第5話『ガールズトーク』
アニメのキリのいいところまで観終わったときは、日付が変わる直前になっていた。お菓子も全部食べ終わったのもあり、そろそろ寝ようということになった。
寝ると決めたので、私達はローテーブルやクッションを二乃ちゃんの部屋に運んだり、布団を5枚敷いたり、歯磨きをしたり、お手洗いを済ませたりして寝るための準備をした。こういうことをしていると、まるで修学旅行の夜みたい。今日は学年がバラバラだけど。あと、布団を5枚並べて敷けるとは。一紗ちゃんの部屋がとても広いことを今一度実感した。
一紗ちゃんと二乃ちゃんは一紗ちゃんのベッドで寝て、それ以外の5人は布団で寝ることに。どこで寝るか5人で話した結果、和奏ちゃん、青葉ちゃん、私、杏奈ちゃん、百花さんの並びで寝ることになった。
「じゃあ、照明を消しますね」
『はーい』
一紗ちゃんは部屋の照明を消し、ベッドライトを点けてベッドに入った。
「みんなで寝る準備をして、こうして布団やベッドに入ると修学旅行とか部活の合宿みたいだね」
「私も修学旅行みたいだなって思ったよ、青葉ちゃん。今は大学生や中学生もいるけどね」
「そうだねっ」
ふふっ、と青葉ちゃんが笑う。それにつられて私も笑う。
「修学旅行かぁ。小中高どれも楽しかったなぁ」
「あたしもどれも楽しかったよ、百花ちゃん。大学だと修学旅行はないから、修学旅行って言葉が結構懐かしく思えるよ」
「分かる」
これまでに行った修学旅行のことを思い出しているのか、和奏ちゃんと百花さんは優しい笑顔になっている。
そうか。学校の先生とかにならない限り、高校の修学旅行が人生最後に行く修学旅行になるのか。四鷹高校では2年生で修学旅行に行く予定になっている。ダイちゃんはもちろん、一紗ちゃんや青葉ちゃんや羽柴君達と一緒に楽しみたいな。
「修学旅行みたい……ね。では、寝る前にお話ししますか?」
「いいね、お姉ちゃん!」
「賛成だよ、一紗! 修学旅行やお泊まりで寝る前には話してたし!」
一紗ちゃんの提案に二乃ちゃんと青葉ちゃんがいの一番に賛成する。
今日みたいにお泊まりとか、修学旅行とかの夜はお話しするのが定番だよね。
「私も賛成だよ、一紗ちゃん」
「いいですね、一紗先輩」
「あたしも賛成。せっかくこの7人でお泊まりしているんだし」
「私も和奏ちゃんや杏奈ちゃん達と一緒にお話ししたい」
「分かりました。では、お話ししますか。何を話しましょうか? こういうときの話題の定番は恋バナですが」
「恋バナいいじゃん、一紗!」
青葉ちゃんは弾んだ声でそう言う。
青葉ちゃんが賛成したり、恋バナがお泊まりとか修学旅行での話題の定番だったりするのもあってみんな賛成した。
恋バナか。私は昔からダイちゃんが好きだから、恋バナのときにはダイちゃんのとのことをよく訊かれたっけ。……今夜も訊かれそうだ。ダイちゃんと付き合っているし。
「恋バナを最初に賛成した青葉さんは、好きな人とか気になっている人とかはいるの?」
「特にいないなぁ」
「そうなのね」
「羽柴君とかはどう思ってるの? 青葉ちゃん。学校中心に話すことが多いし」
「今のところは特に恋愛感情はないかな。明るくていい人だなとは思っているよ」
「そっか」
お昼を食べているときとか、青葉ちゃんは羽柴君と楽しそうに話すことがあるから、もしかしたら気になっているかもって思っていたんだけどな。
「一紗は……今でも速水君が好きだよね」
「ええ! とっても好きよ! それに、大輝君以上に好きになれそうな人と出会うことはそうそうないと思います。大輝君はとても素敵な人だから」
「一紗先輩の言うこと分かります。大輝先輩は文香先輩と付き合っていますけど、あたしも今も大輝先輩のことが好きですし。大輝先輩はとても素敵で優しい方ですから。それにかっこいいですし。……って、何かすみません。付き合っている文香先輩の前でこんなことを言ってしまって」
「ううん、気にしないでいいよ。恋人のダイちゃんのことを素敵だって褒めてもらえて嬉しいし」
自分のことのように嬉しく思えるのは、ダイちゃんと付き合っていて、ダイちゃんのことが大好きで大切な人だからだと思う。
隣の布団にいる杏奈ちゃんに向けて手を伸ばし、杏奈ちゃんの頭を優しく撫でる。お風呂で髪を洗ったから、いつも以上に撫で心地がいいな。
気にしないでいいと言われたからか。それとも、私に撫でられるのが気持ちいいのか。杏奈ちゃんはとても柔らかい笑顔を私に向けてくれた。本当に可愛いな。
