ペア成立
翌日から俺は、昨日の斗真との約束を守るべく行動に移すことにした。まぁ、ある意味必要に駆られてとも言えるが……
俺と斗真が教室に着いていつも通りに分かれると早速、東雲の姿を探した。
やっぱりもう居るのか。
あの事件が起こった次の日からも、彼女は今までと同様で登校してくる時間を変えていない。
ただ誰とも喋ることはなく、1人静かに着席をして暇そうに少しウェーブのかかった髪の毛を弄りながら教室の窓の方を眺めている。
髪色がかなり明るい茶髪なこともあってか、東雲が放つオーラと現状がひどく噛み合っていないように感じされられてしまう。
「おはよう、東雲」
「えっ——、いったいどういう風の吹き回しよ……
もしかしてまた、私を脅しにでもきたの?」
俺が声を掛けると東雲は一瞬フリーズした後、すごい形相でこちらを睨んできた。
ある程度予想できていた反応だったが、やはり嫌われてしまっているようだ。
「いや、そんなことする訳ないだろ。ちょっと用事があって来ただけだ」
「そんなことする訳ないって、一体どの口が言ってんのよ。
……で、用事って何?」
「実は体育祭のことでだな」
「ああ、なるほどね」
それだけ言うと、東雲はおおよそのことを理解したようだった。テストの成績はあまり良いイメージがなかったが、決して地頭は悪くなさそうだ。
「でもアンタ、私にあそこまでのこと言っておいてよく誘う気になったわね。どんな神経してんのよ、正直私だったら無理だわ」
「いくら打たれてもひしゃげない強靭なメンタルだけが取り柄なんだ」
俺が少しおどけてそう答えると、東雲が試しにやってやろうかと言ってきたので、そこは丁重にお断りさせて頂いた。
「それでもう分かってるとは思うが、単刀直入に言う。二人三脚で俺とペアを組んでくれないか?」
そう、俺の用件は東雲に二人三脚でパートナーになって貰うことだった。
実は今朝、女子の参加者リストを見てきた。
すると、驚いたことにそこにあったのは東雲の名前。ハハッ、凄い偶然もあるもんだな……
というより、昨日の斗真の話しはこのことを見越してのことだったのだと思う。
斗真は俺が頷いてホッとしたような表情をしていたし、俺が彼女のペアになってくれることを了承したものだと捉えていたに違いない。
だから、俺は今日は優先して東雲に声をかけにきた。
それに、どのみちこうなってただろうし……
東雲は俺の方を見ると小さく肩を落とす。
「はぁ、絶対に嫌!……って言いたいところだったんだけど、それが言えない今の自分の状況が憎いわ。正直なところ声をかけて貰えて助かってるし。
もっと昨日の話合いに参加してたら良かった……」
いやいや、そんな残念そうな表情されたらこっちが傷つくっての。
でも、大丈夫俺には鉄のメンタルが……
「なんで私がこんな陰キャなんかと……」
それ以上はマジでやめて、普通にヒビ入るから。
「と、とりあえず決定な。報告の方はこっちで済ませとくから今日の練習から宜しく頼む」
「分かったわ。それで良いけど、別に二人三脚ぐらい練習しなくても良くね?」
「いや、ダメだ。体育祭のルールはクラス対抗だからな。俺たちが原因で他クラスと周回遅れなんてゴメンだぞ」
それでポイントを落として優勝を逃したなんてことになったら後でクラスメイトになんて言われるか分かったもんじゃない。
「その場合の原因はほぼ百パーセント、アンタの方だろうけどね、なんて言うか運動出来なさそうだし……
けど、確かに悪目立ちし過ぎるのも考えものっちゃ、ものよね。分かったわ少しだけ付き合ってあげる」
いや、もう少しオブラートに包んでくれよ。今の言い方は思わず本音を漏らしたパターンだから余計にタチが悪い。
それにしても上から目線な態度はあんなことがあった後でも相変わらずだな。
東雲の現状を考えるに、案外それは悪いことじゃないのかもしれないが……
「はいよ、一応感謝しとく。それじゃ後で」
俺はそう言ってから自分の席へと戻った。
ひとまず、何とか練習が出来そうで本当に良かった。
ぶっつけ本番なんていろいろと困る。




