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後日談:特殊スキルは有能でしてよ!

 





 辺境伯領から帰り、三月ほどが経った。


 今日はわたし一人でビードン子爵家──……つまり、実家に来ていた。


 事の始まりは数日前に届いた国王陛下からの手紙で、トイレットペーパーの今後の生産についての件で良い案がある、という内容だった。


 国が管理している特殊スキル所持者の一人を派遣してくれるらしい。


 手紙に書かれていた人物の名前と家名を見て、わたしは心当たりがあった。




「お帰り、ルイザ。僕に用事があるという話だったけど、どうかしたのかい?」




 居間に通され、お兄様がすぐに部屋を訪れた。


 ソファーに座り、国王陛下からの手紙について説明する。





「──……という話なのですが、ユースウェル子爵家のスウェン様はお兄様のご友人ではございませんか?」


「なるほど。スウェンとは確かに友人だよ。……そういえば、スウェンがスキルを使ったところを見たことがなかったけれど……もしかして屋敷に引きこもっているのもそれが理由なのかもしれないね」


「え? ですが、何度も遊びにいらしておられましたよね?」


「スウェンは基本的に屋敷から出たがらないけれど、全く出ないというわけでもないんだよ」




 記憶の中のユースウェル子爵令息は気弱で人見知りをする人という雰囲気だった。


 歳下のわたしにもどこかオドオドとした様子で──……でも、悪い人ではない。


 わたしが二人のお茶会にわがままを言って交ざっても、優しく受け入れてくれるような人だ。




「それでユースウェル子爵令息にお会いすることとなったのですが、出来ればお兄様にも一緒に来ていただけたらと思いまして。お互い、共通の知り合いがいたほうが安心でしょう?」


「うん、行くのは構わないよ。僕からも手紙を出しておくね」


「ええ、お願いいたします」




 そういうわけで、お兄様も一緒にユースウェル子爵家に行くこととなった。






* * * * *






 それから数日後、ガイウスとお兄様と共にユースウェル子爵家に向かった。


 到着するとユースウェル子爵夫妻と令息が出迎えてくれた。


 子爵と令息は淡い黄緑の髪に金色の目をした穏やかそうな顔立ちで、夫人は柔らかな茶髪に緑の目をした優しそうな顔立ちで、家族揃って気の良さそうな印象を感じる人達である。


 同じ子爵家同士、ユースウェル家とビードン家は親しい間柄だ。


 それもあってお兄様と子爵令息は友人でもあったのだろう。


 ユースウェル子爵邸の応接室に通され、全員でソファーに座る。


 挨拶が一通り済むと、ユースウェル子爵が言った。




「陛下よりお話は伺っております。スウェンのスキルについて、まずは説明をいたします」




 ユースウェル子爵によると、令息のスキルは『他者のスキルを模倣する』というもので、しかし、模倣しても本物のスキルよりも能力は落ちるらしい。


 たとえば『氷を生み出すスキル』を持つ人がいたとして、スウェン様が模倣しても本物よりもずっと小さな氷を出すくらいしか出来ないし、複数の能力を有するスキルの場合はそのうちの一つしか扱えない。


 つまるところ、ユースウェル子爵令息は相手のスキルの劣化版を扱えるということなのだろう。


 ……なるほど、陛下がわたし達に紹介した理由が分かりましたわ。


 劣化版とはいえ、危険なスキルを模倣すれば危険なのは変わりない。


 令息はそういったことをしなさそうに見えるが、陛下としても、危険なスキルを模倣させたくないのだろう。それなら、わたしのスキルを模倣させたほうが役に立つし、危険性も低い。




「陛下はバッシュ男爵夫人のスキルに危険性はないとおっしゃられておられました。息子もこのまま家にこもってばかりでは良くありませんし、バッシュ男爵と夫人さえよろしければ、息子を商会で働かせてやってはいただけないでしょうか?」


「それはむしろ私達のほうがお願いしたいくらいですが……本当によろしいのですか? 子爵家の方が男爵の下で働くというのは、その……」





 ガイウスが言葉を濁したが、子爵はその先を理解したのか頷いた。




「息子もこの件については了承しています。何より、男爵夫人は息子の友人の妹君ですから、全く知らない相手に任せるより安心です。我々は陛下と男爵夫妻のお人柄を信じます」


