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東雲 風花の葛藤 その③ 〜side風花


 私を教室の外へと連れ出したのは、昨日、屋上で私を脅して来た彼だった。


 名前は律真 碧、クラスでは目立つことのない、陰の気配を身にまとっており、私とは一切の関わりのなかった男子生徒。


 しかし、今となっては私の知られたくない事実を盾に、自らの要求を通してくる卑怯者にまでレベルアップしていた。


 そんな彼は黙々と私の腕を引っ張って保健室目指して歩いている。

 意外にも腕を握る力がかなり強く、私には振り解くことは出来なかった。


 その為に、仕方なくズルズルと引きずられるように移動させられている。


 コイツ、なんで私の邪魔ばかり……

 今、斗真と離れてしまうと、もう会話すらして貰えなくなるかもしれないのに。


 そんな想いが私を焦らせた。


 だから直ぐに教室に戻ろうと試みるも、彼はそれを許してはくれなかった。


 正直、コイツは何様か?、と思った。


 私がどれだけ斗真を必要としてるのか知らないくせに。何を持って私と斗真の関係を引き裂くのよ。


 でも、彼の次の一言によって、その言葉を飲み込まざるを得なかった。

 

「そんな関係だったはずの日常を壊したのはお前自身だ。それに斗真にあんな悲しい顔をさせたのも全てお前が原因になっていることは間違いない。それなのに、良くそんな事を言えるよな……」


 苦渋に満ちた彼の声色……

 私は場違いにもこんな感情も表に出せる生徒なのだと少し驚かされた。


 そして、そんな彼が放った言葉は一ミリも間違ってなどいないことは私にも分かっている。


「……っだから違うって、ホントにそんなつもりはーー」


 それなのにも関わらず、私の口から出てくるのは自分を守るための言い訳ばかり……

 しかし、彼はそんな私を逃がさない。


「何も違わないさ。あと、弱ったお前にこういうことは余り言いたくはないんだが、その被害者ヅラやめて欲しんだが……

 知ってると思うけど、どう見ても1番の被害者はお前に裏切られた斗真なんだからさ。

 ここまでは言っても東雲は認めないかもしれない。

 けどさ、この事実は絶対に消えないし、流石に自分でも分かってるよね?

 少なくとも本当に斗真のことが好きで、彼の姿を近くから良く見て来た東雲 風花になら理解できているはずだ。お願いだからこれ以上、斗真を傷つけないでくれ」


 オブラートに包むことなく、ハッキリと自分の想いを伝えてくる。


 辛辣でかつ斗真のことを想うその内容に私は返す言葉を失くしてしまったのだった


 それから暫くの間は黙って歩いていた。

 すると、乱れに乱れきっていた頭の中が少しずつ整理されていき、改めて今までの自分の行いを振り返る。


 ああ、私って本当に救いようのない人ね……

 斗真のことを好きって言っておきながら、結局は全部自分の為で、彼のことなんて一つも考えれていなかった。


 裏切り、傷つけたのは私。

 それなのに、彼の気持ちも理解しようともせずに良くもあんなことを言えたもんだ


 そして、自分の罪がバレると、1番の加害者でありながら、保身の為に被害者ヅラをしていた。

 そんなこと普通に考えて人としてあり得ない。


 そのことに彼に言われるまで気づかないなんて、私は本当にどうかしていた。


 そう思えば思う程、胸の奥がギュッと締め付けられる。


「ねぇ、私、これからどうしたらいいと思う?」


 私は無意識のうちにそう尋ねていた。

 彼からの返事を求めていたというよりも、殆ど独り言に近かったと思う。


 しかし、予想外なことに、彼は口を開いた。


「さぁ? どうだろな。

 まぁ、確実に今まで通りにはいかないと思う。

 なんならいっそのこと小藤に助けを求めてみればどうだ?

