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成長した雛は親鳥に立ち向かう①


「ごめん、やっちまった……」


 美里さんがそそくさと出て行ってしまった後、俺は音葉に頭を下げていた。

 我慢出来ずにいろいろとぶちまけてしまったせいで、計画は既に破綻しており、最早修正は不可能だといえよう。


「いいえ、謝らなくていいわ。寧ろありがと。」


 音葉はニコリと優しい笑顔を見せてくれる。

 くっ、これは思わずときめいてしまいそうになるほどの破壊力だな。

 アイドルすらも凌駕してしまいそうなその表情は余り他人に見せない方がいいかもしれない。

 じゃなきゃ恋という病に侵された患者達で病院は溢れかえってしまうことだろう。


「失敗させたのにか?」


「ええ、そうよ。

 さっきの会話では私もいろいろ思うところがあってモヤモヤしてたの。でも、碧が私の代わりにいろいろと言ってくれたお陰で今はとっても頭の中がスッキリしてるわ。」


「そうか、そう言って貰えると助かる。」


「それと何となくだけど、この件で美里さんに協力してもらうのは無理だと感じてたから……

 気付きたくはなかったけど、美里さんは自分のお金の事しか言ってなかったわ。

 元より、私のことなんてどうでも良かったのかもしれない。

ずっと第二のお母さんみたいな存在だって思ってたのに……」


 音葉は悲壮感漂う表情で小さな声でそう言った。


 お金を持つと人は変わると言われているが、彼女もまたその1人なのかもしれないな。

 あれでは完全にお金の奴隷だよ。


 それはそうと、これで振り出しに戻ってしまったことになる。


「なぁ音葉、他に頼れそうな人とかいないのか?」


「そのことなんだけど、私にはもう必要ないわ。」


「えっ!?」


 まさか、ここで諦めるだなんてこと……

 一瞬そんな考えが頭をよぎったが、音葉の目を見て直ぐに消え去ってしまった。


「第三者の協力なんて私にはもう必要ないの。

 あの時はお母さんに怒られて簡単に引き下がってしまったけど、それじゃダメなんだって分かった気がする。」


 それはとても芯のある言葉だった。こちらを見ている綺麗な瞳はギラギラとしていて先程の悲しそうな表情は何処にも残っていなかった。


「確か前に碧が言ってたよね……

 私からは " 抗う意志が感じられない " って。」


「ああ、確かに言ったな。」


「まさににその通りだなって思った。

 今まで殆どのことは自分が間違ってるって決めつけて他人に言われるがままに生きてきたわ。でも、それは私がただ単に逃げてただけだった。

 無意識のうちに失敗するのは怖いって、誰かに怒られるのは怖いって、きっとそう思ってたんだと思う……

 それでね、さっき自分で「私が私でなくなる方の方が怖い」って口に出して気付いたの。


 ーー 私は本心からそう思っていたんだってことに ーー


 その言葉は今までに他人から貰ってきたどんな言葉よりも自然な形で胸の中に『ストンッ』って収まったわ。

 自分の意見があるなら他人に協力して貰ってじゃなくて、きちんと私自身の口から伝えることに意味がある。その方が真剣さも感じでくれると思うから。

 だからもう逃げない。私が自分の意見を持って絶対にお母さんを説得してみせるわ。」


「音葉は凄いなぁ……」


 意気揚々としている音葉を見て、そんな言葉がポロリと漏れてしまっていた。


 ああ……決して振り出しになんて戻っていなかった。彼女はちゃんと前に進んでいたのだ。

 そう思うと何故だか自分のことのように嬉しく感じる。

 

「……全然凄くなんてないわよ。

 もし、私のことを見てそう感じてくれているなら、それは全て碧、貴方のお陰なんだから。」


「へっ、俺!?」


「そうよ、当たり前でしょ!!

 そもそも碧が居なかったら私は既にこの世界には居なかったわ。もちろんそれ以外のことも全部よ!」


 まぁ、その部分は否定はしないけどさ。

 それ以降に頑張ったのは音葉なんだから、そこまで持ち上げてくれなくても……とは思うのだが、そこは有り難く受け取っておくことにする。


「それで、説得を試みるのはいつにするんだ?」


「えっ、今からに決まってるでしょ?」


「嘘だろ……」


 というか、俺も含めてなんだか聞いたことのあるようなフレーズになってしまったな。


「嘘じゃなくて冗談よ、流石に今からは時間的に無理だわ。

 気持ち的には問題ないんだけど……だからお母さんが帰ってくる明後日ぐらいになると思うわ。

 碧、ちゃんと私のこと応援しててね。だって私たち友達なんでしょ。」


「あっ、おう、もちろん応援してる。

 そっか……友達か。」


「何よ、自分で言ってたくせに……」


 音葉が少し拗ねた声で言ってくる。


 何それ反則だろ・・・

 自分の顔を鏡で見せた方がいいんじゃないだろうか?

 じゃなきゃ心臓がもちそうもない。


 そういや勢いに任せて言っちゃってたな。

 嫌だって思われてなくて良かった。


「ああ、友達だ、友達。

 音葉、これからも宜しくな。」


「あったりまえでしょ!」


 音葉は小さくはにかんだのだった。

 勝負の日は2日後、正直どうなるのかは分からない。

 でも、今の音葉なら絶対に大丈夫、何故だか自信を持ってそう思えた。

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