「っ、僕のスキルで、ご、ご迷惑をおかけしてしまうかもしれませんが、よろしくお願いします……! 僕も誰かの役に立てるなら、何か出来るなら、やりたいんです……!!」




 子爵と令息の言葉に、ガイウスと顔を見合わせ、頷き合う。


 ご家族と本人が了承しているなら、わたし達にとってもありがたい話だった。




「分かりました。では、ユースウェル子爵令息、これからよろしくお願いいたします」


「こちらこそ、ご迷惑をおかけしてしまうかもしれませんが、助けていただけますと幸いですわ」




 わたしとガイウスの言葉にユースウェル子爵令息がパッと表情を明るくする。




「ありがとうございます……!」


「良かったね、スウェン」


「うん、ありがとう……! 僕も頑張るよ……!」




 その後、ユースウェル子爵令息はわたしのスキルについて口外しないという誓約書に署名し、わたし達も令息のスキルについて口外しないという誓約書に署名した。


 ビードン子爵邸に遊びに来ていた時のオドオドとした様子が印象的だった令息だが、今はとても嬉しそうで、やる気に満ちている。




「令息、良ければ今から当商会にいらっしゃいますか?」


「まあ、それは良い案ですわね。本日の分がまだですもの。ユースウェル子爵令息にお仕事を教えるのは早いほうがいいですわ。お兄様も一緒にいかがですか?」


「はいっ、是非……!」


「そうだね、お邪魔させてもらおうかな」




 令息が元気に返事をしてから、気付いたふうに言う。




「兄が二人いるので、僕のことはスウェンとお呼びください。子爵令息だと兄達と混同してしまうので。それに言葉遣いも、今後は僕はお二人の部下になるのですから、楽にしていただけると嬉しいです……!」


「……分かった。こちらこそ、改めてよろしく、スウェン殿」


「スウェン様に来ていただけてわたし達も嬉しいですわ」




 そうして、馬車に乗ってレイノバッシュ商会の倉庫に移動する。


 別の馬車に護衛達とウーヴェもいるが、スウェン様と彼らの紹介は後ほどすることとなるだろう。


 馬車の中でもスウェン様はとてもワクワクした様子で、嬉しそうに車窓の外の景色を眺めていた。


 自分のスキルについて色々と考えて塞ぎ込んでいたのかもしれない。


 倉庫に馬車が到着し、ガイウスとお兄様、スウェン様と共に倉庫に入る。


 護衛達とウーヴェも入り、倉庫の扉をしっかり閉めた。




「それでは、わたしのスキルをご紹介いたしますわ」




 右手を上げ、掌を上に向ける。




「『トイレットペーパー召喚』」




 ポン、と掌の上にトイレットペーパーが召喚される。


 それにスウェン様が「えっ!?」と目を輝かせた。




「火や水などの自然物質以外のものを生み出すスキルなんて初めて見ました……! 夫人のスキルも特殊なのですね……! まさかトイレットペーパーがスキルで生み出されたものだったなんて……!!」




 酷く感動した様子のスウェン様に、ウーヴェが言う。




「ルイザ、すごい」


「ええ、本当にすごいことです……!」


「お前、良いやつ」




 ウーヴェが珍しく、警戒せずにスウェン様に近づいた。


 どうやらスウェン様から悪意を感じないらしい。


 ちなみにウーヴェは既にお兄様と何度か会っていて、お兄様にもそれなりに懐いている。




「わたしのスキルは『紙製品召喚』といいまして、名前の通り、紙製品を生み出すことが出来ますわ。色々な紙製品を出せますけれど、スウェン様には『トイレットペーパー召喚』を模倣して、生産を手伝っていただきたいと思っておりますの」




 倉庫の一角に掌を向けて『トイレットペーパー召喚』と言えば、大量のトイレットペーパーが現れる。




「えっ、こんなに沢山のトイレットペーパーを一度に出せるのですか……!?」


「ええ、わたしの魔力量いっぱいでしたら一度に出せる数に制限はありませんわ」


「それ自体もすごいことです……! 普通は火や氷でも、複数出す際には制限がかかるものなのに……夫人はこれほど大量に出して、体に負担はないのでしょうかっ?」


「特にはございませんわね」




 やはり目を輝かせるスウェン様の横で、ウーヴェが腰に手を当ててドヤ顔をしている。




「ルイザ、すごく、すごい」


「なんでウーヴェが自慢げなんだ?」




 ガイウスがそれにツッコミを入れつつ、ウーヴェの頭を撫でていた。




「そ、それでは夫人。失礼ですが、お手に触れさせていただいても……?」


「ええ、構いませんわ」




 手を差し出せば、スウェン様がそっとわたしの手を取った。




「スキルを発動して『トイレットペーパー召喚』のみ模倣します」




 スウェン様がスキルを発動させたのか、柔らかな光に包まれる。


 それは一瞬のことで、次の瞬間には光は消えていた。


 わたしの手を離したスウェン様が、その掌を上に向けた。




「『トイレットペーパー召喚』」




 ポン、とその掌の上にトイレットペーパーが現れた。


 思わず全員で「おおっ!」と声を上げてしまった。


 スウェン様がすぐにスキルを確認し、説明する。




「僕が模倣出来たのは『トイレットペーパー召喚』の上級までだそうです」


「それはとてもありがたいですわ。下級は薄くて一枚だけのトイレットペーパー、中級は二枚重ねでもう少し質の良いトイレットペーパー、上級では柄や匂い付きが出せるようになりますのよ」


