言った。
「そっか……まぁ、そんなもんだよな」
確かに俺も観に来られるのは少し恥ずかしい。でも、その反面姉さんに来てもらえて嬉しい、そんな想いも混在していた。
「律真のとこの両親は?」
「居ないよ、俺が中学1年生だったぐらいの時に、二人とも事故で亡くなった。
だから俺の家族は姉さん一人だけなんだ」
「な、なんか悪かったわね……」
「いやいや、いいよ気にしなくて」
そんな会話を最後に、スタートの合図を示すピストル音が鳴り響いた。
俺たちのチームの出だしは好調で1、2を争っていた。
そして1位を相手に僅かに遅れをとり、第二走者へとバトンが渡る。
そこからは一つ順位を落として第三者走者に移った。
そこでは、距離を縮めず離れずの状態だった。
現在の順位は3位、先頭を走るクラスからの距離はおよそ10メートルといったところだ。
俺たちが走るのは100メートル、かなりのハンデだと言ってもいいだろう。
「東雲、行けるか?」
「当たり前じゃん、それよりホラ早く足出して」
「お、おう」
最後に腰に手を回して俺たちは戦場に立った。
そして、順位は変わらず3位のまま、俺たちの手元にバトンが渡る。
「碧、ガンバ!!」
一瞬そう叫ぶ姉さんの声が聞こえた気がした。恐らく実際に叫んでいたのだと思う。
こんな俺でも応援してくれるなんて本当にありがたい……
俺たちは合図をしてからお互いに足を進めた。そこからは主導権を東雲に譲り、一気に加速し始めた彼女に負けずとついていく。
ヤバイ、今日の東雲はガチだ。
今、一瞬マジで置いてかれそうになった。
右、左、右、左、右、左、右、左……
掛け声はリズムの取れる東雲の声のみ、俺は彼女の声と出す足だけに集中していた。
「うおっ、速えぇ」
50メートルを過ぎた辺りで2位のグループ抜かす。
1位までもかなり距離は縮まっていた。
よし、これなら行ける。そんな時俺は僅かに異変を感じた。
東雲が少し体勢を崩し始めている?
集中していたからこそ、彼女の重心の微妙な変化に気がついた。
放っておけば俺たちはこけてしまう。口に出したところで間に合うかは分からない。
そう判断した俺は、彼女の腰に回していた手にグッと力を込めた。
強く握るとかそういう感じではなく、自分に引き寄せるような力を加える。
すると、崩しかけてバランスをなんとか立て直すことができて、幾度もなく練習でしてきた走りに戻った。
「えっ!?」
「大丈夫、集中して」
東雲が少し戸惑ったような声を漏らすが、俺の言葉で再び彼女は掛け声を再開する。
これなら行ける!
だんだんと大きくなってくる1位のクラスの背中を見て、更に俺たちは更にスピードを上げる。
そしてゴールテープを切る直前でついに先頭に躍り出た。
「おぉ!」
会場にどよめきが起こる中、二人揃ってゴールテープをぶち破った。
「よしっ!」
そして俺が思わず気を緩めた瞬間、お約束の時間がやってきた。
「ちょっ、律真!?」
「うおぉぉぉっ!」
完全にズレてしまった歯車はもう噛み合うことはなかった。
結局、体育祭本番でも俺たちは地面に盛大にダイブをしてしまったのだった。
「うっ、いたぁ……」
「マジで、悪いな東雲」
「フッ、ホント肝心なとこで抜けてんだよなぁ。まぁ、途中は助けられたから許したげるわ。ほら……恥ずいから早く」
東雲は楽しそうに笑った後、俺に向かって手を挙げた。
彼女は流石にもう分かるでしょ?そう言いたげな目で俺を見てくる。
「ああ、やったな東雲!」
俺たちはこけた後も立ち上がることなく座った状態のまま互いの手のひらを合わせ、ハイタッチを交わす。
パチンッ!
乾いた音が広いグランドに広がった。




