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東雲 風花の葛藤 その② 〜side風花


 朝、学校に登校してくると私は思わず息を呑んだ。なんと例の噂が既に教室に広まっており、私は直ぐにクラスの生徒達に囲まれてしまう。


 そして、アキ君とのことが真実なのかと、敵意むき出しで問い詰められるのだった。


 律真のやつ、私を騙しやがったな。

 最初はそう思った。猶予を与えるふりをして油断させたのだと。


 それが事実である為、私はなにも言えずに黙っていると、そこで突然アキ君が口を開く。


「少しいいか?」


 アキ君! 


 私は縋るような思いでアキ君の方を見つめた。

 でも、何故だろうか。アキ君が凄く悪そうな笑みを浮かべている気がする。


 私はそんなことに不安を強くした。

 そして、その嫌な予感は残念ながら当たってしまっていた。


「ごめん、東雲……

 でも、こんな関係はやっぱり良くない。東雲の誘いにのった俺も悪かったと思ってる。だから後で阿契の方には謝るつもりだ。なぁ、東雲、お前も罪を認めて一緒に謝らないか?」


 ーーえっ、なに言ってんのーー


 しかし、彼がとった行動は私が想像してたものと180度違った。助けてくれるのかと思えば、真実を捻じ曲げてより私を悪者に仕立て上げてきたのだ。


 そして、全てをぶち撒けたアキ君は、私に近づいてきて耳元で囁いた。


「バレるようなヘマをするからこうなるんだよ。

 本当にこの俺がお前なんかに惚れたとでも思ったか?クラスの中心人物であるお前と関係をもって、悦に浸りたかっただけだからな」


 そこで私は気付いた。

 今回のこの状況は彼が作り出したものなのだと。

 自分はたった今、捨てられたのだと。


 その後アキ君は私にきびすを返してから、いつも一緒いるグループの元へと帰って行く。


「ちょっと、待っーー」


 私は慌ててそんな彼を引き止めようと思い手を伸ばしたのだが、彼に手が届く前に誰かに足を引っ掛けられた。


 痛っ!


「悪いけど待たないから、東雲、覚悟は出来たんだろうな?」


 アキ君が通った道を塞ぐように複数の人間が私の逃げ道を完全に塞ぐ。


「ひぃっ! 綾乃さん助けて!」


 昨日まで仲良く斗真を囲んでいた米谷 綾乃に声をかけるも視線を逸らされる。


 志保(しほ)なら――

 私の一番の親友とも言える赤井 志保。そんな彼女なら私の味方になってくれるかもしれない。そんな想いで彼女を探した。

 しかし、志保を見つけた私は思わず小さく息を呑む。


 何故なら彼女は、私も見たこともないような表情で、こちらを睨んでいたのだ。


 ここにはもう、誰も味方はいない。


 それからは様々なことをされた。

 誰かは私の髪の毛を引っ張り、別の誰かは私の弁当箱をひっくり返す。


 もう何がどうなってるのかが分からないくらいに荒らされた。


 そして、そんな時だった。


「斗真……」


 斗真と彼が教室に現れたのはーー


 私が一番恐れていたのは今回の事が斗真に伝わることで、でもそれを防ぐことは無理だということは分かる。


 その為、私を心配して近づいて来てくれた斗真に対して最初に飛び出した言葉は、自らを保身するための言い訳だった。


「と、斗真…… 違うの、私そんなつもりじゃなくて!

 そう、あれはちょっとしたお試し期間的なヤツなの。

だから、裏切ってなんかないよ。嫌いになんてならいよね?

 私には斗真が絶対に必要なの!」


 自分がしたことに対する罪の意識よりも、ただ嫌われたくない。その一心で私は必至になっていた。

 途中からは自分ですら何を言ってるのか分からないほどに頭が回っていない。


 結果的にねじ曲げられた真実を全て聞いた斗真の表示は暗かった。

 悲しんでるようにも怒っているようにも見えるその表情は間違いなく負の感情を含んでいる。


 そんな顔をさせたかった訳じゃなかったのに……

 しかし、バレるとこうなることぐらいは、馬鹿な私にも分かっていたはずだ。


「あっ……と、斗真、今度は私の話をして聞いてくれるんだよね?

 斗真は嘘を付いたりしないよね?」


 そうやって追い詰められた私から出た言葉は、自分で言っておきながら、酷い言葉だと思う。

 でも、地位も信頼も失った私には斗真の優しさにしか望みがなかった。


 優しい彼なら、許してくれるかもしれない。


 多分そんな甘い考えを何処がで持っていた。

 しかし、現実は必ずしもそうとはならない。


「……ああ、ちゃんと話は聞くよ。でもそれは後でにしよう。

 風花、君は少し保健室に行って休んできたらどうだ?

 今の風花はとてもじゃないけど授業を受けられる状態には見えないよ」


 話をその場で聞いてくれる訳でもなく、保健室に自ら連れて行ってくれる訳でもない。

 普段の彼なら率先して行ってくれるような内容のことだ。

 しかし今日はそのどれもをしなかった。

 やはり、簡単には許せないということなのだろう。


 私は呆れられ、捨てられようとしている。

 そう思うと一気に涙が出てきて視界を奪っていく。


 もちろん原因は私で、悪いのも私だ。


 それでも、諦められない。斗真が私を捨てるなんて絶対にあってはならない。


 そんな斗真に見捨てられたくないという想いが強くなり、癇癪を起こしかけたところで私は一人の男に教室の外へと連れ出された。

 

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