「……確かに、こちらでもそう書いてあります」




 スウェン様が顔を上げ、掌の上のトイレットペーパーをジッと見つめる。


 すると、トイレットペーパーがフッと消えた。




「なるほど、出す時だけでなく、消す時にも魔力を消費するのですね」


「経験値はどうですか? 変化はありますかしら?」


「いえ、経験値の変化はありません」




 どうやらスウェン様のスキルは、わたしとは違う経験値の入り方をするということだ。


 それでも、トイレットペーパーの実物を見せて教えると、すぐに下級、中級、上級それぞれのトイレットペーパーを出せるようになった。飲み込みが早い人だ。




「しかし、夫人は相当量の魔力をお持ちなのですね。僕では一日二千五百が限界のようです。……この倉庫にある分だけでも、何日もかけないと出せないと思います」




 倉庫の中にあるトイレットペーパーが入った木箱を眺め、スウェン様が言う。




「わたしも毎日魔力回復薬を二本消費してトイレットペーパーを出しておりますわ。まあ、今のレベルでしたらこの倉庫の半分くらいの量でしたら一度で出せますけれど……」


「えっ!? あ、あの、スキルレベルについて、お訊きしてもよろしいですか……?」


「先日『レベル7』になりましたの。わたしの場合、スキルで紙製品を出すと消費した魔力量と同等の経験値が入りますの。毎日トイレットペーパーを出し続けてきたので自然と上がりますわ」


「それは……なんとも、羨ましい話ですね……」




 スウェン様の話によると、スキルレベルは本来、なかなか上がるものではないらしい。


 しかもレベルが上がるほど必要経験値の量も増えるため、上がりにくくなる。


 けれども、わたしは地道だが確実に経験値が得られる。


 トイレットペーパーの経験値が『1』でも、数千個も召喚していれば当然上がるだろう。


 いわゆる『ちりも積もれば』ということだろう。




「スキルについてはともかく、これで他の商品についても手が回せるようになりますわね」




 ティッシュはまだしばらく王家専用品となるだろうが、紙袋、紙コップや紙皿といったものもきっと需要はある。ピクニックや旅行、屋台など、色々な場所でそれらは活躍するはずだ。


 ……最初は旅行用として売り出そうかしら?


 ピクニックもそうだが、旅行でも、食器は重いし嵩張ってしまう。


 そこで使い捨ての食器があれば、短い旅なら洗う手間も省けるし、片付けは焚き火で燃やしてしまえばいいので楽だ。軽くて持ち運びがしやすく衛生面でも良いだろう。


 近づいてきたガイウスに抱き寄せられる。




「君は少し休んだほうがいいと思うが……」




 心配そうに見つめられ、わたしは微笑んだ。




「あら、わたしが目指す場所はこんなところではありませんわよ?」




 もっと商会を大きくして、もっとガイウスを高みに押し上げる。


 最初は婚約破棄をされて、見返してやりたいという気持ちのほうが大きかったけれど、今は純粋にガイウスとレイノバッシュ商会のために力になりたいと思う。




「わたしのスキルもなかなかに『有能』でしょう?」




 このスキルで良かったと、今なら言える。


 おかげでガイウスと出会い、こうして幸せを掴み取れたのだから。


 わたしの言葉にガイウスが頷いた。




「ああ、有能すぎて困るくらいだ」




 そう言って笑ったガイウスの表情はとても明るかった。






 

これにて完結とさせていただきます( ˊᵕˋ* )

ただ回収し切れていない話もありますので、またいつかタイミングを見て続きを書けたらいいと思ってはおります。

何はともあれ、最後までルイザの物語を楽しんでいただき、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
楽しく読ませて頂きました。 レベル8、9、10の、紙召喚では何が出るのかが気にはなりますが、完結お疲れ様でした。
あっ思ったより短かった(・ω・`) キャラクターがそれぞれ魅力的で良かったです(*^o^*) 浮気相手の令嬢ですが、スキルを解いた瞬間から両親と婚約者から「お前のせいだ‼︎」って責められて下手した…
他の作品を読んで興味を持ち、こちらの作品も読ませていただきました。色々とツッコミどころはありましたが、強い主人公がかっこよかったです。 ただ、なぜ主人公は新聞紙召喚を一度もせず、言及もしなかったのか…
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