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体育祭開幕


 あれから俺たちは練習を重ねて、体育祭本番を迎えていた。


 高校にもなると、小学生の時よりも格段に見にくる親の数が減っていくものだと思う。

 それでもこの学校の体育祭はそれなりに盛り上がるようで、多くの保護者を含めた関係者達で賑わっていた。


 ちなみに今年は姉さんも見学しにくるらしい……


 開会式が終わった後、一年生による競技が始まった。そのタイミングで俺の携帯が通知を知らせてくる。


———

 碧に教えて貰った学校の方に着いたんだけど、これって普通に入って大丈夫なの?

———


 そうか、音葉はこういうこと自体初めてだったんだよな。


 俺は中で受付さえ済ませれば大丈夫だと返信しておいた。

 ついでに色々と心配だったので一応、入口付近で待っておくようにともメッセージを送る。


 それからテント下にある席を抜け出して、彼女の元へと向かおうと歩き始めた。


「えっ律真、何処かに行く感じ?」


 しかし、タイミング悪く東雲に声をかけられてしまう。


「ああ、トイレだ。なんなら一緒にいくか?」


「アンタ馬鹿なの?、行くわけないじゃん」


 もちろん冗談だ。

 彼女が引き下がることを想定して言ってみただけ。

 そうでもないと俺がただの変態になる。


 それから、入口の方まで来ると校門の近くの壁に背中を預けて待っていた音葉と、そのマネージャーである五十嵐さんを発見した。


 音葉は俺の指示通り帽子を被ってるみたいだけど、スタイルの良さまでは隠しきれなかったようで、遅れて中に入っていく人たちがチラチラと彼女の方を見ている。


 本当に顔を隠してもらってて良かった。


「おはよ音葉、ホントに来てくれたんだな」


「当たり前でしょ!私、今日を凄く楽しみにして来たんだから」


 かなり興奮気味に返事をされた。

 ただの体育祭なのに、随分と楽しみにしてくれていたみたいだ。

 だが、音葉よ。その手に大事そうに持っているゴツい一眼レフのカメラは一体なんなんだ!?

 まさかだが、俺を取るわけじゃないだろうな……

 

 いやいや、流石にそれは思い上がり過ぎだな。


「もう、音ちゃんたら張り切っちゃって。ゴメンね碧君、忙しいなか迎えにまで来てもらっちゃって……」


「いえいえ、別に構いませんよ。五十嵐さんもこんな暑い中、わざわざありがとうございます」


 五十嵐さんとはMVの撮影の関係でそれなりに喋るなかになっていた。なんなら連絡先まで交換していたりする。


「ちなみにだが音葉、そのカメラは何ようだ?」


 始めはスルーしようかとも考えていたのだが、普通に無理だった。

 さっきから気になり過ぎて仕方がない。


「えっ、もちろん写真を撮るためだけど?」


 音葉はキョトンとした顔で俺を見つめてくる。

 

 いや、なんで当たり前でしょ!みたいな感じ出してるんだよ。可愛いから許すけど。


「まぁ、それは分からなくはないんだけど、写真なら別にスマホでもいいんじゃないか?

 流石にそれはちょっと……うん」


 いろいろと目立つ……


「そうなの?、体育祭はこういうカメラを持っていくものだって歌織さんに言われたんだけど、それに私の他にも持っていた人、何人か見たよ」


「多分だけど、それは誰かの保護者じゃないかな。

 それもかなり熱狂的な部類のな。デジカメならまだ分からなくもないけど、それは少しやり過ぎ感はある」


 全くの赤の他人の体育祭だからデジカメでもおかしいんだけど、そこはひとまずおいておくことにした。

 もしかして、さっきからチラ見されていたのはそのカメラのせいだったりしてな。


 にしても五十嵐さん、貴方絶対分かってたでしょ!

 案の定、音葉の隣で息を殺して笑っていた。


 俺にそこまで言われて、やっと可笑しなことだと気づいた音葉はギョッとした表情で五十嵐さんの方を見る。


「もしかして歌織さん、私をからかったの!?」


「フハハハッ、面白すぎるわ。ゴメンね音ちゃん、ちょっとした悪ふざけのつもりが音ちゃん完全に信じてたから、つい楽しくなっちゃって……」


「嘘でしょ……うわっ、急に恥ずかしくなってきたんだけど」


 音葉は顔を熟れたトマトのように真っ赤にしてしまう。


 そんな彼女の表情が面白くて俺も一緒になって笑っていると、音葉に睨まれてしまった。

 でも、東雲とは違って可愛いだけなので、全く問題はなかった。


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