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変なのが取り柄


「なんだ、お前かよ……」


 先程の天音の時とは違い驚きは殆どなかった。

 それに何故だか分からないが、東雲の姿を見てホッとしている自分がいた。

 他の知らない人ならある程度気まずくなると思っていたが、まぁ彼女なら大丈夫だろう、と不思議とそう思えたのだ。


 それにここ1週間で彼女とはかなり距離が近くなったのではないだろうか?

 

 ホントに世の中何があるか分からないものだと、つくづく思った。

 あの出来事があった直後はあそこまで疎ましく思えていた東雲の存在が、今では俺の中でプラスに向いている、そんな気がするのだ。


「なによ、その反応は!?」


「あっ、いや、なんていうか安心してだな」


「安心?」


「いや、やっぱなんでもない。……それで俺に何かようか?」


 今、思ったことをそのまま口にするのは、ちょっぴりシャイな俺には厳しかったため、なかったことにして話を強引に切り替えた。


「別に、私も教室の空気が嫌で抜け出してきただけだし」


 東雲は俺から視線を逸らしながらそう言った。

 恐らくだがこれは建前な気がするな。もしかすると本音は別にあるのかもしれない。

 

「で、本当の用件の方は?」


「だから、さっき言ったじゃん。

 ……でも、ちょっとだけ相談したいことがないこともない」


 なんだ、そのややこしい言い回しは。

 相手に弱いところを見せたくないというギャルの習性か?

 そして相談相手に俺を選んだのは、それしか選択肢がなかったからってところなのだろう。

 

 まぁ、その辺はどうでもいいか。

 東雲にはこの前カラオケに付き合ってもらったお礼も兼ねて、解決できるかは別として、聞くだけ聞いてみることにした。


「よし、話は聞いてやるからまず座って飯でも食べようぜ」


「うっわ、何その上から目線、地味にムカつくんですけど」


「別にたまにぐらいいいじゃねーか」


「律真は気づいてないかもしれないけど、たまにじゃなくて、しょっちゅう滲みでてっからな」


 なんだと……

 そんなつもりはなかったんだが、そうなのか?

 俺はいつも人を見下していたのか?


「いや、真に受けんなって冗談だから」


「悪いな東雲、俺、教室戻るわ」


 そう言って俺は立ち上がった。弁当はまだ残っているがこの際は仕方がない。


「えっ、あっ、おい!」


 そんな俺の姿を見て、〈 やってしまった。 〉東雲はそんな表情を見せた。

 そして、俺はそのまま帰る……わけではなく、もう一度その場に座り直した。

 

「プッ、なーんてな、冗談だっての。気づかなかったか?」


 俺がそう言うと、東雲は一瞬ホッとしたような顔をした後、すぐに怒りを露わにした。


「律真……一発殴らせろ。大丈夫、痛くはしない」


 いや、全く意味が分からん。

 殴って、痛くはしないってどーゆことだよ。完全に矛盾してんじゃねーか。


「東雲、俺が悪かったって。なっ、だからこの通り許してくれ」

 

 俺は誠心誠意を込めて頭を深く下げた。

 その理由は至って単純で痛いのはヤダから。


 頭を下げて助かるならそれぐらい、いくらでもしてやるさ。


「分かった、分かったから。頭、上げなって。こっちもほんの少しだけ悪かったし、もう許す」


「よし、それじゃあ話を進めようか」


「おい、テメェ随分とあっさりしてんな。さっきの絶対演技だったろ」


 その後も、少しだけ彼女とのやり取りが続いて昼休みが半分ほど過ぎた頃にようやく本題に入ることが出来た。


「それでさっき言ってた相談なんだけど……実は私、国語の教科書なくしちゃってさ。

 このままだと、授業受けられないんだよね。だからコピーさせてくんない?」


 確か国語の授業は5時限目だった。おおよその範囲は分かるから今日やる分なら昼休みの時間で印刷することは可能だとは思う。


「別に構わないけど……それって本当に東雲が失くしたものなのか?」


 俺は一度は踏み込むべきじゃないと離れかけた想いに蓋をして、東雲に聞くことにした。


「……多分、そうじゃないかな。私ってこう見えて結構ドジだったりするのかも?」


 なんで疑問系なんだ?

 それに東雲の表情はどこか暗い……


 これってやっぱり嫌がらせを受けてるよな?


「あのさ東雲、もし、嫌がらせを受けてるなら俺はちゃんと相談に乗るから……」


 何が出来るかは分からない。

 それでも黙って見てるだけなのも嫌だった。


「な、なによ急に!?

 だから嫌がらせなんて受けてないっての。自分で失くしただけだし」


 東雲はそう言いながら視線を下の方に逸らした。


「それならいいけど、実際はそうじゃないだろ。

 だって、本当にもしそうなら今の東雲の表情には絶対にならない。

 知ってると思うけど俺は存在感が薄いし、クラスになんの影響力も持たない。だから正直に助けを求められたって、それに答えてやれる自信なんてこれっぽっちもない……

 でもさ、そんな俺だからこそ東雲も本音でぶつかってきてくれていいんじゃねーの?」


 影響力がないからこそ安心してぶちまけろ。つまり俺が言いたいのはそう言うことだった。

 何せ溜め込むより吐き出した方が楽なのだから、それで実際に音葉の時も状況を変えるきっかけにもなったのだから。


「クソッ、優しくすんなって……でも、ありがと」


 下げていた顔をゆっくりと上げる。

 そんな彼女の目はほんのり赤くなっていた。もしかすると、少し泣いていたのかもしれない。


 やっぱり、彼女は彼女なりにいろいろと悩んでいたのだと改めて感じさせられた。


「ああ……ちなみにだが安心してもいいぞ。今回はボイスレコーダー持ってきてないからな」


「おいてめぇ、真面目な話じゃなかったのか?」


「い、いや、大真面目のつもりだ」


 東雲にキッと睨まれてしまった俺は、重くなってしまった場を和ませるための、おフザケだとはいい出せなかった。

 いや、だから怖いんだって。


 そんな俺のビビった様子が伝わったのか、東雲がプッ、と小さく吹き出した。


「フフッ、いやホントアンタって変なやつ……」


 どうやら怒ってはいなかったようだ。


「まっ、それが取り柄でもあるからな」


 それから俺はそんな東雲の目を見つめた状態のまま感じていた。

 斗真に言われたからじゃなくて、俺自身も東雲をほっとけなくなってきているということに……


 だから密かに決心する。

 何がなんでも斗真と仲直りさせてやると、そうすればきっと彼女も今まで通り笑えるはずなのだから。


「あの……そろそろ私、失礼させてもらうから」


 そんな時、鈴のような綺麗な音色の声が真横から聞こえてきた。そして俺は思い出す、東雲の前に屋上に来ていたもう一人の人物の存在を……


 あっ、やべ、完全に忘れてたわ。


「へっ?、天音さんいたの!!?」


 東雲の叫びにも近い声が屋上にこだましたのだった。

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