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サクラブストーリー  作者: 桜庭かなめ
本編-新年度編-

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45/202

第12話『結果丸見え告白劇場』

 放課後。

 今日も午前中のみの日程だったため、一紗の班による掃除はない。なので、一紗、小泉さん、羽柴と一緒に、サクラが告白を断るのを見守ることに。

 告白する相手が見ているかもしれないので、サクラだけが先に教室を後にする。朝の時点で断ると決めているからなのか、それとも俺達が見守るからなのか、サクラは落ち着いた様子だった。

 サクラだけが教室を後にしたからか、流川先生が俺達のところにやってくる。事情を簡単に説明すると、


「なるほどね。文香ちゃんは可愛いし人気があるもんね。去年、文香ちゃんが告白される場面を見たことが何回かあったよ」


 流川先生は小声でそう話した。その間、俺をチラチラと見ていたのはなぜなのか。幼馴染で同居人だからか? それとも、俺がサクラを好きだってことに気付かれているのか? はたまた、サクラが告白される場面を見た際、隠れて見ていた俺に気付いていたのか。……そこは深く訊かないでおこう。

 それから数分ほどして、俺達も教室を後にし、告白の舞台である体育館裏の様子が見えるところまで行く。そこにいるのはサクラだけだ。


「自分から呼び出しておいて文香さんを待たせるなんて。相手は何を考えているのかしら」

「呼び出した側が先に待っているのが理想的だけど、文香は終礼が終わったらすぐに教室を出て行ったからね。仕方ないんじゃない?」

「小泉の言う通りだな」

「まあ、一紗の言うことも分かるよ」


 もしかしたら、一紗は呼び出されたのに、散々待たされてしまった経験があるのかも。今もなお、一紗は鋭い目つきでサクラの方を見ている。


「あの男子生徒かも」


 そう呟くと、一紗はどこかを指さす。その先にいたのは、端正な顔立ちと、サクラよりも落ち着いた茶色の長髪が特徴的な男子生徒だ。背丈も羽柴や俺と同じくらいだろうか。女性受けが良さそうな雰囲気だ。部活説明会で、サッカー部のときに彼のような人が映っていた気がする。知らんけど。

 サクラとすれ違う前に爽やかな笑みを浮かべ、右手を軽く挙げることから、彼がサクラを呼び出した相手で間違いないだろう。


「待たせちゃってごめん、桜井さん。2年7組の中村だ」

「気にしないで。終礼が終わってすぐにここに来たから」


 落ち着いた声色でそう答えるサクラ。

 あと、あの中村という男子生徒は理系クラスなのか。ああいうチャラさも感じられる容姿の人間は、文系のイメージがあるので意外だ。

 サクラはブレザーのポケットから、水色の封筒を取り出す。


「今朝、この封筒が私の机の物入れに入ってた。これを入れたのはあなた?」

「そうだ。3組に部活繋がりの友人がいてさ。そいつに桜井さんの場所を教えてもらって、さりげなく入れておいた」

「なるほどね……」


 ということは、中村のことを見守っているクラスメイトがいるかもしれないな。

 サクラが告白を断るのを分かっていても、何だか緊張してくるな。


「私に伝えたいことがあるわよね。この手紙にその内容は書いてあるけれど」


 断るのが決まっているのに、中村の告白を聞こうとするとは。それはサクラの温情なのだろうか。

 手紙にも書いてあったとはいえ、中村は緊張した面持ちになる。


「……桜井さんのことが好きだ。1年生の頃、部活から帰ろうとしたときに、桜井さんが友達と楽しそうに喋っているのを何度も見た。最初はただ可愛いと思っていただけだけど、段々と桜井さんの笑顔が見たくなって。手芸部の活動がある月曜日と木曜日は必ず桜井さんが帰る姿を見てた。あと、さっきの部活説明会での猫耳姿も可愛かったよ。2年生になったのをいい機会だと思って、告白しようと思ったんだ。俺と付き合ってください」


