際どい水着
「それじゃあ私たちは向こうの更衣室で着替えてくるから」
姉さんのそんな言葉を最後に俺たちは二手に分かれた。
人数的に4対1になる為少しだけ寂しく感じてしまったのは仕方ないことだと思う。
マジで男女比がなぁ……
アウェイ感が半端なくする。
ああ、こうなるなら東雲もいることだし、斗真を呼んでも良かったな。
しかし、多忙な斗真のことだ。部活や遊びで夏休みの予定ですらギッシリと詰まっていることだろう。
さてと、さっさと着替えすませるか。
⌘
「おっ、やっぱ男ともなれば着替えは早いもんね」
「まぁ、殆ど脱ぐだけだったからな」
集合場所に最初に現れたのは姉さんだった。
「それで、どう?、私の水着姿は?」
「よく似合ってるぞ」
「そっか、ありがと」
真っ白な肌が顕著に現れているが、まぁ、水着姿なので許容範囲内だと思う。
何処で買ったのかわからない少しラメの入った赤い水着は、やはりモデルだからかセンスの良さが伺えた。当然のことだがスタイルには文句の付けようがない。
自分の姉ながら、綺麗だと思わざるを得ない状況だった。
もちろん家族だし、そんなことは口にはしないけどな。
にしても、いつからそんな水着持ってたんだろうか?
わりと新しめに見えるけど……まさか、今日のために買ってきた訳じゃないだろうな。
「それで他の3人は?」
「ああ、雪ちゃんたちなら、あそこに」
姉さんの指差した先には、かなり歩く速度の遅い3人組の姿があった。まだ距離がある為、ハッキリとは見えないが一つだけ分かることがあった。
東雲、アイツ露出度高過ぎるだろ!?
遠目から見ても明らかに東雲だけ布の面積が少ないように見える。
世の中には、あんな水着もあるんだな……
「ちょっと、音葉、もっと早く歩きなよ」
「……分かってるって」
「なにラッシュガードなんか着ちゃって恥ずかしがってんの?」
「だって……」
—— これは歌織さんが ——
彼女達が近づいてくると、そんな声が聞こえてきた。
どうやら遅くなった原因は音葉にあったようだ。
ゆっくりと歩く音葉を背後から、急かすようにプレッシャーをかけ続ける東雲、そして、そんな二人を冷めた表情で見ている天音さんという妙な構図が見てとれた。
全く仲が良さそうには見えないが、全員美女だから不思議と絵にはなるんだよなぁ……
それなりに人が捌けているのにも関わらず、男女問わずかなりの視線を集めていた。
「玲奈さん、碧君、お待たせしました」
他の二人よりも少し歩調を早めて先に到着した天音さんが前に出てくると軽く頭を下げてくる。
「雪ちゃん、更衣室で見た時も思ってたけど、ホントよく似合ってるね」
「ありがとうございます!、玲奈さんもとっても綺麗ですよ!!」
姉さんが褒めると天音さんは分かりやすく破顔する。
そんな様子に後から到着した東雲が意外そうな表情を見せていたのが印象的だった。
分かるぞ東雲……。普段の天音さんを知る俺たちからすると非常に想像し難い光景だからな。
そんなことを考えていると姉さんが、天音さんには聞こえないような小さな声で、耳元に囁いてきた。
「ほら碧、貴方も一言ぐらい何か言いなさいよ」
いちいち俺のリアクションがいるものなのか?、とも思ったが、逆らうと面倒ごとになるのは分かりきったことだった。
俺は改めて天音さんの姿を確認する。
黒をメインとした、落ち着いた感じの色の水着だった。東雲みたいな派手さもない。ただ、決して地味な印象は受けなかった。
胸元についたフリルがいい感じにお洒落度を高めていて、いかにも天音さんらしい上品な仕上がりになっている。
ずっと眺めていたいと思ってしまう邪推な心を胸の奥にしまい、俺はゆっくりと口を開いた。
「天音さんはホントお洒落だな」
「ありがとう、碧君もシンプルだけどかなり似合ってるわ。それにしても……」
「ん?、どうかしたか?」
天音さんは俺の体を見ているようだった。
一応、ある程度ランニングもしてるし弛んではない筈だが、何か気に触るようなことでもあったのだろうか?
「いえ、やっぱりなんでもないわ」
そこで止められると逆に怖い。
悪い内容のことでもいっそのことぶち撒けて欲しいんだけど……
もし、治せることなら努力はするつもりだ。
まぁ、どうしようもない内容なら心に一生の傷を負うことになると思うから、ここは聞かないでよかったとしておくべきなのかもしれないな。
「次、私ね。碧、どうよこの水着は?」
続いて東雲が自分の水着を見せびらかすように聞いてきた。
「お、おう……かなり凄いとは思うぞ」
俺は東雲の身体から視線を逸らしながらそう答えた。
だって仕方ないだろ、胸の隙間とかがハッキリ見えてて、いろいろとヤバいんだから。
水着が何色か?、最早そんなもんどうでもいい。
音葉のラッシュガードでも借りて、是非とも大人しくしといて貰いたいものだ。
ちなみに黄色の水着だった。
「フハッ、ちょっと視線晒し過ぎてウケる!やっぱり碧には刺激的過ぎたかぁ……」
「それが分かってるなら、早く着替えて来い」
じゃないと俺の精神がもたない。姉さんも一緒にいる状況でなんてもんを見せてやがる。
「ヤだよ……(だってそれが目的なんだから)」
東雲が何かを呟いていたが、俺はそれを気に留めず最後に音葉の方へと視線をやった。
「あっ、……」
目が合うと音葉は小さく声を漏らした後、恥ずかしそうに身を縮める。
なんか、癒されるな……
そんな音葉の可愛らしい様子に俺は少しの間、ほっこりしていた。
「ちょっ、アンタいつまで着てるワケ!?、早く脱いだらどうなの?」
「うっ……」
東雲に催促をされるも、音葉はいっこうにラッシュガードを脱ごうとしなかった。
「音葉、別に無理する必要はない。そのままでも十分に遊べるから——「大丈夫!……今、脱ぐから……」」
音葉は何かを決意したように俺の言葉を遮ると、恐る恐るファスナーに手をかけた。
ジジッ、という音とともに音葉の体が露わになっ・・・
その瞬間、俺の顔が一気に熱くなる。
えっ、なんか鼻から垂れてきて……
次の瞬間、大量の血を噴き出した。
俺の意識はそこで途絶えた……




