彼の居ない食事会③ 〜side 音葉
お店の中に入ると、お母さんの知り合いであろう人物達が既に何人か待っていた。
私も何度か見たことのある顔ぶれだ。彼らはお母さんの存在に気づくと、こちらに歩み寄ってくる。
「音葉、私は少し話してくるから、気まずいなら離れて待っていても良いわよ」
そう言われたので私はありがたく少し離れたところで待っていることにした。顔見知りといっても別に話すような間柄じゃないし、それにお母さんの娘だからという理由で、何歳も年上の人達からへこへこと頭を下げられる。
だから、やり辛いというのが本音だ。
「あっ、音葉、久しぶり!!」
私が近くの壁に背中を預けてお母さんの姿を見ていると、突然声をかけられた。
随分と懐かしい声のような気がする。私はその声の発生源へ期待に満ちた眼差しを向ける。
「っ、柚月!」
そこには、金髪美女の姿があった。彼女の名前は桜木 柚月女優をやっていて私にとって一番の親友だ。お互いに忙しくなり最近は殆ど会えていなかったのだが……あれ、身長又伸びた?
昔から私よりもけっこう高いイメージだったけど、ここまで差はなかったはずだ。それなのに多分、今は170センチを確実に超している。
スレンダー身体からはすらりとした手足が伸びていて、スタイルは私が知ってる中だと玲奈さんに近いと思う。しかし、玲奈さんの醸し出す雰囲気と彼女が感じさせる雰囲気は全く違う。
玲奈さんいろいろとは完璧過ぎて思わず、お姉様と呼びたくなるのに対して、柚月は少し垂れ目気味で、おっとりとした印象を受ける。そう、なんていうか身体は私よりも大きいのにも関わらず、守ってあげたくなるようなオーラを纏っているのだ。
まぁ、性格はそうでもないんだけど。
「来てくれたんだ……」
「うん、仕事がひと段落したから来ちゃった。それに、仕事の関係上でこっちの方に引っ越すことになったからこれからはもっと会える時間が増えると思うんよ」
「えっ、ほんと!? 嬉しい……」
柚月の少しおっとりとした声に懐かしさを感じながら、喜びをグッとかみしめた。私が悩んでた時、柚月に相談するかを何度も考えた。それくらいまでに心を許せる相手だ。まぁ、忙しい彼女の立場を考えて結局は出来なかったんだけど。
「うん、ホンマやよ。それにしても音葉はすごいね!私、あの曲を聞いてホンマに驚いたんやから。もちろん直ぐにダウンロードしたで」
そう言って『start Line』の画面を私に見せてくれた。もちろんミュージックビデオの方もいっぱい見返したんよ!、めっちゃカッコ良かった!!、そんな嬉しい言葉ももらえた。
「私も柚月の出てるドラマとか映画とか見たよ。もう、ホントに売れっ子女優よね」
この前は脇役だったけど、月9にも出ててた。ネットニュースではネクストブレイク女優なんて肩書きもよく見かけている。
「フフッ、流石に一億回とかは見られんやろうけど……」
「それは……なんだか比べるところが違う気がするわ」
「うん、そうやろね!」
「だよね!」
そう言って私たちは笑い合った。
「音葉、なんか前よりも随分と明るくなったよね」
「そ、そう?」
「うん、絶対にそうや。前までは強く吹いたら消えちゃうロウソクの火みたいやったのに、なんか今は、メラメラ燃えたぎっててどうやっても消えない炎って感じ……
なんか良いことでもあったん?」
あったと言えば、あったけど……真面目に答えたら碧のこと聞かれちゃうよね?その部分は絶対に通って避けられないとこだから。
でも、そういえば確か柚月って彼氏さん居たよね。前に聞いた記憶あるし。もしかしたら、聞いたらアドバイスとかもらえたりして……
いやいや、恥ずかしいしやっぱり無理!
「もしかして、男?」
「はいっ!?、ち、違うから」
予想外の言葉に私は大きく動揺してしまった。
「ハハ〜んっ。ついにか、ついに出来てもたか。
まさかとは思ってたんやけど……まぁ、これでも遅いくらいやね」
柚月はニヤニヤしながら、頭をポンポンと叩いてくる。子犬のような可愛らしい顔をしてるくせに、私のことを揶揄うとこは全く変わってないんだから。
「だから、ホントに違うってば。まだそーゆー関係じゃないもん」
「まだ……、ねぇ。
よし、後でご飯食べながら、ゆっくり聞かせてもらうからね」
「ああ、うぅっ……」
柚月のバカぁ。顔が熱い……多分、今の私は周りから見ると顔を真っ赤にしてることだと思う。
ぁぁ、恥ずかし過ぎて死にそうだ。
「おっ、柚月じゃねぇか」
「うわっ、最悪……」
私たちが話してると、何処からともなく現れた一人の男性が柚月の名前を呼んだ。
その男性は髪を茶色に染めていて、態度がデカいことが一目で分かる歩き方でこちらへと近づいてくる。
やっかいそうな人ね……
それが私の第一印象だった。
柚月は彼の存在に気づくなり、顔を歪ませると、私のことを隠すように一歩前に出た。




