第12話『磯散策』
サクラが脱げてしまった水着を着直し、サクラと一紗と杏奈と4人で少し水をかけ合った後、俺達はレジャーシートに戻って休憩することに。サクラが喉が渇いてきたと言ったからだ。きっと、水をかけ合ったり、波に飲み込まれたりして海水を飲んでしまったからだろう。
また、戻る際に、ビーチボールで遊んでいた二乃ちゃんが「水着が見つかって良かったです」と言ってきた。そのことに、サクラははにかみながら「ありがとう」と言って。また、サクラの気持ちを慮ってか、羽柴は特に声をかけなかった。
レジャーシートに戻り、俺達は持参してきた飲み物を飲むことに。ちなみに、俺とサクラは水筒に入っている冷たいスポーツドリンクだ。
スポーツドリンクならではの甘さと塩気がいいな。あと、冷たいのもたまらない。
「あぁ、スポーツドリンク美味しい」
「冷たくて美味しいよね。喉が潤っていくよ」
サクラは爽やかな笑顔でそう言うと、スポーツドリンクを再び飲む。ゴクゴクと喉を鳴らしながら飲む姿はとても綺麗で見入ってしまう。
「大輝君と文香さんもスポーツドリンクなのね。私もよ」
「あたしもです。遊ぶといっても、外で体を動かしますからね」
サクラの横で一紗と杏奈も持参したスポーツドリンクを飲む。みんないい笑顔になって。CMや広告に起用されたら売り上げがグンと伸びるんじゃないかと思えるくらいに。
「喉渇きました」
「水分補給はちゃんとしないとね。今日は晴れて暑いから、気をつけないと熱中症になっちゃうし」
「だな。波打ち際でやったから足元は冷たかったけど、結構暑いぜ」
ビーチボールを使って遊んでいた二乃ちゃん、小泉さん、羽柴もレジャーシートにやってきた。今の会話からして、二乃ちゃんが喉が渇いたと言ったことをきっかけに休憩することになったのだろう。
あと、小泉さんの言う通り、熱中症対策で水分補給はしっかりしないとな。
3人はレジャーシートの中に入ってきて、それぞれが持参した飲み物をゴクゴクと飲む。
「あぁ、スポーツドリンク美味しいですっ!」
「二乃ちゃんもスポーツドリンクなんだね。あたしもだよ。体を動かすし、屋外で過ごすからね。ビーチボールで体を動かしたから凄く美味しいわ」
「俺もスポドリだ。甘くて美味しいぜ」
「羽柴らしいな。……みんなスポーツドリンクを持ってきたんだな」
まあ、外で遊ぶし、スポーツドリンクが持ってくる飲み物の筆頭候補になるか。
それから、水分補給をしながら7人で談笑する。冷たいスポーツドリンクを飲んでいるし、たまに風も吹くから、それが気持ち良くて癒やされる。
また、スマホを確認すると、和奏姉さんと百花さんからLIMEでそれぞれ、
『大輝! 水着姿いいね!』
『水着姿もかっこいいね!』
というメッセージが来ていた。実の姉とバイトの先輩から水着姿を褒められると嬉しいものだ。
また、サクラ達にも和奏姉さんと百花さんから水着姿を褒めるメッセージが届いていた。
「次は何をして遊ぼうか?」
15分ほど休憩したとき、サクラがそう問いかけてきた。
サクラと一紗と杏奈と水をかけ合って遊んだからな。それ以外に海水浴に来たときによくやることは、
「あの岩場を散策してみるのはどうだろう?」
俺はそう言って、海水浴場の端の方にある岩場を指さす。今も数人ほどの海水浴客が磯散策をしている。
昔、サクラの家と一緒に家族旅行に来たときには磯散策をすることがよくあったし、去年、羽柴達と一緒に来たときにもやったから。
「いいね、ダイちゃん。昔、海水浴に行くと岩場を歩くことがよくあったよね」