「お姉ちゃんと杏奈さんの速水さんへの想いの強さが分かります。あたしはまだ好きになったり、気になったりしている人はいませんね。そう思える人といつか出会いたいです」
「そうなのね、二乃。もし、そういう人と出会えて、付き合いたいと思ったら、お姉ちゃんが精一杯応援するわ!」
「あたしも精一杯応援するよ、二乃ちゃん!」
一紗ちゃんだけでなく、杏奈ちゃんも力強く言った。杏奈ちゃんはダイちゃんに告白してフラれ、中学時代には女の子と付き合っていたけど、浮気されたので別れた経験がある。もしかしたら、そういったこともあって、恋を応援したい気持ちが強いのかもしれない。
私や青葉ちゃん、和奏ちゃん、百花さんも「応援するよ」と言った。すると、二乃ちゃんは笑顔で「ありがとうございますっ!」とお礼を言った。
「大学生の和奏先輩と百花さんはどうですか?」
青葉ちゃんが和奏ちゃんと百花さんに話を振る。ちなみに、和奏ちゃんだけを先輩呼びするのは、和奏ちゃんがうちの高校の卒業生だから。
「二乃ちゃんと同じで、好きな人や気になる人はいないなぁ。大学とかバイト先で男女問わず告白されたり、ナンパされたりするよ。たまにしつこい人がいて、そういうときは大輝とのツーショット写真を見せて強烈なブラコンだって嘘ついてる」
和奏ちゃんはいつもの明るい笑顔でそう言う。
和奏ちゃんは「ブラコンって嘘ついてる」って言っているけど、結構なブラコンだと思います。そう思っている人は多いと思う。
そういえば、ダイちゃんは前に和奏ちゃんのことを「自覚なきブラコン」って言っていたっけ。まさにその通りだと思う。
「し、しつこい人もいるんだね。和奏ちゃんは背が高くてスタイルも良くて美人だしね。あと、男女問わず告白されるのも納得だよ」
「そうかな。……百花ちゃんはどう? 好きな人とか気になっている人はいる?」
「私も特にいないかな。大学の男の子に告白されたことが何回かあったけど断ったよ」
百花さんも告白された経験があるんだ。百花さんは可愛いし、バイト先のファストフード店で接客する姿も素敵だから納得だ。
「最後は……文香さんね」
「そうだね、一紗。速水君とはいつもラブラブだし、付き合ってから3ヶ月以上経つし……恋人としての進展具合が気になるね」
「私も気になるわっ!」
「文香先輩と大輝先輩がどこまで進んでいるのか聞いてみたいです」
「私、気になります、文香さんっ」
「私達の中では唯一恋人がいるし、文香ちゃんが大輝君とどんな感じでイチャイチャしているか聞きたいね」
「フミちゃんの口から大輝のことを聞きたい気持ちはあるかな。もちろん、フミちゃんの話していい範囲でね」
そう言い、全員からの注目が集まる。
やっぱり、ダイちゃんとのことを訊いてくる展開になったか。百花さんの言う通り、この中では私だけ恋人がいるからね。
この中で、ダイちゃんと最後までしたことを知っているのは和奏ちゃんだけ。和奏ちゃんにはゴールデンウィーク明けにメッセージで伝えたのだ。ゴールデンウィークに和奏ちゃんが帰省しているとき、私が寝ている間に和奏ちゃんがダイちゃんに進展具合を訊いたのをきっかけに、和奏ちゃんはダイちゃんに私と最後まですることを応援してくれたとのこと。それで、実際に最後までできたから、そのことを和奏ちゃんに報告したのだ。報告した際、和奏ちゃんは、
『おめでとう。お互いに相手を大切にね。あと、高校生だし、子供ができないように気をつけてね』
とメッセージをくれたっけ。
付き合ってから3ヶ月以上経っているし、和奏ちゃん以外の5人は最後までしたんじゃないかと思っていそうだ。特に、学校中心に一緒にいることが多い一紗ちゃんと杏奈ちゃんと青葉ちゃんは。
ダイちゃんと最後までしたこと……話そうかな。でも、ダイちゃんとしたことだし、えっちだし……ダイちゃんの許可なしに話すのも心苦しい。
「……ダイちゃんとのことだし、内容的にも……ダイちゃんに話していいか訊いてみてもいい?」
「いいわよ、文香さん。まあ、今の言葉でだいたいのことを察したけれど……」
確かに……今の答え方だと、最後までしたと言っているようなものかも。……そ、それでもダイちゃんに訊いてみよう。
ありがとう、とお礼を言って、枕元に置いてあるスマホを手に取る。LIMEでダイちゃんとのトーク画面を開き、
