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始まりのその前に


「おっ、海、想像より綺麗じゃん!」


 それが島美野海岸に到着後の東雲の第一声だった。


 想像より綺麗だって、どんな海を想像してたんだか。

 別に初めてじゃなかろうに……


 そして来るのが、殆ど初めてといってもいい俺個人の感想としては、そこそこ水の透き通った綺麗な海といった感じだ。

 夏休みの終わりが近づいていたこともあってか人の数は意外にもそこまで多くなかった。


 これなら、ある程度は他人との距離を確保しつつ遊べることだろう。

 

 そんな時、俺の隣で少し緊張の色を見せる音葉の姿が視界に入った。


「音葉、大丈夫か?」


「あ、うん、大丈夫……」


 音葉はそう言ったが、彼女身体が僅かに震えていることに俺は気がついた。


 もしかすると、滝で溺れかけたことがトラウマになっているのかもしれないな。自分の意思で飛び込んだとはいえ、苦しかったのは代わりない。


 だから、もしそうなっていたとしても不思議ではなかった。


「絶対に無理はするなよ」


「分かってる、ありがとう碧」


 仕方ない、海に入るとしても足がとどく程度のところまでにしておくか。俺と東雲が泳ぎ出すと音葉も無理してついてくるかもしれないし……


 東雲は、まぁ、一人で泳がせてたら大丈夫だろ、多分……


「よしっ、そんじゃ、さっさと着替えようぜ。確か女子更衣室はアッチの方だったと思うから行ってくる」


「おう、二人で仲良く行くんだぞ」


「……」


 返事がなかった。


「おい」


「分かってるって、音葉……さん?

 いやもう面倒い、音葉でいいか。行くぞ音葉」


「東雲さんはもう少し落ち着いたらどうかな?」


「は?、常に落ち着いてますぅ、アンタこそもっとはっちゃけたらどうなの?」


 それは憶測ではあるが、事情が事情なだけに許してやってほしい。

 でも、東雲は音葉のことを知らないからな。また、その逆も然り、音葉も東雲のことを知らない。是非ともこの機会に互いのことを分かり合ってほしいものだ。


「とりあえず俺も着替えてくる」


 俺が未だに火花を散らしている二人に背中を向けて歩き出そうとしたそんな時、信じ難い声が聞こえてきた。


「おーい」


 えっ!?、まさかな……


「3人とも聞こえてる?」


「えっ、あれって……」


 東雲も驚きに満ちた声をあげる。


「もしかして玲奈さん?」


 俺はそうであってほしくない、感情を抱きながら音葉達の見つめる方向へと視線を向けた。


「ああ……」


 それは間違いなく姉さんだった。しかもその隣には天音さんの姿まである。

 俺の嫌な予感が的中するとは……


 あの時の麦わら帽子も被っていて、服装の雰囲気も彼女達と出会った体育祭の時と何処か似ている。

 そんな音葉達にも思い出してもらいやすいような配慮が伺えた。


「あら偶然!。碧達もここに来てたんだ」


 近づいてきた姉さんは開口一番にそんなことをほざいた。

 いや、絶対に計画的犯行だろ。


 それにどうしたその大量の荷物は!?

 姉さんはかなり大きな鞄を背負っていた。まさか、これを駅から持ってきたのか?


 ちなみに隣にいる天音さんは『なんで!?』ともの凄く驚いた表情をしていたので、彼女も被害者といったところか。ほんとご愁傷様です。


「あの、姉さん……」


「アハッ、ごめん面白そうだったから来ちゃった」


 だよね、知ってた……

 

 俺の海水浴はまだ始まったばかりだった。いや、まだ始まってすらねぇわ。

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