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死の魔球


「ひゅーぅ、雪ちゃんやるわね」


 姉さんは少し驚いた表情でそう言った。

 それに対して音葉と東雲はこわばった表情で固まっている。


 まぁ、無理もない。

 味方である俺ですら恐怖を感じさせられたサーブだったからな。


 正面に立ってたらと思うとゾッとするよ。


「ありがとうございます。でも、まだまだここからですよ」


「そっか、じゃあ楽しみにしてる」


 普段はものすごく仲の良い二人だと思っていたが、戦場に出たらライバル、そんな言葉が相応しく思えてしまう。


「ふ、二人とも、お手柔らかにな……」


 うん、なんて言うか目がガチだ。


 そこから天音さんが二本ほど音葉と東雲の間にサーブを打ち込むと、それを取り合った二人が互いにぶつかって尻もちをついた。

 勿論、非常なことにボールはストンと地面に落ちてしまう。


「おい、今のは私のとこだろ!邪魔すんなっての」


「そっちこそ、ちょっと良いとこ見せたいからって張り切り過ぎなのよ」


 おそらく二人が喧嘩を始めるのも天音さんの筋書き通りなのだろう。

 先ほどから俺の後ろで不敵な笑みを浮かべていた。


 女って、いろいろと恐ろしいな……


「碧君、どうかした?」


 そして、お決まりのごとく勘までするどい。


「あっ、いや、凄いなって思って」


「そっか、ありがと。

 ただ、このままだと私のサーブだけで終わっちゃいそうだから、代ろうか?」


「いや、大丈夫だ。思う存分にやってくれ」


 音葉達には申し訳ないが、あんなサーブを見せられた後に、やる勇気なんてこれっぽっちもない。


「ちょっと、音葉ちゃんと風花ちゃん。こっち来て!」


 そんな状況を見兼ねたのか、姉さんは二人を集めると、小声で何かを話し始める。


 それから、姉さんたちは暫く話したあと再び散開した。


「時間貰っちゃってごめんね。もう、雪ちゃんが凄過ぎるから私もちょっとだけスイッチ入っちゃったかも」


 姉さんの目がギラリと光る。

 俺の直感が告げていた。


 荒れるぞ、この試合……

 

 それにしても、姉さんは三人の配置を変えたみたいだな。

 先程までは音葉が左で、その少し斜め後ろに東雲、右側が姉さんの並びだったはずだ。

 しかし、今は東雲の位置に姉さんが入ってきた。


「妥当に弱点となる二人の間を消してきたわけか……」


 まぁ、誰とのとかは関係なしに中間地点にボールを落とされると、必然的に二人の間でコミュニケーションが必要になってくる。だから対応が難しい状況に変わりはない、はずなのだが……


 相手が姉さんだから油断は出来ない。

 果たしてあの怪物はそれをどう補ってくるだろうか?

 

「それじゃあ、いきます」


 思考はそこまでにして、俺は天音さんのサーブに意識を向けた。

 本当は振り返っちゃダメだったはずだが、気になるのだからこの際はしょうがない。


 天音さんは再びサーブラインよりもかなり後ろの位置に下がると、サーブの種類を変えることなく、今日4度目になる剛速ジャンピングサーブを打ち込んだ。


 ボールは一直線に音葉と姉さんの間、それも少しだけ音葉よりの位置に落ちていく。


 きっと、姉さんを警戒してのことだと思うが、さっきからネットスレスレばっかだし、サーブの精度高すぎるだろ。


 あの位置だと、音葉のボールだと大概の人が判断するだろう。それでいて簡単には取れないスペースだ。

 つまりこのボールには姉さんは手を出さない。


 俺は彼女のそんなサーブを見て、『これは貰ったな』と確信する。


 いくら姉さんでも流石に……


「甘いわね!」


「はい!?」


 姉さんはニタリと笑っていた。完全に余裕の笑みだ。


 そして、綺麗な横っ飛びで地面スレスレのボールを上空へと打ち上げた。


「えっ、凄……」

 天音さんも想定外だったのか、唖然とした表情を見せている。


 ボールは綺麗に相手陣営内の中央に落ちていくと、素早くボールの下に入っていた東雲が綺麗なトスをあげた。


 その先には音葉が待っている。


 まさか、音葉が?

 正直、音葉が強力なスパイクを打てるとは思っていない。

 だから、ここは迷わずブロックを……


 しかし、ここでまたしても予想外の出来事が起きた。


 東雲のトスしたボールは音葉すらも通り越したのだ。


 単にミスったのか?

 いや、そんなことはなかった。


「油断したわね」


「姉さん!?」


「悪いわね碧、犠牲になってちょうだい」


 バチンッ!


 唐突に後ろから現れた姉さんは、かなり早い段階でジャンプをすると、前進しながら強烈な一撃を打ち込んできた。

 だが、問題はそこじゃない。それが俺に向かってきていることが兎に角ヤバい。


 俺は殆ど反射的に手を前に組んで構えるも、時は既に遅し・・


 姉さんの魔球は俺の左肩を綺麗に打ち抜いた。

 うっ、うう……


 パパッーン!!


 続づいてそのまま地面にバウンドしてから、勢いよくコート外へと転がっていく。


「よしっ!」


「いやいや、『よしっ!』じゃねぇだろ」

 ガッツポーズを取る姉さんを見て思わず突っ込んでしまった。

 だって肩めっちゃ痛いんですけど……なんなら最早痛いを通り越して熱い気がするんだが。

 

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