『もし寝ていたなら、起こしちゃってごめんね。今、こっちは寝る前のガールズトーク中なんだけど、みんながダイちゃんと私の進展具合を知りたいって言ってきて。えっちしたことまで言ってもいいかな?』
というメッセージを送った。
夏休み中だから、ダイちゃんは日付を越えた今の時間でも起きていることが多い。だから、今日も起きている可能性は高い。そんなことを思っていたら、私のメッセージを見たことを示す『既読』マークが付いた。
ダイちゃん、私のメッセージを見てどう思っているだろう。どう判断するだろう。トーク画面を見ていると、
『起きてるよ。まあ、お泊まり女子会のメンツなら、俺と最後までしたって話していいよ。それに関する内容も』
という返信が届いた。
私と一緒にお泊まりしているのは、自分の姉や友達や後輩、バイトの先輩や友達の妹。みんななら大丈夫だと思って、OKを出したのだと思う。
『分かった。許可してくれてありがとう。じゃあ、話すね』
という返信を送り、スマホを枕の横に置く。
和奏ちゃんが知っているとはいえ、えっちしましたって言おうとすると緊張するなぁ。それに、みんなが私に注目しているし。なので、一度長めの呼吸をした。
「ダイちゃんから許可が下りました。……ダイちゃんと私は最後までしました。えっちしました。ゴールデンウィークに和奏ちゃんが帰った日に初めてしました。それ以降は……何度もえっちしてます」
みんなのことを見ながら、ダイちゃんと最後までしたことを伝えた。あぁ……体が熱いし、ドキドキするよ。
えっちしたと言ったからか、既に知っている和奏ちゃん以外の5人は「きゃあっ」とか「おぉっ」などといった声を上げる。みんなの反応を見てもっとドキドキするよ。
「やっぱり最後までしていたのねっ。2人はいつもラブラブだし納得だわっ」
「そうですね、一紗先輩。それに、文香先輩と大輝先輩は一緒に住んでいて、普段から一緒にお風呂にも入っているくらいですし、最後までしていてもおかしくないと思っていました」
「文香……速水君と最後までしたんだね。そんな気はしてた。文香の親友として嬉しい気持ちになるよ。おめでとう!」
「最後までしているんですね。今の文香さんの話を聞いてドキドキしちゃいました!」
「大学生の私もドキドキしたよ、二乃ちゃん。3ヶ月経っているし、2人はラブラブだから、最後までするよね」
「フミちゃんと大輝がそこまでする関係になって、フミちゃんの幼馴染として大輝の姉として嬉しいよ。ただ、2人とも高校生だから子供ができちゃわないようにね」
みんなそれぞれ、ダイちゃんと私がえっちまでしていることについてそう言ってくれた。みんな好意的に思っていてくれて嬉しい気持ちになる。これもダイちゃんとのことだからだろう。
「みんながそう言ってくれて嬉しいです。ありがとうございます」
「ふふっ。……ところで、文香さん。大輝君とのえっちは気持ちいいの? 凄く気になるわ! 小説の参考にもしたいから聞きたいわ!」
興味津々な様子でそんなことを問いかけてくる一紗ちゃん。
一紗ちゃんならえっちについて訊いてくると思っていたよ。それに、一紗ちゃんが『朝生美紗』というペンネームで小説投稿サイトに公開している作品の中には、過激なイチャイチャ描写を含む恋愛作品もあるし。
「さっそく訊くんだね、一紗ちゃん。フミちゃん、言える範囲でいいからね」
「お姉様の言う通り、文香さんの言える範囲でかまわないわ。言いたくないことは『言いたくない』って言ってくれていいから」
「うん、分かったよ。えっと……ダイちゃんとえっちするのは気持ちいいよ。凄く幸せな気持ちになれるよ」
あぁ……えっちしたって言ったとき以上にドキドキする。ただ、ダイちゃんとえっちしたときのことを思い出して幸せな気持ちになれる。
一紗ちゃんはスマホを持って何やらタップしている。きっと、メモ帳とかに私が話したことをメモしているのだと思われる。
「……うん、メモできたわ。えっちは気持ち良くて幸せになれるのね。差し支えなければ……特にどういったときが気持ち良かったり、幸せだったりするか教えてもらっていい?」
「グイグイ訊くね、一紗」
「知りたい気持ちがもっと強くなって」
「なるほどね」
「さあ、どんなときかしらっ?」
興味津々な様子でそう問いかけてくる一紗ちゃん。
「えっと……特に気持ち良く感じるのはダイちゃんとキスしたり、抱きしめ合ったりするときかな。あとは……じ、自分で動くときも凄く気持ち良く感じることがあるよ」
