プロローグ『お泊まり女子会』
特別編8-お泊まり女子会編-
「お泊まり女子会楽しみですね!」
「そうだね、杏奈ちゃん」
「私も楽しみだよ。それに、一紗ちゃんのお家に行くのが初めてだし」
8月1日、土曜日。
午後5時45分。
私・桜井文香は今、高校の後輩の小鳥遊杏奈ちゃんと、杏奈ちゃんとダイちゃんこと私の彼氏・速水大輝のバイト先の先輩で大学生の合田百花さんと一緒に電車に乗っている。
どうして、2人と一緒に電車に乗っているのか。
今日、クラスメイトで友達の麻生一紗ちゃんの家でお泊まり女子会をするからだ。そのきっかけは、数日前に友達の小泉青葉ちゃんが、
『夏休みだし、お泊まりしたいな! 一紗や杏奈ちゃんや二乃ちゃんとはまだお泊まりしたことないし』
というメッセージを送ってきたのがきっかけだ。
青葉ちゃんが呼びかけて、私や一紗ちゃんや杏奈ちゃんや二乃ちゃんはもちろんのこと、百花さんとダイちゃんのお姉さんの和奏ちゃんもお泊まり女子会に参加することが決定した。
百花さんと和奏ちゃんがそれぞれ通う大学や青葉ちゃんが入部している部活、杏奈ちゃんや百花さんのバイトなどの予定を考慮して、お泊まり女子会は今日の夜にすることになった。
場所については一紗ちゃんと二乃ちゃんが「うちはどうですか?」と提案してくれたので、2人の家になった。以前、勉強会などで2人のお家に行ったことがあるけど、2人の家はかなり大きくて、一紗ちゃんの部屋は私の部屋やダイちゃんの部屋の倍の広さはある。だから、7人一緒でも問題なく過ごせると思う。
今日は午後6時頃に、一紗ちゃんと二乃ちゃんの家の最寄り駅である萩窪駅の北口で、私と杏奈ちゃんと百花さん、青葉ちゃん、和奏ちゃんと待ち合わせをすることになっている。私と杏奈ちゃんと百花さんは家の最寄り駅が一緒なので、今、こうして一緒に電車に乗って萩窪駅に向かっているのだ。
百花さんと二乃ちゃんとは初めてお泊まりするし、どんなお泊まり女子会になるのか楽しみだな。
ちなみに、男子のダイちゃんと羽柴拓海君はそれぞれ、
『楽しいお泊まり女子会になるといいな』
『みんな楽しんでこいよ』
と言ってくれている。
杏奈ちゃんと百花さんと談笑しながらだったので、萩窪駅に到着するまではあっという間だった。
今は午後5時50分過ぎ。
待ち合わせの時間まであと10分近くあるけど、青葉ちゃんと和奏さんはもういるかな。そう思いながら待ち合わせ場所の北口に行くと、
「あっ、文香達来ましたね!」
「来たね!」
既に北口には青葉ちゃんと和奏ちゃんの姿があった。青葉ちゃんの側には自転車が。最寄り駅が隣だから、自転車で来たのだろう。2人とも笑顔でこちらに向かって手を振ってくる。2人と無事に会えて安心だ。そんな気持ちを胸に抱きつつ、杏奈ちゃんと百花さんと一緒に手を振りながら2人のところへ向かった。
「3人ともどうもです! 杏奈ちゃんと百花さんはバイトお疲れ様です!」
「こうして直接会うのはゴールデンウィーク以来だね。ひさしぶり! 杏奈ちゃんと百花ちゃんはバイトお疲れ様!」
私達3人が到着すると、青葉ちゃんと和奏ちゃんがそう挨拶してきた。杏奈ちゃんと百花ちゃんはバイトがあったからね。
また、青葉ちゃんは部活、和奏ちゃんはバイトがあったと聞いている。
ちなみに、和奏ちゃんは夕方近くまでバイトがあって、バイト先からここに来ると言っていた。また、明日、お泊まり女子会からの帰りに私と一緒に四鷹市にある実家に行き、ダイちゃんと御両親と会って夕食を食べる予定になっている。
「青葉ちゃん部活お疲れ様。和奏ちゃんはおひさしぶりです。あと、バイトお疲れ様でした」
「お二人とも部活やバイトお疲れ様です。和奏さん、おひさしぶりです」
「青葉ちゃんは部活、和奏ちゃんはバイトお疲れ様。和奏ちゃんひさしぶりだね! また会えて嬉しいよ!」
私達は部活があった青葉ちゃんと、バイトがあった和奏ちゃんを労いつつそう挨拶した。