 一応、お互いを求め合った仲だろ?」


 それは一見すると、嫌味にも聴こえた。

 何せ、私とのことをバラしたのは小藤 明宏、本人なのだから。

 

 そのことに気づいているのか、いないのかは前髪で顔が隠れてることもあって彼の表情からは読み取れない。

 まぁ、彼が居なかった時の出来事だったし、恐らく後者の方だとは思うが……


 どちらにせよ、少しだけムカついた。

 その為、かなりぶっきらぼうな言い方になってしまう。


「そんなの無理だっての。だって、今回の情報を漏らしたのアキ……小藤君本人だから。

 それもこれも、私を脅して来たアンタのせい……じゃないよな。やっぱりなんでもない」


 その上、またもや人の所為に仕掛けた私は、その言葉を言い切る前に何とか止めた。


 私の話を聞いた彼は少し何かを考えるような仕草を見せてから「そうか……まっ、とりあえず今は保健室でゆっくり休め、その汚れた制服とかも着替えなきゃダメだろ?」と、落ち着いた声でそう、私に言って教室に戻るのか身を翻す。


 ゆっくり休め……か


「……休む意味なんてあるのかな?」


 私がそうやって小さく呟いた言葉に彼は足を止めた。

 もしかして、聞こえたのだろうか?


 そう思っていると、彼は振り返り真剣な表情で私に問いかけた。


「それはどういう意味だ?」


 やはり聞こえていたようだった。

 彼のどことなく張り詰めた雰囲気に少し驚かされながらも、心の中の自らの想いを告げた私は半ば八つ当たりのような状態だ。


「ーーっだって私、斗真にも嫌われちゃったし、それに教室にはもう戻る場所なんて何処にもないから……

 いっそのこと私なんて居なくなった方がーー」


 そこまで言って私の言葉は遮られる。


「東雲、それ以上は言うな」


 かなり強引に介入して来た彼は、苛立ちを滲ませていた。

 怒ってる?

 ―― どうして ――


 しかし、その疑問はすぐに解決することになる。


「お前は今よりも斗真のことを傷つけたいのか?

 優しい斗真のことだ、今回のことでお前が死んだらそのことで必要以上に責任を感じることだろう。

 例えそれが、自分を裏切った相手であってもだ。

 本当に斗真に悪いことをしたと感じてるなら、死を逃げ道にせずにちゃんと斗真に謝ってこい。

 許してもらえるかは分からんがな」


 ああ、彼は本当に斗真のことが大切なんだ。

 私、また自分のことばかりで斗真のことを傷つけかけてた……


「絶対に逃げるな、自分でしでかしたことぐらい自分でケリをつけやがれ」


 彼は続けてそう言った。


 そして、最後のその言葉は私は保健室に入った後も頭の中に残り続け、こだまする。


「逃げちゃいけないよね……」


 現状から目を背けずに生きること、それが今後私に貸せられた罪の一つなのだと思う。


 恐らくそれは、酷く辛いものになることは確実だ。

 正直、味方、誰一人居ない中での学校生活なんて、想像もできない。


 でも、今の私に出来ることはそれだけなのかもしれない。

 とりあえずは、私は自分のしてしまったことを見つめ直し、これ以上は斗真を傷つけないようにしないと……

 それでいて、関係の改善は出来るかは分からないけど、落ち着いたら斗真に謝る。

 出来ればクラスの皆んなにも……

 

 きっと、それは体力、精神力、それらをかなり使うことになる。


 だからこそ、今は休もう。


 それにしても、律真 碧、実に変なやつだった。

 彼の行動は斗真を守るためにやったものが殆どで、私の為になんてことはないのかもしれない。


 それでも今日は彼に助けられた。

 私は密かに彼に感謝する。


 斗真をこれ以上傷つけずに済んだのも、私がこうして自らの罪に向き合おうと思えたのも全て彼のおかげだった。


 ただの根暗かと思いきや、何処か違う。

 まだ、彼のことはよく分からないが悪いやつではなかったな……


 この時の私はまだ気づいていなかった。斗真のことと同じくらいに彼の事を考えていた自分がいたことに。

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