まあ、他にも凄く気持ち良く感じる瞬間は色々とあるけど、それを離してしまったら、みんながダイちゃんのことをどう思うのかが心配だからこのくらいにしておこう。
そうなのねっ、と一紗ちゃんは興奮した様子で言って、スマホでメモしている。
「あの、文香先輩。あたしもいいですか?」
「うん、何かな?」
「その……えっちしたいって誘うのはどちらが多いですか? 気になりまして」
「いい質問ね、杏奈さん!」
一紗ちゃんは杏奈ちゃんに向けてグッとサムズアップする。
「えっと……私の方が多いかな。ただ、初めてのえっちのときはダイちゃんからしたいって言ってくれたんだよ。そのときはとても嬉しかったなぁ。もちろん、えっちしたいって誘われると毎回嬉しいよ」
「そうなんですね。……文香先輩の方が多いんですね。先輩って意外と肉食系なんですね」
「そうかなぁ? ただ、私からキスすることも結構あるし……肉食系かもしれない。それは大好きなダイちゃんだからだと思うけどね」
「ふふっ、そうですか。答えてくれてありがとうございます」
杏奈ちゃんは持ち前のニッコリとした笑顔でお礼を言ってくれた。
また、「いい質問!」と言っただけあって、一紗ちゃんは杏奈ちゃんからの質問の答えもスマホでメモしていた。
「……ちょっとだけど、ダイちゃんとのえっちについて話したからかなりドキドキしてる。体も結構熱いし。だから、このくらいでいいかな? 特に一紗ちゃん」
「ええ、かまわないわよ。素敵なお話を聞かせてくれてありがとう、文香さん。今後の作品作りにも反映していくわ」
と、一紗ちゃんはニコッとした笑顔でそう言ってくれた。今の話が一紗ちゃんの創作活動の助けになれば幸いだ。
「あたしも十分です。ありがとうございました、文香先輩」
「あたしも十分。速水君とのことを色々話してくれてありがとね、文香。ラブラブなのがよく分かったよ」
「私もこのくらいで大丈夫です。文香さんがとても大人な女性に見えます。話してくれてありがとうございます」
「百花ちゃんの言うこと分かるよ。あたしが経験ないのもあるけど、年下の文香ちゃんが大人っぽく見える。素敵な話を訊かせてくれてありがとう」
「フミちゃんと大輝が最後までしたのは前から知っていたけど、今のフミちゃんの話を聞いてラブラブな日々を過ごせているってもっと分かったよ。聞かせてくれてありがとう、フミちゃん」
杏奈ちゃんや青葉ちゃん達も笑顔でそう言ってくれた。みんなもこのくらいでいいと言ってくれたことにほっとしたと同時に、話してくれてありがとうって言ってもらえて嬉しい気持ちになった。
「いえいえ。……あと、ダイちゃんとえっちしたことについては、他の人には言わないでくださいね」
内容が内容なだけに広まるのは恥ずかしいし。
一紗ちゃんや杏奈ちゃん達は「分かった」と了承してくれた。
それにしても、ダイちゃんとのえっちについて話したから……ダイちゃんとえっちしたくなってきたよ。明日の夜、さっそくダイちゃんにえっちしたいって誘おうかな。
「文香さんと大輝君との話も聞けましたし……そろそろ寝ますか?」
一紗ちゃんがそう問いかけてくる。私が話したから、全員の話が終わったもんね。ガールズトークを切り上げるのにはいいタイミングかも。
「私は賛成だよ」
私は最初に賛成する。
その後も青葉ちゃんや杏奈ちゃん達もみんな寝るのに賛成したため、ガールズトークは終了して寝ることになった。
「じゃあ、ベッドライトを消しますね。みなさん、おやすみなさい」
『おやすみなさーい』
一紗ちゃんがベッドライトを消して、私達は寝ることに。
さっきまでガールズトークで盛り上がっていたけど、さっそく寝息が聞こえてきている。布団やベッドが気持ち良くて眠くなっていたのかな。
私は……えっちの話をして体が熱かったり、ドキドキしたりしたのもあってまだそこまで眠気はない。
お手洗いに行ったり、洗面所でお水を一口飲んだりして気持ちを落ち着かせる。そのことで段々と眠くなってきた。
部屋に戻って、自分の布団に入った。部屋も涼しいし、布団もふかふかで気持ちいいから眠気がより強くなって。これなら眠れそうだ。
「おやすみなさい」
そう呟いて、私はゆっくりと目を瞑る。
ふとんのふかふかさも、みんなの寝息の可愛さも心地いいな。そう思いながら、私は眠りに落ちていった。




