テーマパークデート①
「うわっ、碧、あれ見て!あのジェットコースターの角度凄くない!?」
「碧!、あれなんて一回転しちゃってる!!」
「おおおっ、大きな船……」
俺は隣ではしゃぐ音葉を温かい表情で見ていたことだと思う。
そう、計画してまさか、1週間経たずして乙未ハイランドに来てしまっていた。本当にまさかのまさかだった。
正直、心とお金の準備をするのには、時間的にかなりギリギリだった。まぁ、俺は基本的に休日は暇だ、つまり音葉の予定さえ空いていれば行けることになるのだから、こういう想定もしておくべきだったのだろう。
「音葉は何処から行きたい?」
俺は隣を歩く美女に問いかけた。帽子にサングラスといつも通りの鉄壁さを見せつつ、白いブラウスに茶色のテパードパンツを着用している。もちろん似合っていた。
まぁ、音葉ほどの美少女にならなにを着せても似合うことだろう。
「んー、最初はあの落ちる角度が凄いやつかな」
音葉の視線の先には90度と真下に落下するのではなく、130度とかなり特殊な創りになっているジェットコースターがあった。
見てるだけでも悲鳴が聞こえてきてかなり怖そうだ。
「奇遇だな、俺も手始めにそこら辺がいいんじゃないかと思ってたんだ。ただ、その前に飲み物は買っておきたいな」
「うん、そうだね!」
意見の一致した俺たちはひとまず、飲み物を売ってるところを探すことにした。
チラッと自動販売機が奥の方に見えたのだが、ここはひとまずスルーする。えっ、なんでって!?そりゃあ、ここまで来て自動販売機とか味気がないじゃん。どうせならここでしか買えないような飲み物が欲しい。
そう思って周囲の景色を楽しみながら探してると、丁度飲み物を売っているお店があった。
「音葉、どれにする?」
「うーん、私はやっぱりお茶かな」
滅茶苦茶はしゃいでいた割に案外普通のモノを選ぶんだな。
碧は?、と聞かれたので俺は再びメニュー表に目を落とした。水に、緑茶、オレンジジュース、コーラ、と普段目にするのもと変わらない商品が並ぶなか、見たことのない名前が目に留まった。
「プリットジュース〜カラメルを添えて〜」
「えっ!?」
俺が何気なく口に出して読んでみると、冗談でしょ!?みたいな顔をされてしまった。
「ダメだったか?」
「ああ、いや、碧がそれでいいなら良いと思うけど……」
なんか微妙な反応だな。確かに名前からしても少し不安ではあるが・・・
でも、今日ここまで来て、逃げるという選択肢は俺にはなかった。
「プリットジュースと緑茶を一つずつお願いします」
「はい、分かりました。プリットジュースの方は少し時間を頂きますが宜しいですか?」
「大丈夫です」
「料金は二つ合わせて800円になります」
うおっ、高いな。一瞬そう思いながらも支払いを済ませた。
よく見ると普通の緑茶でも300円も高価なものになっている。どうやら、これがテーマパーク仕様というやつらしい。
そして、暫く待っていると甘ったるい香りを漂わせる何かが、カウンターの奥から登場した。何十にも重なる黄土色と黄色の層が透明なカップの側面から覗かせている。
凄い匂いだ。ここまで来ると、一目でカロリーの鬼だと理解出来た。
仕上げにカップに注がれたトロリとしたカラメル、それが追い討ちで甘さのパンチをあたえてくる。
全ての工程を終えたそれは、カップの上にプラスチックの蓋とストローを付けて俺の前に出された。
「お待たせ致しました。プリットジュース〜カラメルを添えて〜、になります」
「ありがとうございます」
俺がプリットジュースを受け取ると、音葉がひょこっと頭を出して覗き込んできた。
買うのは躊躇うが一応、気にはなるらしい。
「ねぇ、碧、これってプリンだよね?だったら、プリットジュースじゃなくてプリンジュースでいいのに」
ごもっともなことを言う音葉を横目に、俺はその場で一口飲んでみることにした。
「うん、味は少し独特だけど、基本的にはプリンだな」
食感も固形までとはいかずとも、プルリとしている。まるで飲むゼリーのプリンバージョンみたいな感じだった。
ついに、プリンもジュースになる日が来たのか、と思わされる。
はは、夢があっていいな。お財布には現実を見て貰わなきゃだけど……
「美味しい?」と聞かれたので、俺はニコリと笑って「んー、甘い」とだけ返しておいた。
でも、これは仕方ない。美味しいの前に甘いしか出てこないのだから。
「ねぇ、私にも一口くれない?」
「おう、別にいいぞ」是非とも音葉にもこの甘いとしか言えなくなる甘さを味わって欲しいと感じた俺は、迷うことなく音葉にカップを渡した。そして気づく——
ん、ちょっと待てよ、あれ?、これって間接キスになるんじゃ……
「おっ、音葉、ちょっとタンマ。あっ……」
「うわっ、甘〜い」
が、時は既に遅し。余りの甘さに顔を歪めつつも、楽しそうにしてる音葉の姿があった。
すげぇ可愛い……いや、そうじゃなくてだな。
「ん、どうかしたの?」
被害にあった当の本人はキョトンとした目で、不思議そうにコチラを見つめている。
「あっ、いや、その、なんていうか。俺の飲み差しなんかで良かったのかなぁ、と思いまして・・・」
ヤバい、気まずい。ちょー気まずい。
「飲み差し? ——っあ!!………………」
音葉は声にならない声をあげると、一瞬にして顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「ホントごめん、俺がもっと早く気づいていれば」
「いや、碧は悪くないって、私もそんなの全然意識とかしてなかったし、コッチこそごめん」
意識されてなかったのか。それはそれでなんか、辛いよな。
まぁ、友達ポジションだし、普通と言えば普通なのか。
俺は自分の心にそう言い聞かせながら、顔の火照りがおさまるまでその場で暫くの間、待機していた。




