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サクラブストーリー  作者: 桜庭かなめ
本編-新年度編-

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79/202

第46話『昨日のお礼』

 4月16日、木曜日。

 通常であれば、今日から学校生活後半戦。

 しかし、今週に限っては、金曜日は健康診断で授業がない。そのため、実質、今日が今週ラストだ。だからか、昨日までと比べて元気そうなクラスメイトが多い。

 今週も木曜日になって学校生活に慣れてきたこと。授業が先週の木曜から始まったので、木曜の一日の流れが分かっていることから、午前中の授業はあっという間に過ぎた感じがした。



 昼休み。

 いつも通り、今日もサクラ達と一緒にお昼ご飯を食べることに。授業が始まってから1週間。早くも、昼休みはこうして過ごすのが定着した気がする。


「いただきますっ!」

『いただきます』


 小泉さんの元気な号令で、俺達はお昼ご飯を食べ始める。俺、サクラ、一紗、小泉さんはお弁当で、羽柴は自宅の近所にあるスーパーで買ったサンドイッチとホットドッグだ。


「じゃあ、まずはダイちゃん特製のだし巻き卵を食べるね」

「ああ。サクラの口に合うといいな」


 今日は早く起きられたので、俺がだし巻き卵を作ったのだ。小さい頃、卵焼きの作り方をマスターした後に、サクラと和奏姉さんからだし巻き卵の作り方も教えてもらった。

 サクラは俺の作っただし巻き卵を半分ほど食べる。緊張するなぁ。


「うん、美味しいっ!」


 だし巻き卵を食べ始めてすぐに、サクラは笑顔でそう言ってくれた。その反応に、嬉しく思うと同時にほっとする。


「サクラの口に合って良かったよ」

「だし巻き卵の作り方は和奏ちゃんと一緒に教えたから、今もちゃんと作れていて嬉しいよ。あと、味が私やお母さんが作るものと似てる」

「だって、メインで教えてくれたのはサクラだったじゃないか。レシピは当時とあまり変わってないからな。このレシピで作るだし巻き卵が好きなんだ」

「……そ、そうなのですか。なるほどなるほど」


 サクラは顔をほんのりと赤くするけど、凄く嬉しそうな笑みを浮かべる。ふふっ、と笑って箸で掴んでいた残り半分のだし巻き卵を頬張った。

 俺もだし巻き卵を一つ食べる。……うん、美味しくできているな。だしの旨みと卵の甘みのバランスがちょうどいい。


「羽柴君。凄く甘い話だったね」

「ああ。砂糖を吐きそうなくらいに甘かったな、小泉」

「2人に同意だわ。そして羨ましいわ、文香さん。長年の付き合いがある幼馴染だからこそのエピソードね」


 小泉さんはニヤニヤと、羽柴は爽やかな、一紗は落ち着いた笑顔を俺達に向けている。


「ううっ。そう言われると何だか恥ずかしい」


 それまで頬にあった赤みが、色味を濃くしながら顔全体へと広がる。サクラはそんな赤い顔を両手で覆った。俺はそんなサクラの頭を優しく撫でる。


「は、話を変えよっか。明日は健康診断だから、あと半日で今週の授業が終わるね! やったね文香! 実質3連休みたいなものだし!」

「そ、そうだね。明日は健康診断……だし……」


 顔から両手を離すサクラ。しかし、そんなサクラの顔色は、さっきとは打って変わって青白くなっている。あぁ、なるほど。そういうことか。


「ど、どうしたの文香さん! 素晴らしいと言ってしまうほどの顔色の変わり様だけど」

「サクラは小さい頃から注射が苦手なんだ。去年の健康診断の採血では気分が悪くなってしまったらしい」

「そういえば、採血をしてから文香に肩を貸していたことを思い出したよ」

「なるほど。去年、文芸部の先輩から、採血でクラッとしたって話をされたから、きっと2年生でも採血はあるでしょうね」

『はああっ……』


 サクラと羽柴のため息が重なる。もしかしたら、採血は1年生しかないという望みを今も持っていたのかもしれない。


「文香さんだけでなく、羽柴君も採血が苦手なのね」

「ああ。……速水。今年も何かあったときには頼むぞ」

「分かった。安心しろ」

「……いい親友関係ね」


 そう言うと、一紗は不適な笑みを浮かべ、俺と羽柴を交互で見てくる。BL的なことを考えていそうだ。


「文香も気分が悪くなったら、今年もあたしが肩を貸してあげるからね」

「ありがとう、青葉ちゃん」


 小泉さんがいれば安心だな。それに、今年は同じクラスに一紗もいるし。2人に任せておけば大丈夫かな。


「大輝君と小泉さんは注射ってどうかしら?」

「俺は特に怖くないな。注射針が刺さるときの痛みは嫌だけど、それは仕方ないし」

「あたしも平気だね。部活でケガするから痛みには慣れているし。一紗はどうなの?」

「私も平気だわ。去年の健康診断で採血は初体験だったけど、血を抜かれる感覚も悪くなかったわ。血を抜かれるところもしっかりと見た」

「おぉ、一紗は強いんだな」

「ええ。今年は大輝君に注射されていると妄想しながら採血に臨むわ。大輝君に注射されるって何だかいい響きね!」


 興奮気味にでそう言う一紗。まあ、この様子なら、一紗のことは心配しなくても大丈夫そうか。


「ねえ、みんな。明日は健康診断があるから、女子テニス部の部活ないんだ。もし、みんなも予定がなければ、健康診断の後に一緒にお昼ご飯食べない?」

「私は大丈夫だよ、青葉ちゃん。ただ、採血した後だから、あまり食べられないかもしれないけど」

「文芸部もないから、私も大丈夫よ」

「俺も採血後はどうなるか不安だから、バイトは入れてない」

「俺もバイトは入っていないな。……あのさ。採血後にどうなっているか不安な人もいるから、俺達の家で昼ご飯を食べるか? 俺が昼ご飯を作るよ。家なら、採血で気分が悪くなってもゆっくりできるし」


