カラオケデート!?
「やぁ音葉、待たせたな」
周囲の視線が気になりながらも俺は彼女の前の席に着いた。
予想通り周りからは動揺の雰囲気が感じられたが、この際は、もう気にしないことにした。
「ううん、大丈夫。寧ろ、学校帰りにわざわざこっち側まで来てもらちゃってゴメンね」
「いや、それは問題ない。
それほど遠くはなかったしな。……それにしても随分と洒落たお店を知ってるもんだ。
危うく入る前に引き返すとこだったわ」
これは冗談でもなんでもなくて、割と本気で悩んだことだ。
「あっ、その、なんていうか……私も知り合いから教えて貰った場所で、来るのは今日で初めてなの」
「そうなのか!?」
彼女は恥ずかしそうに小さく頷いた。
しかし、俺と違って初心者感が出ないのはどういうワケなのだろうか?
やっぱり見た目?
いや、それだけじゃないか。恐らくオーラ的なものも関係があるのだと思った。
「だからいろいろと気まずくって……」
そこは大いに納得が出来た。先程も確認したように周囲にいるのはカップルばかり、そんな場所に一人で来るなんてきっと、相当勇気のいることだったのだろう。
それから俺は軽くコーヒーを一杯注文してから、音葉との会話を1時間近く楽しんだ。
途中からは周りの視線も気にならなくなって、気がつけばお店の中に居るお客さんたちの顔触れも変わっていた。
「よし、そろそろカラオケに行こっか」
話の区切りで音葉が俺にそう提案してきた。
時間帯は既に18時を回ろうとしている。
タイミング的にもこれ以上、遅くなってしまったら明日の学校にも影響が出てしまうかもしれないか。
「ああ、そうだな。そういえばこの近くにカラオケ屋があるんだっけか?」
「うん、歩いて数分のとこに【カラオケにゃんにゃん】があったと思う」
カラオケにゃんにゃん……実に絶妙な響きだな。
そういや少し前に東雲と行ったとこはなんて言う名前だっけか?
気になって思い出そうとしてみたが、暫く考えてみても全く出てきそうになかった。
そもそも、名前を見たかすら怪しい。
あの時はカラオケ自体が衝撃的過ぎて、それすらも確認する余裕がなかったのだと思う。
にしても、初めてから僅か2日後に再び訪れることになるとは全く予想してなかった。
それも音葉と一緒にだ。
もちろん、カラオケ自体にまだ抵抗があり少し緊張しているのだが、2回目ということもあってまだマシだった。
逆に音葉は初めてなはずなのに、緊張というよりかは何処か楽しみにしているように見える。
確か電話の時の音葉もかなり声が弾んでいた気がするな。
人前で歌った経験がある彼女にとっては緊張するまでもないってことなのだろう。
後、上手いのは確定してるし……
というより早く聴きたい、聴かせてくれ。
○○○
「いらっしゃいませ、本日は2名様ですね。
ご予約の方はされてますか?」
「いえ、してないです」
俺がそう答えると、受け付けの女性が真剣にモニターを見始めた。
ん、なんか嫌な予感が……
「すみません、本日満席となっておりますので……早くても3時間後ぐらいにはなってしまいますね」
3時間後だと……
「えっ、3時間後ですか?」
「は、はい、3時間後です」
音葉の食いつきように、受付のお姉さんは少し気圧されてしまっていた。
それにしても、まさか、ここまでカラオケが人気あるとは思ってもみなかった。平日の午後に満席ってどうなってんだよ。
「音葉、この近くに他のカラオケ屋はあったか?」
「ううん、私の知ってる限りはないわ」
「そっか、なら残念だけど今日は諦めようか」
「えっ、そんな。私のカラオケが、碧とのカラオケが……」
彼女は大きく肩を落とした。
音葉、そこまで楽しみにしてくれてたのか。
でも、ショックなら俺の方もかなり受けてる。だって音葉の生歌が、Roeleの生歌が!!
聴きたい聴きたい聴きたかった。
「確か明後日も会う約束してたよな。
その時じゃダメなのか?」
「うう、明後日は碧へのお礼を兼ねて、ご馳走する日だから……
それに、ちょっといろいろある予定だし」
だからカラオケは厳しいのだと音葉は言った。
まぁ、それなら仕方ないよな。
「ん〜、今回はカラオケを諦めるわ。
でも碧、いつかは絶対二人で行くからね。約束よ」
「ああ、約束だ」
それから近くのお店で夕食を二人で食べて、今日はお開きということになった。
俺は音葉と別れの挨拶を済ませてから電車に乗り込む。
ん、そういえば何か忘れてるような……
……あっ!、リズム感を治す練習全く出来てねーじゃん。




