ケジメの付け方
俺は東雲 風花を廊下へと連れ出すとそのまま保健室に向かおうとしていた。
しかし、その道中で東雲が抵抗を見せる。
「ちょっ、ちょっ、アンタ引っ張らないでよ。
ってか、その汚れた手を離してよ」
しかし、俺は彼女の手首を離す事なく……寧ろ握る力を強めた。
決して汚いと言われたことにムカついたわけではないはずだ……
「ダメだ、今離すとすぐに教室に戻ろうとするだろ。
だからその願いは聞けない」
「なんでよっ、私が戻らないとこのまま斗真が遠くに行っちゃうの!
斗真には私が必要で私にも斗真が必要、分かる!?」
興奮する東雲のそんな言葉が俺をイラッとさせた。
コイツは何処まで自分よがりなんだよ。
「そんな関係だったはずの日常を壊したのはお前自身だ。それに斗真にあんな悲しい顔をさせたのも全てお前が原因になっていることは間違いない。それなのに、良くそんな事を言えるよな……」
「……っだから違うって、ホントにそんなつもりはーー」
「何も違わないさ。あと、弱ったお前にこういうことは余り言いたくはないんだが、その被害者ヅラやめて欲しんだが……
知ってると思うけど、どう見ても1番の被害者はお前に裏切られた斗真なんだからさ。
ここまでは言っても東雲は認めないかもしれない。
けどさ、この事実は絶対に消えないし、流石に自分でも分かってるよね?
少なくとも本当に斗真のことが好きで、彼の姿を近くから良く見て来た東雲 風花になら理解できているはずだ。お願いだからこれ以上、斗真を傷つけないでくれ」
それは俺の心の底からの叫び声だった。
いつも明るく、誰にでも人当たりのいい斗真。
それは俺に対しても同じで常に、優しく接してくれている。
だからこそ、何とかしたい、そう思っている。
今のところ全て空回りしている気がするが……
実に情け無い話だ。
これで何も感じていないようなのであれば彼女は本当に救いようがない。
「…………」
俺がそこまで言うと彼女は抵抗を辞めて大人しく引っ張られ始めた。
それから保健室の近くまで来た時に、先程まで黙り込んでいた東雲が口を開く。
「ねぇ、私、これからどうしたらいいと思う?」
彼女は先程までとは違って少し落ち着いた声色で俯きながら俺に聞いて来た、のか?
「さぁ? どうだろな。
まぁ、確実に今まで通りにはいかないと思う。
なんならいっそのこと小藤に助けを求めてみればどうだ?
一応、お互いを求め合った仲だろ?」
今回の件で斗真グループからの風あたりは強くなる。
なんなら既に除名されていてもおかしくない。
そうなってしまう以上、彼女の交友関係は壊滅的になってしまうことだろう。
だから、小藤グループに入ってしまえ、という訳だ。
だが、俺は自分でそういいつつも、それは難しいだろうなと考えていた。
東雲は小さく首を横に振る。
「そんなの無理だっての。だって、今回の情報を漏らしたのアキ……小藤君本人だし。
それもこれも、私を脅して来たアンタのせい……じゃないよな。やっぱりなんでもない」
やはり、小藤が漏らしたことだったか……
恐らくは、昨日の俺との一件を相談するために話を持ち込んだことが原因だろうな。
本当に彼女の事を愛していたのであればこんな事は絶対にしないはずだ。
東雲がしていたように小藤もまた、東雲を利用していただけなのかもしれない。
「そうか……まっ、とりあえず今は保健室でゆっくり休め、その汚れた制服とかも着替えなきゃダメだろ?」
保健室の前にたどり着いた俺は東雲に一声かけてから、教室へと戻ろうとすると「休む意味なんてあるのかな?」そんな声が聞こえてくる。
それは俺に聞いたというよりも独り言みたいな感じだったが、気が付いた時に俺は足を止めて振り返っていた。
あの時みたいな嫌な感じだな。
それも、少し前に出会った一人の女性から感じられていたものとかなり似ていた。
全てに絶望を抱き、諦めたようなそんな雰囲気とでも言えばいいのだろうか……
ただ、放って置くには少しばかり危険かもしれないと感じたが為にそちらの様子を伺った。
「それはどういう意味だ?」
「っだって私、斗真にも嫌われちゃったし、それに教室にはもう戻る場所なんて何処にもないから……
いっそのこと私なんて居なくなった方が「東雲、それ以上は言うな」
俺は彼女の言葉を遮る。
ただし、それは決して彼女のことを思ってではなかった。
「お前は今よりも斗真のことを傷つけたいのか?
優しい斗真のことだ、今回のことでお前が死んだらそのことで必要以上に責任を感じることだろう。
例えそれが、自分を裏切った相手であってもだ。
本当に斗真に悪いことをしたと感じてるなら、死を逃げ道にせずにちゃんと斗真に謝ってこい。
許してもらえるかは分からんがな」
そう、俺が彼女の言葉を遮ったのは、彼女の死が今以上に斗真を傷つける要因になり得るからだった。
なんなら、東雲自体には憎しみの感情に近いものを抱いている。
それは勿論、友人を傷つけられたからに決まってる。
だから、彼女が今、音葉と同じように滝の中に身を投げ出したとしても、俺は前みたいに何も躊躇することなく、助けるために飛び込むことは出来ないと思う。
それでも今は彼女に消えられてしまっては困るのだ。
「絶対に逃げるな、自分でしでかしたことぐらい自分でケリをつけやがれ」
俺は続けてそう言った。
「そうね……少し考えてみる」
東雲は少し驚いた様子を見せながら、そう言ってから保健室の中へと消えて行った。




