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親友の悩み事


 チームと出場種目を決めた帰り道、俺は珍しく斗真に声をかけられた。


「碧、いろいろと大丈夫か?」


 斗真は項垂れる俺に対して優しく寄り添ってくれる。

 結局、俺は二人三脚と棒引きの二つの競技に参加することになってしまっていた。


 そして、俺がショックを受けてるのがこの二人三脚、実は男女ペアでの参加になっていて、そして俺は未だにペアが見つかっていない。

 というか、女子の誰がそれを選んだのかも把握していなかったのだ。


 白井が「ペアのほうはそれぞれで話し合って決めてくれ」なんて言って投げ出すから……

 控えめな性格の俺はまだ誰にも声をかけれていない。


 当然のことだが、声をかけられてもいないのは気にしちゃいけないことだ。


 クソッ、白井のやつ覚えてろよ。


 そんなこともあって、萎えてしまうのも仕方ないことだと思う。

 

「……いや、ダイジョばないけど、それより斗真、部活の方はどうしたんだ?」


 斗真はサッカー部に所属している。もちろん背番号はエースナンバーの10、確かまだ最後の大会を控えた三年の先輩が残ってる筈なのだが……最早驚きはないな。


「いや、少し碧に話があってな……大会前で皆んなには悪いけど今日は休んだんだ」


 このタイミングで俺に話となると……


「もしかして東雲のことか?」


「ああ、そうだ。それにしてもよく分かったな」


 そう言った斗真は苦虫を噛み潰したような表情をしている。

 まだ自分の中で整理がついていないのだろう。


「まぁな、あそこまであからさまだと流石に気づく。

 まだ気持ちの整理がついてないのか?」


 斗真は今日の競技決めでの話し合いに殆ど参加していなかった彼女のことを心配そうに何度もチラ見していた。

 だからこそ、斗真の相談の内容は容易に想像できた。


「うん、風花とはどう接していくのが正しいのかが全く分からないんだ。

 別に裏切られた訳じゃないとは言い聞かせてはいるんだが、なんでだろうな……」


 気持ちの整理はそう簡単につくものじゃないのは分かっていたが、まだまだ時間の方がかかりそうだ。

 それは、斗真と東雲の仲がホントに良かったことの証明、今となってはそれが重しになってしまっていると思うとホントやるせない。


「そこで碧への頼みなんだが、風花のことを任せたいんだ」


「東雲のことを任せたいって、どういうことだ?」


「ホントに無責任な頼みだっていうのは分かっている。

 でも、今の孤立した状態のままの風花はとてもじゃないけど見てられないんだ……だから、軽く話し相手になったり、グループものとかではなるべく一緒になってあげて欲しい。

 だったら自分でやれよって話なんだろうけど、俺にはどうしても出来なくて……だからこそ親友である碧を頼りたい。協力してくれないか?」


 斗真は不安気な目でこちらを伺っている。


 もしかたら初めてのことかもしれない。まさか斗真が俺に頼み事をしてくるなんてな……

 それに今回の東雲の件の元の原因は俺にある。


 斗真がここまで悩んで居たというのに、元凶である俺はなんて楽観的な考えを持っていたんだろうか。


 そんな時、少し前に姉さんに言われたことを思い出す。

 【貴方が後悔しない方を選んで欲しい】

 関わるか、関わらないか、俺の後悔しない方……か。


 更に、最近あった出来事も頭の中に浮かんできた。

 自分の母と戦うことを決めて、それでいてしっかりと結果を出した一人の少女の姿が……

 まだ駆け出したばかりだが、彼女の人生はこれから大きく変わっていくことだろう。


 それも全部、諦めず、逃げ出さすに向き合った結果だ。


 そんな彼女の成長を隣で見ておきながら、俺だけ逃げ出す訳にはいかない。

 だったら答えはもう決まったようなもんだよな。


「斗真、協力なんて言わずにやれって命令してくれても良かったのに。

 分かった、東雲のことは極力気にかけることにするよ。

 けど、俺がアイツに嫌われている可能性が高いから期待の方はあまりしないでくれ。でも、まぁ出来る限りのことはやってみる」


 いっそのこと、可能性が高いというよりも寧ろ嫌われていると言った方がしっくりくるかもしれないな。

 東雲にはいろいろ言っちゃったし、脅しもした。

 既に彼女の中での俺はさぞかし嫌な存在なことだろう。


 だが、だからといって、斗真からの頼みを断る理由にしていいはずもない。

 寧ろ俺が責任を取るべきだ。


「あ、ありがとう。碧、本当にありがとう」


「けど、一つ条件だ」


「条件?」


「そうだ、斗真が東雲とのことで整理がついていない今は避けていてもしょうがないとしても、いつかはちゃんと彼女と話し合って少しでも関係を改善してほしい。

 正直、今の斗真は見ていられないからな」


「……分かった、約束するよ」


 それから暫くの間沈黙が続いた後、俺たちの話題は体育祭のものになった。


「そういえば、碧の参加する競技って二人三脚と棒取り合戦で合ってるよな?」


「おう、合ってるぞ。

 生憎、本当にしたいと思えた競技は何一つないがな」


「それに関してはホントに申し訳ない。

 皆んな必死だったから……まぁ、俺の本音を言うなら碧には200メートル走とかの個人種目にも出て欲しかったんだけど」


「負けてもいいなら俺もそっちの方が良かったよ。

 正直、チーム競技は得意じゃない」


 まぁ、そもそも自分に関係ないと思い話し合いに参加してなかった俺が悪いんだけどね。


「だろうね。

 でも、個人競技に出たとしても碧なら勝てるよね。

 去年は怪我で参加しなかったと思うけど、運動能力と悪知恵は俺以上にあると思ってる」


 そう言い切った斗真は何処か確信めいた様子だった。


「馬鹿言え、俺が斗真以上!? 確かに小学校の頃とかは俺の方が足が速かったりはしたけどさ、それ全部小さい頃の話じゃん」


「んー、最近の碧は体育とかでも目立った成績は残してないけど、手加減してる部分とかあるよね。

 中学の時からそういうところはあったけど、高校に入ってからは特に本気を出してないように見えるのは俺の気のせいなのか?」


「流石にそれは買いかぶり過ぎだ。

 でも、そうだな。一応全力でやってるつもりではいるんだが、どうにも熱が入らないと感じてる部分はある」


 正直、目指してるものとかも特にないし、今を遊んでいる分高校を卒業したら働こうと思っていた。

 姉さんに負担をかけてばかりなのも、そろそろやめたい。


 だから運動で多少サボって成績が落ちたとしても、余り気にならないのが俺の今の心境だった。


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