「じゃあ、無事に会えたので一紗の家に行きましょうか!」
青葉ちゃんがそう言い、私達は一紗ちゃんと二乃ちゃんの家に向かって歩き出す。
これまでに一紗ちゃんと二乃ちゃんの家に行ったことは何度もあるけど、お泊まりで行くのは初めてだから、萩窪駅周辺の景色が結構新鮮に感じられる。
「お泊まりはもちろん楽しみだけど、夕食のすき焼きも楽しみだな!」
青葉ちゃんはニッコリとした笑顔でそう言う。
青葉ちゃんの言うように、今日の夕食はすき焼きだ。お泊まり女子会の日程と場所が決まった後、7人で話し合ってすき焼きに決まったのだ。
「夕ご飯も楽しみだね、青葉ちゃん」
「うんっ。すき焼き好きだし、部活があったからお腹ベコベコだし」
「ふふっ、そっか」
「今夜もたくさん食べる青葉ちゃんを見られそうね、フミちゃん」
「そうですね」
青葉ちゃんは食べることが大好きな女の子だ。女の子はもちろん、男の子よりも食べる。
ゴールデンウィークに和奏ちゃんが帰省している間に青葉ちゃんが泊まりに来た際、青葉ちゃんは夕食のハヤシライスを3杯食べていた。きっと、和奏ちゃんはそのときのことを思い出して「今夜もたくさん食べる青葉ちゃんを見られそう」と言ったのだと思う。
学校生活のことや、和奏ちゃんと百花さんは大学の期末試験などがあって行けなかったけど、先日ダイちゃん達と一緒に海水浴に行ったときのことなどを話しながら、一紗ちゃんと二乃ちゃんの家に向かった。
「ここです」
萩窪駅を出発してから10分ほどで、一紗ちゃんと二乃ちゃんの家の前に辿り着いた。
「ここなんだ。……かなり大きいね」
「大きいよね、和奏ちゃん。凄いなぁ……」
来るのが初めてである和奏ちゃんと百花さんは、麻生家の大きくて立派な外観を見入っている。こんなに立派な家だとそういう反応になるよね。
「あたし達も初めて来たときは同じように思いました。ね、文香、杏奈ちゃん」
「そうだね、青葉ちゃん」
「そうでしたね。立派ですし、素敵な外観ですから」
「そうだったんだね。こんなに立派な一軒家はそうそうないもんね」
「私の地元もこんなに大きな一軒家はないよ、和奏ちゃん」
私達3人も同じだったと分かってか、和奏ちゃんと百花さんは楽しげな笑顔でそう言った。
私も一紗ちゃんと二乃ちゃんの家以上に大きな一軒家は見たことないかも。
家の門を通り、石畳の道を通って玄関まで向かう。庭も立派で芝生が綺麗に手入れされているからか、和奏ちゃんと百花さんは周りを見渡していた。
玄関に到着し、青葉ちゃんがインターホンを押した。
『はい。あら、青葉さん。文香さん達の姿も見えるわね』
チャイムが鳴ってすぐ、インターホンのスピーカーから一紗ちゃんの声が聞こえてきた。
「青葉です。みんなと一緒に来たよ」
『ええ。すぐに行くわ』
それから程なくして、家の中から玄関が開かれ、
「みなさんいらっしゃい。こんばんは」
中から一紗ちゃんが出てきて、とても可愛らしい笑顔でそう言った。そんな一紗に私達5人は「こんばんは」と挨拶した。
「さあ、入ってください」
私達5人は「お邪魔します」と言って、一紗ちゃんと二乃ちゃんの家の中に入る。
家の中に入ると、そこには二乃ちゃんと、2人の母親の純子さんと父親の大介さんが立っていた。
「みなさん、こんばんは! あと、和奏さんとはこうして直接会うのは初めてですね」
二乃ちゃんは持ち前の明るい笑顔で挨拶をする。可愛いな。
そういえば、二乃ちゃんと和奏ちゃんは……直接会うのは初めてか。先日行った海水浴で、お昼を食べているときにLIMEというSNSアプリを使ってビデオ通話をしたことはあるけれど。
「ふふっ、直接では初めましてだね、二乃ちゃん。こうして会えて嬉しいよ」
和奏ちゃんは優しい笑顔で挨拶した。
「私もですっ」
と言い、二乃ちゃんは嬉しそうに和奏ちゃんに握手した。