 俺がそんな提案をすると、サクラ達はみんな賛成してくれた。一紗は特に。去年も採血の後は特に気持ち悪くならなかったし、お昼ご飯を作る元気は残っているだろう。

 それからは、昨日の夜に放送されたバラエティやドラマの話をしながら、お昼ご飯を食べていく。

 昼休みの時間が半分過ぎて、みんながお昼ご飯を食べ終わったときだった。


「おーい、速水。1年生の可愛い女子が遊びに来たぞ」

「ああ、分かった」


 クラスメイトの男子からそんなことを言われたので、俺は教室前方の扉の方へと向かう。俺に訪ねてくる1年生の可愛い女子といったら、彼女しかいないだろう。


「こんにちは、大輝先輩」


 扉のところに杏奈が立っていた。俺と目が合うといつもの可愛らしい笑顔を見せてくれる。そんな杏奈はベージュ色のランチバッグを持っている。


「杏奈か、こんにちは。さあ、入ってくれ」

「お邪魔しまーす」


 俺は杏奈と一緒にサクラ達のところに戻る。


「みなさん、こんにちはー」

「……杏奈。この前とは違ってランチバッグを持ってきてどうしたんだ?」

「昨日の放課後のお礼に、大輝先輩へアスパラの肉巻きを作ってきたんです。先輩ってアスパラって大丈夫ですか?」

「うん、普通に食べるよ。作ってきてくれたんだね、嬉しいな」

「いえいえ。お礼ですから。お口に合えば嬉しいです」


 そう言うと、杏奈はランチバッグからタッパーを取り出して、俺が座っている机の上に置く。フタを開くと、タッパーの中にはアスパラの肉巻きが2つ入っていた。


「美味しそうだね、杏奈」

「美味しそうだよね。杏奈ちゃんは料理をするの?」

「します。朝はあまり強くないので、お弁当はたまにしか作りませんが。得意料理を食べてもらうのがお礼にいいかなと思って、アスパラの肉巻きを作りました。大輝先輩、このピックを使ってください」

「うん、ありがとう。じゃあ、さっそくいただきます」


 杏奈から水色のお弁当用ピックを受け取り、俺はアスパラの肉巻きを一つ食べる。


「……うん。甘辛で美味しい」

「そう言ってもらえて嬉しいです」


 その言葉が本心であると証明するかのように、杏奈は嬉しそうな笑顔を浮かべる。お弁当の定番のおかずを作り、それを昼休みに持ってきてくれることを含めて、杏奈らしい可愛いお礼だと思う。

 こんなに美味しかったらいくつでも食べられるのに、もう次で最後か。そう思って肉巻きにピックを刺そうとした瞬間、桃色のピックが肉巻きに刺さった。そこから視線を動かすと、杏奈の笑顔に辿り着いた。


「大輝先輩。肉巻きを食べさせてあげますよ。これもお礼の一つです」

「そうなのか。ちょっと恥ずかしいな」

「ふふっ。でも、この前だって、マスバーガーでお客さんのいる中でポテトを食べさせてあげたじゃないですか。……ダメですか?」

「……分かったよ。じゃあ、食べさせてもらおうかな」

「……巧みな交渉術ね。参考になるわ」


 一紗は杏奈に羨望の眼差しを向けている。


「大輝せーんぱい。はい、あ~ん」

「……あーん」


 サクラ達の注目を集める中、杏奈にアスパラの肉巻きを食べさせてもらう。


「……美味しい」

「良かったです」


 心なしか、さっきよりも美味しいような。食べさせてもらったことで、より杏奈の気持ちがこの肉巻きに込められたからかな。

 サクラ達の方を見ると、一紗が羨ましそうにしているくらいで、みんな微笑んでこちらを見ていた。


「ありがとな、杏奈」

「どういたしまして」

「ねえ、杏奈ちゃん。明日、杏奈ちゃんのクラスっていつ健康診断を受ける? もし、午前中なら一緒にお昼ご飯でもどうかなって思っているんだけど」


 と、サクラは杏奈のことを誘う。

 明日の健康診断はクラスごとに、午前と午後に分かれて登校する。もし、俺達と同じく午前中に健康診断を受けるなら、一緒にお昼ご飯を食べられるのか。


「午前中です。集合時間は10時くらいだったかと」

「そうなんだ。私達も午前中なの。実は明日のお昼ご飯は、私達の家でダイちゃんの作った料理を食べることになっているの」

「そうなんですか。あの……あたしも一緒にいただいてもいいですか?」

「もちろんだよ!」


 誘ったサクラはもちろんのこと、一紗や小泉さんも嬉しそうだ。

 明日の昼は俺の分も含めて6人分のお昼ご飯を作るのか。午前中に健康診断があるので、朝ご飯は食べられない。美味しいものを作ろう。

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