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孤高を貫く俺にとって息を合わせる競技は難解です ⑤


「どうしたんだ碧、そんな疲れた顔して」


「いやぁ、ちょっとな。それにしてもマジで疲れたわぁ」


 実はあの後、俺は東雲のやつに1時間近くは歌わされていた。しかも、だ。結局、彼女が選んだ曲しか歌えていない。

 My Life含め2、3曲は歌ってみたいと思っていたのに……


 しかし、彼女が俺のためを思って選んでくれた曲に文句を言えるはずもなかった。

 

「それより斗真、クラスの練習の方は順調なのか?」


 確か昨日は部活に行ってて練習にすら参加できていないはずだ。


「ああ、昨日は部活が忙しくほとんど参加できなかったんだけど、秋元(あきもと)の方からだいたいのことは聞いて状況は知ってるから。

 それに今日の部活は休む予定だ」


「秋元か……」


 白井からじゃないのか、と思ったが彼もバスケの方で何かと忙しいんだったよな。

 そして、そのかわりが秋元なのだろう。確か白井と同じバスケ部で運動がそこそこ出来たはずだ。


 そして、俺から1500メートルを奪った男……


「それより碧、昨日はありがとう」


 何がとは言われなかったが、内容の方は分かった。


「まぁ、東雲には結構嫌がられてたけどな」


「それでも助かった……ちなみに練習の方はどうだったんだ?」


「んー頑張ってるけど、どうだろな。正直なところ、あんまり手応えは感じてない。

 でも、まぁ時間はそれなりに残されてるから恥ずかしくないくらいにはしておくよ」


 流石に俺が今、足を引っ張ってることは言わなくていいよな?

 それで斗真たちのチームに迷惑がかかることもないわけだし。


「分かった、期待しとく」


「いや、期待はそこまでしなくていい」


 というかするな。まだ走れてすらないから……




 朝学校に着くと、いつも通り静かに座っていた東雲と視線があった。


 昨日も世話にもなったことだし挨拶ぐらいはしておくか、とも思ったのだが、面と向かって言うのは少し恥ずかしい気がして一度視線を外して自分の席へと向かった。


 しかし、それはいつもとは違って東雲の居る中央近くのルートを通っていた。


「おはよう東雲、昨日はありがとな」


 俺は彼女の姿が視界の隅に来たすれ違いざまに、小さな声で挨拶をした。


「あっ、へっ……おはよう」


 東雲は肩をビクリと跳ねさせてからこちらを振り向いた。


「どうしたんだ、そんな意外そうな顔をして?」


 東雲が振り向いたためこちらも足を止めて、彼女の方を見た。


「いや、なんでもないからっ!」


「そうか、んじゃ今日の放課後も宜しくな」


「ん、分かった」


 変なやつ、まさか声を掛けられるとは思ってなかったのか?


 昨日あそこまで世話になっておいて、お礼のひとつも言わないわけにはいかないだろう。

 カラオケからの帰りは疲れ果てていたため、言い忘れてたしな。


 


 それから授業が終わり、2日目の練習の時間になった。


 俺は東雲と合流した後、昨日と同様にクラスの連中から離れたポジションどりを行なった。


「律真、今日はリズムを意識しろよ」


「ああ、分かってる。あんな恥ずかしい想いをしてまで童謡を歌ったんだ、今日こそは成果を出してやる」


 昨日、東雲が選んでくれた曲の中には、子供向けの歌が数曲含まれていて完全にふざけてるのだと思ったのだが、実際はリズムが簡単な曲をチョイスした結果だったらしい。


 そう言われてしまえば、たとえ子供向けの歌でも全力で歌うしかなかったのだ。


 いやぁ、マジでハズかった。

 動画とか残ってたらそれこそ、半永久的に笑いものにされることだろう。


「あっ、それね。リズムが簡単だからという理由で選んだのもあるんだけど、半分はおふざけだから」


 はい、なんですと?


「いやぁ、マジで面白かった。昨日、アンタが歌った曲はだいたい録音しといたから一度聞いてみ。また後で送るから、それに絶対笑う、プッ」


 東雲は昨日の光景を思い出したのか、小さく吹き出した。


 いや今はそんなことどうでもよくて、それより録音されてたのか……

 ばら撒かれでもしたら最悪イジメコースだな。


 さよなら俺の青春よ。


「なに、やり遂げた顔してんのよ。アンタ死ぬの?

 まぁ、冗談はおいといて、自分の歌を録音して聞くのって結構大切だかんね。客観的に声が聞けるから、悪いとことか良いとことか見つけやすいし」


「そうだったのか、それならまだなんとか納得できる。

 でも、その音声俺に送った後、消しといてくれ」


「えー、ヤダよ。面白いし」


 くそギャルが!無理やりに携帯でも奪って消してやろうか?


「ヤレるもんならやってみろよ」


「ハイ、スミマセンでした」


 心の声が漏れていたのか、東雲にガンを飛ばされてしまったため、俺は潔く頭を下げた。


「それより練習じゃん、昨日は散々だったし……」


「それもそうだな」


 それから足首にバンドを取り付けて立ち上がる。

 

 そして、昨日と同じで歩くとこから始めた。やはり出だしの足を決めたことでここはスムーズに出来る。

 そこから少しペースを上げることにした。昨日はここで崩れてしまったため、よりいっそう集中する。


「んじゃ、ペースあげるから」


「分かった」


 リズム、リズム……


 かけ声と共にペースをあげた。

 昨日もだが出だしはちゃんと出来ていた。


 イチ、ニッ、イチ、ニッ、イチ、ニッ、イチニ……

 ヤバい、少し分かんなくなってきた。これだと昨日と一緒で……


「だから律真、リズム崩れてるって!」


「そんなこと言われても、あっ、うおぉぉぉお」


 俺たちはその日の練習でも50メートルの完走は無理だった。

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