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ナイスボール


 長い間、夢を見ていた気がする。


 何の夢かは覚えていない。


 まぁ、所詮夢なんてそんなもんだろう。


「うっ、……」


 俺が目を覚ますと、そこは見慣れた家の天井なんかではなかった。

 太陽を遮るように、大きく開かれた傘。どうやらここは外のようだ。

 背中の感覚は、ふかふかなベッドの上なんてことはなく、何かが肌に張り付くような感じがしていた。


 何だろうか、それに決して硬くはないがデコボコとしている。


 身体を起こしてみるとそこには真っ白な砂浜とその奥に広々とした海が広がっていた。

 あっ、そういえば海に来てたんだっけか。


 それでなんで俺は寝てたんだ?

 記憶を探ってみてもモヤがかかったみたいにハッキリと思い出せない。

 確か、音葉と東雲と合流して、島美野海岸に来て……


 しかし、俺の思考はそこで中断させられる。


「おはよう、碧、起きた?」


「姉さん?」


 今まで気がつかなかったが、どうやら寝転んでいた俺の側に座っていたらしい。


「逆にそれ以外の何に見えるのよ」


 ——っ!

 そうだった。そこで計画的犯行を企てていた姉さんと天音さんの二人と合流したんだ。

 それで、着替えて……、何故だか大量の鼻血を噴いた。


 そこがイマイチ思い出せない。


 えーと、なんだっけ……っそう!、俺は皆んなの水着姿を見て感想を言ってた筈だ。


 そして、最後に音葉の水着姿で……


 だって、仕方ないだろ。誰があの音葉があんな攻めた水着を着てくると思うってんだよ。

 東雲の時はある程度心の準備ができていたし、それに彼女のキャラクター的にも十分にあり得ることだった。


 しかし、音葉ともなれば話は別だ。

 例え水着の種類が東雲と全く同じものであったとしても東雲の時の数十倍はダメージを受けてしまう。


 そして、その結果が今回のことに繋がってしまったと言う訳だった。


 それにしても音葉のあの水着は絶対に五十嵐さんが噛んでるよな。

 本人もかなり恥ずかしそうにしてたし……っ、ダメだ、これ以上思い出すのは危険過ぎる。


 俺は音葉の水着姿を鮮明に思い浮かべそうになって左右に頭を振った。

 再び顔が熱くなってきている。


「碧、もしかしてまだ痛むの?」


 痛むって鼻のことか?

 単に音葉の姿にやられて出血したわけだから痛むも何もないと思うけど……まぁ、ここは話を合わせておくか。


「いや、大丈夫だ。もう全然痛くない」


「それなら良かったけど……

 まさか、あんなタイミングでボールが飛んでくるなんて、貴方はとことんついてないわね」


「ボール?」


「あれ、覚えてない? 結構大きめのビーチボール。

 もしかして、ぶつかった衝撃でその時の記憶なくしちゃったんじゃない?

 結構血とかも出てたし……」


 ボールにぶつかった?

 姉さんや、それは何の冗談ですかい?


 しかし、心配そうな表情で俺のことを見つめてくる姉の姿からは、決して冗談を言ってるようには見えなかった。


「えっ、俺ってボールにぶつかったの?」


「ええ、そうだけど、本当に覚えてない?

 確か音葉ちゃんが意外な水着を披露した時ぐらいに丁度ね。物凄いスピードでボールが飛んできて碧の顔に当たったから、皆んな心配してたわよ。

 ぶつけた子たちもホントに申し訳なさそうに謝ってたんだから」


 マジですかい……

 でも、それが本当ならある意味助かったのかもしれない。


 女の子の水着姿にやられて、ぶっ倒れましたってことになってたら色々と気まずかった。


 だから敢えて言わせて貰いたい。ボールをぶつけてくれてマジでグッジョブ!

 顔も名前も知らない子たちよ感謝する。


「そうか……それで音葉達は?」


「雪ちゃんと風花ちゃんなら先に遊んで貰ってるわよ。

 碧がいつ起きるか分からなかったし、私が面倒見てるからってね。だから向こうの方で泳いでるわよ」


 海の方に目をやると、二つの人影が並んで泳いでいた。

 が、もちろん和気藹々と泳いでる訳ではなく、物凄いスピードでだ。


 多分だけど勝負とかしてるんじゃないかな。

 見た感じ天音さんの方が僅かにリードしている。


 けれど東雲も負けずと喰らいついていた。


 忘れていた訳じゃないが、東雲も運動神経はかなりいい部類なんだよな。

 天音さんが凄すぎるだけで……


「それで、音葉ちゃんだけはこっちに残るって言ってくれて私の喋り相手になって貰っていたわ。

 今はトイレに行ってるところだけど……あっ、丁度帰って来たみたい」


「あっ、碧!、起きたんだ」


「おう、迷惑かけて悪かったな」


「ううん、迷惑だなんて……」


 トイレから帰ってきた音葉は再びラッシュガードを身につけていて、俺が再び鼻血を出すようなことはなかった。


「よし!それじゃあ、碧も起きたことだし私もちょっと泳いでくるわ。碧達はもう少し休んでていいからね」


 すると突然、姉さんがその場から立ち上がると、小走りで海の方に行ってしまった。


 変な気でも使わせたのかもしれないな。


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