「和奏さんと直接会うのを楽しみにしていたものね。良かったわね、二乃」
「うんっ」
「ふふっ。……お姉様、百花さん、両親を紹介しますね。母の純子に父の大介です。それで、お母さん、お父さん。こちらが私の大好きな大輝君のお姉さんの速水和奏さんと、大輝君ととても可愛い杏奈さんのバイト先の先輩の合田百花さんです」
和奏さんと百花さん、一紗ちゃんと二乃ちゃんの御両親は初対面なので一紗ちゃんがそう紹介する。あと、ダイちゃんと杏奈ちゃんを大好きとかとても可愛いと言うところが一紗ちゃんらしくて面白い。同じように思ったのか、青葉ちゃん達もクスッと笑っている。
「初めまして。速水和奏といいます。千葉女子大学文学部の2年生です」
「初めまして、相田百花です。日本芸術大学造形学部の2年生です」
「初めまして、一紗の母の純子です」
「父の大介です。初めまして」
初対面の4人は挨拶して軽く頭を下げた。
「みなさん、ゆっくりしていってください」
「ゆっくりしていってね。夕食の準備ができているから、荷物を一紗の部屋に置いてきてね」
『はーい』
その後、私達5人は2階にある一紗ちゃんの部屋に荷物を置きに行く。また、初めて来た和奏ちゃんと百花さんは、
「うわあっ、とても広い部屋だね!」
「本当に広いね! これなら7人一緒に寝られるね!」
と、一紗ちゃんの部屋の広さに驚き、感心している様子だった。
1階に降りて、食事会場であるリビングに行く。ローテーブルの上には2つのすき焼き鍋で作られたすき焼きがあって。とても美味しそうで、すき焼きの甘い匂いも香ってきて食欲がそそられる。
私達はローテーブルを囲むようにしてクッションに座る。両隣には青葉ちゃんと杏奈ちゃんがいる。
「では、みんなですき焼きを食べましょう。いただきます!」
『いただきます!』
一紗ちゃんの号令で、私達は夕食のすき焼きを食べ始める。
「お肉美味しい……」
お肉は程良く脂が乗っているので、柔らかくて、脂の甘味も感じられてとても美味しい。
「美味しいよね、文香!」
ニッコリとした笑顔で、青葉ちゃんがすぐにそう言ってくれる。そのことに頬が緩み、青葉ちゃんに「そうだね」と言った。口の中にあるお肉の旨味が広がった感じがした。
一紗ちゃん曰く、すき焼きのお肉はA5ランクの国産のブランド牛とのこと。こんなに美味しいと、ダイちゃんと羽柴君にも食べてほしくなるよ。
「本当に美味しいよ! 特にお肉!」
「美味しいわよね、青葉さん! お母さんとお父さんがたくさん買ってきてくれたから遠慮なく食べて!」
「うんっ!」
青葉ちゃんと一紗ちゃんは持ち前の大食いを発揮して、お肉を中心にすき焼きをどんどん食べている。2人がたくさん食べるところを何回か見たことあるけど、毎度のこと2人の食べっぷりは凄いと思う。
「一紗から聞いていたけど、小泉さんはよく食べるね」
「そうね、あなた。見ていて気持ちいいわ」
「そうだね」
大介さんと純子さんは優しい笑顔で一紗ちゃんと青葉ちゃんのことを見ている。ちょっと嬉しそうにも見えて。青葉ちゃんと一緒にたくさん食べている娘の姿を見られて嬉しいのかも。
「お肉はもちろん、他の具も本当に美味しいね、和奏ちゃん」
「うんっ。こんなに美味しいすき焼きは初めてかも」
百花さんと和奏さんはすき焼きをじっくりと味わって食べている。大学生なだけあって、ちょっと大人な雰囲気にも見える。
「本当に美味しいですっ」
「美味しいですよね、杏奈さん」
杏奈ちゃんと二乃ちゃんはニコニコと笑い合っている。可愛いし、とても微笑ましい光景だ。
みんなでワイワイと喋りながら夕食のすき焼きを楽しんでいった。とても美味しいし楽しいから、いつもの夕食よりもたくさん食べられた。ごちそうさまでした。
ちなみに、純子さんと大介さんがたくさん用意してくれたお肉は、一紗ちゃんと青葉ちゃんがたくさん食べたのもあり全てなくなりました。