 中村はそう言うと、右手を差し出して頭を深く下げた。

 俺もサクラが好きだけど、今の中村の告白する姿はなかなかの好印象だ。今まで告白してきた奴の中ではまともな方だと思う。だから、サクラが別の人間に告白されたことだけでなく、サクラがこれから断ることもほんのちょっとだけ胸が痛む原因になった。

 サクラ、今回もしっかりと告白を断れよ。俺達が見守っているからな。

 サクラは差し出された中村の右手に水色の封筒を掴ませる。そして、2歩下がって、中村よりも深く頭を下げた。


「ごめんなさい。あなたとは恋人として付き合うことはできません」


 サクラは強い声に、丁寧な断り文句を乗せた。そのことにほっとする自分がいる。

 あとはサクラの断りの返事が中村に伝わるといいのだが。

 最初に顔を上げたのはサクラ。それからすぐに中村も顔を上げる。そんな彼は不機嫌そうな表情を見せる。サクラが告白を断ったことに納得がいかないのだろう。


「どうしてなんだ?」

「……あなたは私に好意を持ってくれているけど、私はあなたに好意の欠片もない。その手紙の言葉を見ても、今、あなたに告白されても興味すら生まれなかった。たぶん、これからも同じだと思う」

「それはこれからの俺の頑張り次第でどうにでもなると思うんだけど」


 おっ、中村……食い下がってきたな。自分の考えを通しやすくするためか、サクラに対する目つきを鋭くさせる。ただ、今までもこういう展開は何度もあった。きっと、サクラなら大丈夫だろう。


「それとも、幼馴染と一緒に住むようになったからか? 速水って言ったっけ?」

「……ほえっ」


 サクラの可愛らしい声が聞こえる。

 サクラが俺と一緒に住み始めた話、中村は知っているのか。それだけ話が広まっているのかな。さっき、中村は3組に友人がいると言っていたので、その友人から聞いた可能性もありそうだな。


「でも、別のサッカー部の奴から聞いたぜ? 中学時代に速水からひどいことを言われて、仲が凄く悪いんだろう? 確か、恋愛対象が云々って言われたんだっけ。ひどいよなぁ、きっと当時も桜井さんは可愛かっただろうに。こういう時期だし、親の転勤とかかもしれないけど、よりによって、どうしてそんな奴の家に住むんだよ。馬鹿なんじゃないか? 幼馴染でも高校生だし、一緒に住んでいたら変なことされそうなのに。もうされてるとか? そんな奴と一緒にいて、ストレスが溜まらないか? ストレス発散のためでもいいから、俺と試しに付き合わない?」


 そんなことを言う中村の笑みは厭らしさに満ちていた。

 3年前の一件があってから中学を卒業するまでは、サクラが告白を断ると、相手が俺の名前を出し、例のことで俺を非難することもあった。

 あの一件を知る人が、サクラが俺の家で暮らし始めたと知ったら、なぜそんな決断をしたのだと思うだろう。俺がサクラに変なことをしているかも……と考えてしまうことも理解できる。ただ、中村の言い方もあってか、サクラの決断を馬鹿にしているように思えたのだ。俺のことはどう言われてもいい。でも、サクラを傷つけるのは許せない。これまで何度も告白をこっそりと見てきたけど、こんな気持ちになるのは初めてだ。

 気付けば、2人のところへ行こうと一歩踏み出していた。


「待て、速水」


 羽柴に左肩をガッシリと掴まれる。真剣な様子で俺を見る羽柴のことを睨む。強く握った右手が震えていた。


「離してくれ」

「中村に苛立つ気持ちは分かる。でも、ここでお前が出たら、中村がヒートアップして、お前も桜井ももっとひどいことを言われるかもしれない。このまま桜井が告白を断れても禍根を残す可能性があるぞ」

「文香はこれまで告白を全部断ってきた。あたしも今みたいに文香に食い下がる人を見たけど、ちゃんと断ってる。だから、まだ見守っていよう?」

「だけど……」

「あ、麻生」


 気付けば、一紗が2人のところに向かって歩き始めていた。そのときにチラッと一紗の横顔が見えたけど、真剣さと強い怒りが感じられた。

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