屋上は野良猫達の溜まり場になりつつあった
昼休みになると俺は屋上へと来ていた。
今日は綺麗な青空が広がっており、外で食べなきゃ勿体無いじゃない……と、まぁ後から取ってつけた理由は置いておくとして、実際にはあの陽キャラ達の住まう巣窟から抜け出してきただけだ。
ちなみにだが、東雲の一件があったあの日から雨の日だけは大人しく教室で食事をとることにしている。
もう、面倒ごとに巻き込まれるのは、いろんな意味でこりごりなのだ。
そして、最近の教室の雰囲気はというと体育祭のことで盛り上がったりしていて、東雲の一件が起きる前の本来の姿に近いものになっていた。
生憎その彼女は無視されたままではあるが……
クラスの中心人物たちが無視を徹底しているため、それに流されたあまり関係のないクラスメイト達も東雲のことを避けている姿を何度も見た。
こうやってイジメは出来上がっていくんだと改めて思わされる光景だった。
それにしても、物理的な嫌がらせは受けていないのだろうか?
最近喋っていて強く感じたことだが、彼女は余り自分の心境を喋りたがらない。強がりな性格がフィルターをかけてしまってるのかもしれない。
だから何かあったのだとしても黙っていると思う……って、いつから俺はそんなことを気にするようになったのか。
元々の原因は俺にあるのにな……
ダメだ、考え過ぎると暗い気持ちになってくる。
俺はそんな考えを振り払い、弁当箱を開けた。
なんたって、重い空気で食べるご飯は不味くなってしまうからな。
「おぉっ!」
中には手の込んだ料理がぎっしりと並べられていた。色合いもよく考えられていて、バランスも良さそうだ。
すげぇな姉さん、今日もいつも通りこってるなぁ。
朝早くに起きて作ってくれた姉に感謝しながら俺は弁当を食べ始める。
上手い、実に上手い。マジでありがとうな姉さん!
それから、食べ始めてすぐのことだった。
ガチャリという音が鳴った後に、鈍い音が聞こえてくる。
まさか!?
俺はこの音をよく知っていた。何故ならここに入ってくる時に毎日聞いている音だからだ。
どうやら、珍しいことに屋上の扉が開けられたようだ。
今までは俺以外は誰も来なかったのに……
そして、扉を開けた人物は間もなく俺の前に姿を現した。
長い黒髪に整った容姿……彼女は同じ学年の女子生徒だった。それも、あまり喋ったことはないが、よく見かける生徒だ。
まぁ、同じクラスだから当たり前なのだが。
それにしても驚いたな。
「天音さん……」
俺は彼女と目が合った瞬間、ほぼ無意識的に彼女の名前を呼んでいた。
まさか、あの天音 雪とこんなところで遭遇することになるとは思いもしなかった。
彼女の方も俺の姿を見て少し驚いた表情をしたあと、少しバツの悪そうな顔をする。
「ごめんなさい、邪魔したわね」
「いやいや、待てって、別に良いって気を使わなくても。昼休みなんて結構短いんだからここで食べて行きなよ。
少なくとも、俺は気にしないから。ってか、ここで帰られた方が気まずいっての」
俺の姿を見るなり、すぐに引き返そうとし始めた彼女をなんとか静止させた。
「……そう、それなら、あっちの方を借りるわね」
「お好きにどうぞ……」
勝手に借りられたが、一つ言っておく、別に屋上は俺の所有物じゃない。
もちろん本人にそれを言うことはないが……
天音さんは、そう言って俺から10メートルほど離れた場所に座り込んだ。
友達でもないし普通と言われればそれまでなんだが、やっぱりこういうスペースの取られ方って微妙に傷つくよな。
それにしても、どうして急に屋上なんかに来たんだろうか。
今までは我慢してきたけど、ついに耐えられなくなったってことか?
あのクラスだから十分にあり得る。
兎にも角にも、彼女も彼女なりに苦労してる訳だ。
そんな風に脳内を整理していると再びあの音が聞こえてきた。
ガチャリ!
嘘だろ、また誰か来たのか!?
そして、そのほんの数秒後に姿を現したのは東雲 風花だった。




