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ドキドキのモヤ


 学校終わりに家に着いた俺は音葉と通話をしていた。

 音葉は電話を掛けてくるなり、俺が断った食事会の内容を楽しそうに聴かせてくれる。

 楽しそうに話す彼女の声を聞いていると、意外とアットホームな会場だったのかもしれない。

 俺は行けば良かったと少しだけ後悔させられた。


『杉浦くんがね、ホント面白くて……

 ねぇ、碧ってば、聞いてる?』


「おっ、おう、聞いてる聞いてる、それで?」


「それでね!………………」


 再び楽しそうに喋り出した音葉に俺は小さな不満?みたいなものを抱いていた。いや、こんなことで不満を抱くなんて可笑しいとは自分でも思ってる。でもさ、さっきから音葉、柚月っていう子と杉浦君の話ばっかりなんだけど…

 そのことが何故だか気に食わない。今までにこんな事なんてなかったから余計にだ。


 別に、話の内容に面白さを感じていない訳ではない。音葉の親友がドラマとかにも出てる女優の有馬ユヅキってことには驚かされたし、そんな彼女の人柄を知れて面白かった。

 それに杉浦くんの話もかなりインパクトがあって聞いていて飽きることがないように思える。

 

 それなのに嫌だった。

 正直、何が?、と聞かれると答えられないと思う。ただ、さっきからずっとモヤモヤして仕方ないのだ。


 ちょっと自分でも訳がわからない。


『それで杉浦君がさ、私のファンだって言ってもらえて』


「あのさ、音葉」


『うん?、なに?』


「次の休日、どっか遊びにいかない?」


『えっ……』


 はっ!?、俺は何を言ってるんだか……

 絶対今、そんな空気じゃなかっただろうが!!


 口を開くと勝手にそんな言葉が飛び出してしまった。まるで、息を吐くように・・・


「いっ、いや、別に嫌ならいいんだけど」


 しかし、逃げるように言った俺の言葉に音葉は強く反応をしめした。


『嫌なわけないじゃん!、私も行きたいよ碧と遊びに……』


 嫌なわけない、か。やべぇ、なんかスゲェ嬉しい。

 今までこんな気持ちが昂ったことなんてなかった。でも、今日は自分でも意味が分からないくらい興奮していた。


「ほんとか!?、他にも誰か誘おうか?」


『ううん、大丈夫、私は碧と二人が良い、——っじゃなくて、たまには少人数で遊んでも良いかなぁって思って』


「あっ、ああ、そうか。分かったそうなんだったら二人で行こうか」


 なんで、こんなにカタコトになってんだよ。今までも結構喋ってきたはずなのにな。

 音葉も音葉でなんか緊張してるし、本当に初対面なのかってレベルだった。

 前回の通話でも、勢いの良い滝のようにドバドバと出てきた会話の話題が、今では凍結してしまった水道のようにチョロチョロとしか出てこない。


 まぁ、完全に俺のせいなんだけどな。

 でも、勝手に出てしまった言葉なのだから仕方がない。別に友達としても普通の誘いだと思う。


『それで、行き先とかは決めてるの?』


「いや、まだだけど」


『そっか、だったら私行ってみたいところあるんだ』


 何処だろうか? 

 映画とか、カラオケとか? カラオケに関しては前に行けなかったのもあるからなぁ。

 もしかして、今度こそ音葉の生歌を聴ける!?


「ちなみにどこなんだ?」


 俺は若干カラオケを期待しながら聞いてみた。


乙未(おつみ)ハイランド!!』


「うぉっ、そうきたか……」


『どう?、楽しそうでしょ!』


 乙未ハイランドといったら、かなり絶叫系が有名なところだな。それに、日本最大級のお化け屋敷もあったはずだ。それに前にテレビで見て、一度でいいから行ってみたいと思っていた場所でもある。

 距離的にも電車で2時間弱のところだし、行けないこともない。


「ああ、凄く良いと思う。でも、俺となんかで良いのか?

 それに、人が多いからバレる危険性もある」


 そう、問題はそこだった。テーマパークなんかに行くと嫌でも半日以上は絶対に潰れてしまう。待ち時間だってそれなりにあるはずだ。そんな中、俺と二人きりの状態で行って、つまらなかったなんてことにはしたくない。

 それこそ、二人で行くなら柚月さんとかと行った方が楽しいと思う、せめて俺であるなら東雲……はちょっとNGか。

 なら天音さんとか姉さんも誘った方が盛り上がるに決まってる。

 

『あのね、嫌なら提案してないから。碧と行けるから楽しみにしてるんだよ。それと、柚月に教えて貰ったんだけどテーマパークとかみたいに人が多いところの方が意外と紛れてバレないらしいよ。それに皆んな遊びに夢中だろうから』

 

 なるほどな、言われてみれば確かに……

 

 それにしても、嬉しいことをサラリと言ってくれる。ホント友達冥利に尽きるな……

 でもこれって、もしかしてデート?

 いやいやいや、そんな邪な気持ちを持っちゃ音葉に悪い。前にも、そう感じてしまったことはあるんだけど。

 けれど、向こうは俺を信頼してくれてる訳なんだし、……まぁ、浮かれるなって言われても無理なんだけどね。

 だって、女子と二人でテーマパークだぞ、そんなん人生で初めてだし、そもそもテーマパークってなだけで久しぶり過ぎてテンションMAXだしな。


「そう言って貰えるとありがたいや……よしっ!じゃあ乙未ハイランドで決まりでいいか?」


『うん!、また仕事の日程送るね。

 ホント楽しみにしてる!!』


「俺もだ!」


 こうして音葉との約束を取り付けた俺からは先ほどのモヤモヤは既に消え去っていた。

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