モテ期到来!?
「あの、さっきは本当にありがとうございました」
不良に絡まれていた彼女は近くの壁にもたれ掛かっていた俺のそばまでやってくると大きく頭を下げる。
「いえいえ、寧ろこちらこそ助けを呼んでもらっちゃって、ありがとうございました。あれがなかったらマジでヤバかったです」
「そんなの、私は当たり前のことをしただけですから……」
彼女はそう言うが、俺としてはあの場から逃げて欲しいとだけ考えてたから本当に有難かった。
それに警察に連絡する選択肢もあった筈だ。
でも、彼女はそれをしなかった。
これは俺の想像にはなるが、俺のいた現場へと到着する時間の早い方を選択してくれたのだと思う。
もし、それが警察だったのであれば、ほぼ確実に間に合っていなかった。
ここの近くに交番はないし、駆けつけるのにもそれなりに時間がかかるだろうからな……
「あの……怪我の方は大丈夫ですか?」
「はい、お陰様で大きな怪我をしてないので大丈夫ですよ。
まぁ、まだ少し体は痛みますが、もう少し休んだらそれも治ると思うので……」
かすり傷とアオたんが無数に確認出来たが、決して重症ではなかった。
あっ、そういえば俺の携帯……
回収する前にここに来たから、まだ向こうの方に転がってるはずだ。
そう思って周りを見渡していると、道の反対側の方に転がっている四角い物体を発見した。
「あった……」
動き出すのはもう少し休んでからでいいけど、とりあえず携帯は取りに行くか。
そう思って腰を上げようと地面に手を突いた時、「あっ、携帯ですね。私がとって来ますので、ここで待っていて下さい」と彼女に言われてしまう。
そんな言葉に甘えて再び壁にもたれかかった。
そして、彼女が取ってきてくれた携帯の状態は想像以上に酷かった。
さっきは遠目で見ただけだったからな……
とりあえず割れているのは表面の液晶の部分だけっぽいけど、果たしてこれは動くのか?
不安に思いながら恐る恐る画面をタップするとちゃんと反応してくれた。
いやすげぇな……現代技術舐めんなよってことか。
その割れた携帯を申し訳なさそうに俺に渡してくれた彼女からは弁償させて下さいと頼まれたのだが、そこはキッパリと断っておいた。
それにもう休んでいる俺に付き合う必要はないと伝えようと思ったのだが・・・
「私、咲乃 舞っていいます!」
彼女の急な自己紹介により、そのタイミングを逃してしまった。
「あっ、俺はり……すみません、ちょっと理由があって本名は明かせませんが、今は葵と名乗ってます」
あぶねー、今の俺は一応葵の姿してるんだった。
「理由、ですか?
もしかして俳優とかモデルさんとかですか?」
咲乃さんの違うようで違わない、そんな質問の答えを考えた末に俺は小さく頷いた。
「まぁ、似たようなもんです」
実際は違うが一応雑誌の撮影も受けてる訳だから、決して嘘にはならないだろう。
「やっぱり、一目見た時からそうなんじゃないかなぁって思ってたんですよ!
ちなみに年齢ならお聞きしても大丈夫ですか?」
「それくらいなら……一応、今年で17になりました」
「へぇ、私よりも一つ年上だったんですね」
興味深そうにコチラの顔を覗いてくる咲乃さん。微妙に顔が赤い気がするのは気のせいだよな?
彼女がそういう感想を抱いたのと同じくして俺も真逆の感想を抱いていた。
まぁ、オーラは東雲と似てるけど、確かに子供っぽさというか、あどけない感じがあるから、納得っちゃ納得だ。
「因みに連絡先は流石にダメですよね」
「そうですね、そこは出来れば遠慮したいです」
ただでさえ天音さんの一件で頭がいっぱいなんだから、流石に容量オーバーだ。
にしても、最近グイグイ来られることが多くなった気がする。
もしかして、これは俺にモテ期到来か!?
いやいや、それはないか……
だって出しゃばって助けに入った結果、ボコボコにされてるし、誰がどう見てもカッコ悪いと思うはずだ。
音葉ぐらいなら、碧らしいねって言ってくれるかもしれないが……
って何でここで音葉が出てくるんだか。
そう言えばここ数日は全然連絡してこないよなぁ。体育祭後はかなり頻繁に連絡してきてくれたのに。
やっぱり忙しいのだろうか?それとも俺に愛想尽かしたとか?
そんなことを考えるとなんだかモヤモヤしてきた。
今日、久しぶり連絡でもしてみるか……




