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孤高を貫く俺にとって息を合わせる競技は難解です ③


 中に入ると、手慣れた様子で受付を済ませる東雲の姿があった。


「あっ、来た来た。ちょっと遅すぎない?

 一瞬ビビって帰ったのかと思ったわ〜」


「そ、そんな訳ないだろ」


 本当に悩んでただけに、笑えないジョークだ。

 

「部屋は2階の14号室だって。あとドリンクバーにしといたけどいいよな?」


「ドリンクバー?」


 カラオケってそんなに長時間いるものなのか?

 30分もあれば事が足りそうな気がするんだけど……


「そそ、ドリンクバー。聞いたことない?いわゆる飲み放題ってやつ」


「いや、それは知っとるわ!」


 思わぬ返しに思わず突っ込んでしまった。

 東雲も驚いたようで、パチクリと目を開けてこちらのことを見ている。


「わ、悪い、ただ、カラオケってそんなに長時間居るもんなのかなって思ってな」


「そっちか……、それは人によりけりって感じたと思う。私は長い時なんて余裕で半日ぐらいは居るから」


「スゲーな。半日も一人で歌い続けるなんて、良くそんなに喉がもつよな。

 歌手にでもなれるんじゃないか?」


「なわけっ、というより何でひとカラ前提なのよ!よっぽど好きな人以外は普通、複数人で行くでしょ。

 ふぅ……やっば〜、律真といるとマジで疲れんだけど。もう3日分の体力は使い果たしたかも」


 ちょっとした冗談のつもりだったんだが……本気に捉えられてしまった。

 流石にそれは俺でも知ってる。斗真からちょくちょく話は聞いたことあったし。


「そいつは悪かったな」

 俺は既にひと月分くらいは使ってる気分だけど。


 ちなみにだが、今回は2時間にしたらしい。

 一人1時間……俺に曲のレパートリーがそんなにあると思うのか?


「ってかさ、一緒に居ればいるほど律真のキャラが分かんなくなんだけど」


「俺のキャラ?」

 考えたことはなかったが、何処のクラスにでもいるモブ的な立場だと思う。

 うん、これは自分で口に出すと悲しくなるやつだから黙っておこう。


「何て言うか、クラスでは陰の象徴みたいな感じなのに、面と向かって喋ってみると意外とそうじゃないみたいな?

 んー、なんて言うかアンタってほんと変なやつよね」


 変なやつ……俺ってそんなに変なのか。

 自分では割と普通だと思っていたから、それなりに傷つくんだけど。


「いやいや、落ち込むなっての。少し前に強靭なメンタル持ってるって言ってたし!

 それにだけど、良い意味でだよ、良い意味で!」


「変なやつって言葉の何処に良い意味があるんだよ?」


 なんかテレビでいい意味でって付けたら、どんな悪口でも良いように聞こえるってやってたよな……

 実際にやられて分かったが全く良いようには聞こえない。


「んー……さあ?

 まっ、小さいことは気にすんなって。さっさと飲み物入れて部屋いこーぜ」


 それから、俺と東雲はドリンクバーに行って飲みものを入れた後、遂にカラオケルームに到着する。


「意外に狭いな……」


「ん?、別に普通だと思うけど、逆にどんなの想像してた?

 もしかして、マイクスタンドとか立てて歌う系?」


「そうそう、前にちょっとした台みたいなとこがあって、小さなライブハウス的なのイメージしてた」


「ふぅん、そんな想像してたんだ。でも、パーティルームだとそれに近いかもね」


 パーティルーム? いかにもエンジョイ勢が使いそうな名前だな。


「それじゃ、先に私が選ぶね。私が歌ってる間にでも歌いたい曲でも考えといて。それと今回は採点入れとくから」


 俺のそんな感想をよそに、ソファに座った東雲は歌を選ぶ機械を手にした後、チャチャッと操作して素早く曲を入れてしまう。


 それから俺に機械を渡してくると同時に彼女の選んだ曲の前奏が流れ始めた。


「lonelyか……」


「へぇ、流石の律真でもこの曲は知ってたか。まっ、私たちの世代でRoele知らない方が珍しいよね」


「ああ……」


 俺の頭の中には音葉の姿が浮かんでいた。

 ホントいろんなことがあったものだ。この曲で俺が音葉のことを知ったんだったよな。


 感慨深くそんなことを思っていると、東雲の歌唱が始まった。


 上手い……最初のフレーズだけでそう感じる。


 まさか、普段オラオラ系の東雲からこんな優しい声が出るなんて驚きだ。

 ギャップさが半端ない。


 さっきは冗談で歌手にでもなれるんじゃないか、なんてこと言ってしまったが、本当になれたりしてな……


 その後も東雲はRoele特有の独特なリズムや、激しい音程の移り変わりを難なく歌いこなして、そのまま最後まで歌い終えた。


 気が付いた時には拍手をしていた。


「いやいや、拍手は止めなって……なんていうか普通に恥ずいから」


 東雲が少し照れながらそう言ってきたので、思わず拍手を強めてしまう。


「おいっ!」


「ああ、すまんすまん。でも、それくらい良い歌だったんだ。ここまで上手いだなんて正直、驚かされた」


「別に、普通だし……」


 それから、大画面に点数が92点と表示される。うおぉ、高すぎだろ。


 やっぱ高いな、と俺が呟くと「まぁ、こんなもんでしょ」と返されてしまった。

 もしかするとカラオケにおいて90点は基準なのだろうか。


「はい、次はアンタの番だから。曲の方は決まった?」


「おう、丁度今決まったよ」


 俺は機械を利用して曲を探し出すとそれを選択した。


「げっ、それはやめときなって、絶対に無理だから。初めてなんだからもっと簡単なヤツにしなよ」


「えっ、ダメなのか?」


 たった今俺が選ぼうとしていた曲はRoeleのセカンドシングル【My Life】だった。

 この曲は音葉と出会ってから聞くようになっていた。


 恥ずかしいから本人には言ってないけど、やっぱRoeleの歌声は聴いてて心地が良い。


「ダメって訳じゃないけど、その曲キーとかも結構高くて私でもキツいしさ、今回はこっちにしてくれない?」


 そう言って示されたのは、全国的に有名なとあるアニメの主題歌だった。


「東雲、お前もしかしてオタクというやつなのか?」


「違うからっ!

 これくらい有名だと誰でも知ってると思うし、他の曲と比べても特にリズムがとりやすい曲だから選んだんだし。

 何ならこのアニメの内容なんてひとつも知らないから、あと、律真だけには絶対に言われたくない」


「さいですか……それと、俺のは冗談だからな」


「いや、アンタが言うと冗談に聞こえないんだって」


 あれ? そんなこと前にも誰かに言われたような……


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