全ては計画通り 〜side 音葉
私の新曲が公表されたあの日から、私へのテレビ出演のオファーが殺到したらしい。
ちなみにこれはお母さんから聞いた情報だ。
いくら私の情報を非公開にしていても、何処との繋がりがあるのかまでは完全に隠すことは出来ない。その為、私宛ではなくお母さんの経営する会社宛にオファーが送られてきていた。
と、まぁ今はそんな些細なことよりも……
「ねぇ、歌織さん。そろそろ碧に連絡してもいい?」
私は携帯を片手に自室のベッドに座りながら、ついさっき部屋に来たばかりの歌織さんに声をかけた。
なんとなく、効果があるかなと思って、少し首を傾げて上目遣いをしてみる。
「そんな可愛らしく言ってもダメですよ!
まぁ、凄く可愛いかったけど・・・」
「えぇ、でも……」
もう既に2週間近く我慢してるのに。それなのに、まだ我慢しなきゃいけないの!?
「何度も説明したので音ちゃんも分かってるとは思いますが、今は抑えるべきタイミングなんです。
前までは頻繁に連絡くれてた人が急にくれなくなったらどう感じますか?」
「そりゃあ気にはなりますけど……」
「それにメッセージは返すなとは言ってないじゃないですか。会話はちゃんと出来てるはずです」
私はその意見に対して大きく首を横に振った。
「出来てないですよ!それにメッセージを送るにしてもかなり遅らせてから返すようにって歌織さんが指示するから、テンポが悪いというか、これじゃあ逆に碧に嫌われちゃいません?」
「あのね音ちゃん、恋愛は駆け引きなんです!押せ押せばかりじゃなかなか上手く行きませんよ。相手により長く自分のことを想像させるかが大事なんです」
「だったら連絡したほうが……」
「はぁ……」
歌織さんは「音ちゃんはホント分かってないんだから」と大きなため息を吐いた。
なんだろ、いろいろと教えてくれるのはありがたいけど、これはこれで少しだけ腹が立つ。
私が今日まで碧に電話を掛けなかった理由、それは決して忙しかったからではない。
もちろん、いろいろと忙しかったのは事実だが、電話をする時間ぐらい頑張ればいくらでも空けられる。
それなのに我慢し続けた理由、それは歌織さんの計画の一端だった。
初めに電話はこちらから一切しないことを約束させられて、次にメッセージの返信は少なくとも4時間以上は空けること。
長い時ではまる1日連絡するな、と指示されたこともあった。
我慢出来なくなって歌織さんとの約束を無視しようと考えていると、その思考を読まれたのか「碧君の気がひけなくてもいいの?」と言われてしまえば手が止まった。
歌織さんが言うには碧からの電話があるまでの暫くの間は、このままでいるようにと言われている。
でも、ホントにこんなやり方で上手くいくのかなぁ………
そう弱気になりかけていた時、私の携帯が突然震えた。
お母さんからだろうか?
一番電話頻度の高かった母親の姿を浮かべて携帯の画面に視線を落とすと、そこに表示されていたのは『碧』という一文字だった。
「あっ、わわっ、歌織さん、碧から連絡来ました!」
私は驚きのあまり携帯を落としそうになりながらも、歌織さんにその画面を見せつけた。
「フッ、ようやく引っ掛かったわね。だったら音ちゃん、とりあえずはいつも通り会話してくれて大丈夫です。ただしスピーカー状態でお願いします。
指示は会話を聴きながら紙に書いて見せますから安心して下さい」
「分かりました」
私は大きく深呼吸をしてから通話ボタンをタップした。
歌織さんからは緊張が相手に伝わらないように、余裕のある声で!という指示が飛んできている。
「もしもし碧、どうしたの?」
平常心、平常心……
『ああ、何か用がある訳じゃなかったんだけど、最近連絡なかったからちょっと心配で……
今は時間的に大丈夫そう?』
私はそんな碧からの言葉に思わずガッツポーズをしそうになる。
全部、歌織さんの言った通りだ。流石は歌織さん!
「うん、全然大丈夫だよ」
ちょっと食いつき過ぎ!
歌織さんがそんな文字を見せてくるが、そこは殆ど無意識だったから許して欲しい。
だって久しぶりの碧の声、凄く嬉しかったんだもん。
『それなら良かった。そうそう、それでいきなりにはなるんだが新曲のstart Line、再生回数1億回突破するなんて凄いじゃんか!さっきネットニュースにあがっててめっちゃ驚いた。』
「うん、私もそれで驚いてた。まさか、そんな大勢の人に聴いて貰えるなんて思ってもなかったから」
『まぁ、音葉のファンだっていう東雲は新曲が出た当初から1億回いくんじゃないかって言ってたんだけどな』
「あっ、そうなんだ……」
なんか複雑な気分になった。
いや、その期待は本当に嬉しいことなんだけどね……
碧の口から東雲さんの名前が出たこととかの全てを含めると素直に喜べない。
歌織さんはそんな私の心情を見抜いてかニヤけていた。
うん、後で妹呼ばわりしてやろう……
私は密かにそんなことを決心した。




