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それは目撃じゃなくて尾行です


 音葉とカラオケに行けなかった次の日の朝、彼女からの謝罪メッセージが届いていた。


 内容はリズムに関して教えるのを忘れてたということだ。


 昨日の音葉の様子からしてもカラオケに行けなかったのが、それほどショックだったのだろう。

 実際に俺も彼女と別れるまで思い出せないくらいにはショックだった。


 本当に音葉の歌を楽しみにしてたのだ。


「とりあえず、学校に行くか」

 

 重たい身体を起こして、いつも通りの通学路を歩いていると、自然と斗真と合流する。待ち合わせをしてる訳でもないのに合流とは、よくよく考えると凄いことなのだろうけど、いつもの光景すぎて、もう何とも思わなくなっていた。


 斗真とは軽く体育祭のことについての情報を交換しておいた。


 学校に着いて斗真と分かれると、それを見計らったかのように東雲が俺の元へと現れる。

 それも少し怒ったような、なんとも言えない表情をしていた。

 

「おっ、おはよう、東雲。

 どうしたんだそんな怖い顔して」


「アンタ昨日何してたの?」


「えっ!?

 何してたって、普通にカフェ行ってその後、食事をしたぐらいだけど……」


「そっ、そう。

 意外と隠さないのね……」


 少し意外そうな表情でこちらを見てきたが、理由はイマイチ分からない。


「正直、東雲には悪いことしたとは思ってる。

 まさか、練習を休んだ理由がカフェだなんて……」


 本来はカラオケでリズムのレッスンのつもりだったのだが、昨日はそれが叶わなかった。その為、練習をサボっただけの立場になってしまっている訳だ。

 

「そんなこと、どうでも良いっての。

 それより誰と行ったのよ?」


「誰とって、音……もだちだな」


 あぶねー、もう少しで音葉って言ってしまいそうだった。

 ってか、音葉だったら別に良いのか?絶対にRoeleとは繋がらないだろうし。


「おと……もだち。なんか不思議な言い回しするなぁ。

 でも昨日、斗真は体育祭の練習で学校に残ってたけど?」


 コイツ、なんやかんや斗真のこと見てんだな。

 やっぱり今でも好きなのだろう。


「あのな、俺にだって斗真以外の友達、普通に居るからな!(一人だけど)なんでいないって決めつけてんだよ」


 俺がそう言うと、東雲は驚愕に満ちた表情で固まってしまった。まさか、有り得ない。そんなことも呟いている。

 

 えっ、嘘だろ。俺に友達がいることがそんなに衝撃的だったのか?


「……ちなみに確認だけど、その友達は男?、女?、どっち」


「男だ!」


 もちろん大嘘だ。別に性別ぐらいバラしても問題ないとは思うが念には念を持ってだな。

 それに微妙にヤバそうな感じがしたのだ。


「本当に!?」


「本当の本当だ」


「あんなお洒落なお店に男と二人で……しかもカップルにとっての隠れおすすめスポットらしいじゃん」


 なるほど、カップルおすすめスポットだったのか、道理でカップルしかいないわけだ。

 ……うん、なんか可笑しくないか?


 俺は話の内容に微かな違和感を感じた。でも、それが何なのかまだハッキリとは分からない。


 そして、東雲はというと予想外の方向へと勘違いを始めていた。

 ああ、結局、男か女どちらを選んでも地雷だったわけだ。


「もしかしてアンタ、そっち系な感じ?

 えっ、まさか、斗真のことも狙ってた感じなの!?」


「いやいやいや、違うって!」


「別にそんな無理に否定しなくてもいいっての。確かにオープンにしづらい内容だけどさ、ほら、最近はそーゆ感じの差別って薄くなってきてるし。

 それに誰にも言わないしさ」


 今の現状で話せそうな相手いないよね?、と東雲が訴えかけてくるが、ホントに誤解であるため丁重に否定させてもらう。


「いや、東雲ホントに違うから。それにあそこがカップルに人気があるだなんて知らなかったし」


 そしてこれもまた事実の一つだ。


 でも、やっぱり何かがおかしい。

 さっきから魚の骨が喉につっかえたみたいに気になる。


「えっ、そっか〜、つまんねぇの。

 でも相手の方に指定された場所なら向こう側はその気だったってことじゃない?」


「それがさ、友達の方も知り合いから教えてってもらった場所みたいで……」


「要するに騙されてただけってことか」


「そうそう……

 ——ってお前なんで俺が行ったカフェを知ってるんだよ!」


 そうだ、違和感の正体はそこだった。

 俺はカフェに行ったとしか伝えていない。場所も名前も教えていない筈なのだ。


「あっ、えっ、その、アレだよあれ、昨日の帰り道に偶然、律真のこと見かけてさ。

 ホントに偶然カフェに入るとこが見えたって感じ」


 東雲は明らかに動揺している。変な汗を垂れ流しながら、顔を手で仰いでいる。


「二駅も離れた地域の人通りの少ない路地裏で偶然にか?」


「アハハ、ホントになんでかな……でも、世の中には不思議なこともあるもんじゃん。トイレの花子さんとか……」


 残念だがそれは学校の都市伝説で身も蓋もない噂に過ぎない。だが東雲、今回の件に関しては正直、考えづらかったが状況からして確実に言えることが一つある。


「東雲……お前、俺のこと尾行してただろ」


 それも話の内容からして俺がカフェに入るまでの間。

 恐らくだが音葉のことは見られてないはずだ。


「いや、その、マジでごめん。律真に斗真以外の友達がいるって聞くとつい気になって……テヘッ?」


 東雲は可愛らしく舌を出して誤魔化した。

 いや、全然誤魔化せてないけど。本人もそれが分かってるらしく、俺が暫く黙って見ていると気まずそうに顔を背けた。

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