テーマパークデート③
「うわぁ、メチャクチャ楽しかった。ジェットコースター乗るの久しぶりだったから、どうなるかと思ってたんだけど……碧はどうだった?」
無事にアトラクションを乗り終えた後、音葉はニコニコとした明るい表情で聞いてきた。
アトラクションによって少し乱れた髪を右手でちょちょいと直してから帽子を被っている。
「そうだなぁ、少し怖かったけど普通に楽しかったぞ」
正直、乗る前まではメチャクチャ不安だった。何せ子供の頃に乗ったジェットコースターが本当に怖かった思い出があったからだ。
でも、だからといって二人で来たのにも関わらず、一人で乗ってこいとは流石に言えなかった。それに俺が口を開いた時には断るなんて考えはなく、ほぼ無意識で音葉に同調していたのだから断る余地もない。
結局のところ音葉と一緒に乗りたかっただけなのだろう。
それに、これが意外なことに、想像以上に楽しめたことは思わぬ収穫だった。恐らく俺も年齢を重ねて成長していたということなのだろう。
だが、その代償に口の中はかなり甘ったるい。
それは、俺が待ち時間ギリギリのタイミングで例のジュースを無理矢理飲み干したからだった。
もう最後の方は美味しいなんていう感情は何処にもなかった。甘い甘い、吐きそう……そんな感じだ。
あの時あのジュースを選んだ自分を殴ってやりたい。とも思ったのだが、音葉との少しだけ甘い時間を過ごせたのはラッキーだった。ある意味気まずくもあったんだけど……
って、ダメだ!そんなやましい気持ちでいたら音葉に申し訳ない。
彼女とはただの友達それ以上でもそれ以下でもないのだ。
途中で音葉が何度も手伝おうか?と聞いてくれていたのだが、そこは遠慮させて貰った。これ以上は無理をして欲しくなかった。
「そっか良かった!、だったら次はアレ行かない?」
「おぉ、凄いの来たな」
続いて彼女の指差す先には、ぐるりと一回転するジェットコースターがあった。つまり今回は130度どころか360度、遠心力をかなり感じられそうな一品となっている。
結構ヤバそうだけど、まぁ大丈夫か、さっきのも普通にいけたし……だが、よく見ると最初は後ろ向きに落ちていた。それに足も宙ぶらだ・・・えっ、ちょっと待って座席部分も回転してない!?
最早どうなっているのかが、外から見ていても分からなかった。これホントに大丈夫だよな?
いろんな意味で不安になった。
そんな不安気な俺の様子を見てか、ダメだった?と聞いてくるので、答えはもちろんOK。
恐怖がなくなったわけではない。これは条件反射的なものなのだ。
「音葉は結構絶叫系いけるんだな」
「うん、最初は不安だったんだけど、さっきのでちょっとハマっちゃったかも」
「そうか、そいつは良かった……」
喜ぶべきか、どうやら音葉は相当強いタイプらしい。
その反面、俺はフワリと浮く感覚がどうにも苦手だった。でも、さっきのジェットコースターくらいなら大丈夫なことが分かったから俺も意外と強いのかもしれない。
昔の苦手意識だけをずっと引っ張って来てるだけの問題的な?
ただ、不安点をあげるとするのなら、音葉の狙うそれは先ほどのものより最高到達点の高さが2倍近くあった。
普通に考えると浮遊感も2倍になるのか?
ちょっとビビった。
うん、……もしかしたらタイミング悪く、乗車直前でお腹を痛めてしまう可能性が出てきた。
「よしっ、碧の許可も出たことだし、それじゃあドンドン行ってみよー」
「ほどほどにな……」
右手を元気よく上に挙げた音葉は、ルンルンと鼻歌を歌いそうなくらいのテンションで俺の隣を歩いている。
そんな彼女の姿を見れただけで、俺は今日ここに来て良かったと感じていた。
普段何かとプレッシャーが掛かることが多い仕事柄なだけに今日くらいは息を抜いて欲しい。それが今の俺の切実な願いだ。
「音葉、今日は楽しもうな」
「どうしたの急に?」
まぁ、そういう反応になるよな。
「あ、いや、別に今思ったことを伝えただけだ」
「ふぅ〜ん、でもだったらもう大丈夫ね。だって今、もの凄く楽しいんだもん」
ニコッと、甘い蜜のような笑顔を帽子の下から覗かせてくれる。
か、可愛すぎる……
恐らく顔を晒していたら10人中10人が振り返ってしまうくらいの威力があったと思う。それを俺だけに見せてくれるのだからいろいろと勿体ない。
本当に音葉の隣を歩いているのが俺なんかでいいのか?
もっと輝かしい人生を送ってるアイドルとか、イケメン俳優とかの方がいいんじゃないか?
彼女と過ごす時間は楽しい反面、時々そんなことを考えさせられる。最近はRoeleの話題にも拍車がかかり、歌手人生としても絶好調なはずだ。
もちろん音葉のことは応援してる。
けど……だからこそ、俺じゃ友人としてでも釣り合わない。余計にそう思わずにはいられなかった。