「去年、海水浴に来たときに磯散策したな」
「2人とも覚えていてくれたか。嬉しいな。それもあって提案してみた」
「なるほどな。今年も行ってみるか」
「去年、文香と一緒に磯散策したよ。今回も行きたいな」
「あたしも行きましょうかね。昔、家族で海水浴に来たときは父や兄と一緒に行くことがありましたし。ここの海水浴場は初めてですから、興味があります」
サクラと羽柴だけでなく、小泉さんと杏奈も行きたいか。提案してみて良かったな。
「一紗は二乃ちゃんはどうだ?」
「あたしはここで休んでいます。ビーチボールでたくさん遊んだのでちょっと疲れがあって……」
「私もここにいるわ。レジャーシートでゆっくりするのも好きだし。水着姿の二乃とゆっくりしたいのもあるけれどね」
「分かった」
疲れがあるならゆっくりした方がいいだろう。熱中症になるかもしれないし。岩場だから何かの拍子で怪我をしてしまうかもしれないから。
レジャーシートでゆっくりするのが好きだったり、二乃ちゃんとゆっくりしたかったりするのも本当だろうけど、一紗はレジャーシートで二乃ちゃんを一人にしたくない気持ちがあるのかもしれない。
「じゃあ、俺達5人で磯散策しよう」
俺、サクラ、杏奈、羽柴、小泉さんはビーチサンダルを履いて海水浴場の端っこにある岩場へと向かい始める。その際、サクラと手を繋いで。
お昼に近づいてきたのもあり、俺達が海水浴場に来たときよりも人が多くなってきている。端の方にもレジャーシートを敷いたり、ビーチパラソルを立てたりと場所が確保されているところもあるし。
端まで辿り着くと、砂浜は終わって岩場になる。
この海水浴場にある岩場は広く、歩きやすい場所も多い。今も小さな親子連れや、小学校の3、4年生くらいと思われる男の子2人が岩場を散策している。
「結構広い岩場ですね!」
初めて来たからか、杏奈はちょっとテンション高めだ。
「そうだな、杏奈。去年、羽柴と来たときは、海水が溜まっている場所に小さい魚や蟹とかがいたよ」
「そうだったな」
「私達が行ったときもお魚やイソガニがいたよね」
「そうだったね、文香」
「そうなんですね。では、海水が溜まっている場所を見てみましょう」
杏奈はワクワクとした様子で岩場の中を歩いていく。家族旅行のときに親御さんやお兄さんと一緒に岩場に行ったそうだし、杏奈は岩場が結構好きなのかもしれない。
杏奈に続いて、俺達も岩場の中を歩いていく。
この岩場は羽柴達と一緒に去年も来たので懐かしいけど、サクラと杏奈と小泉さんとは初めてだから新鮮な気持ちもあって。まさか、サクラと一緒にこの岩場に来られるとは、去年、この岩場に来たときは想像もしなかったな。
海水が溜まっている大きめの場所があったので、そこを覗いてみる。そこには小さな魚や貝、ヒトデなどたくさんの生き物がいる。黄色い魚や青い魚もいるのでカラフルで。ワクワクしてくるな。
「うわあっ、色々な生き物がいますね!」
「いっぱいいるね!」
生き物がたくさんいるのもあり、杏奈と小泉さんは興奮気味。2人とも目を輝かせて見ている。可愛いな。
「本当にいっぱいいるね」
「そうだな、サクラ」
「こういう岩場に来て生き物を見つけるとワクワクするよな」
「ああ。羽柴の言うこと分かる」
「ふふっ、さすがは男の子って感じだね。そういえば、ダイちゃんは小さい頃って岩場に来て生き物を見つけると興奮していたよね」
「そうだったな。ビーチから入れるところには、人がいっぱいいるからなのか魚が全然いないからかな。せいぜいクラゲくらいで」
だから、こういう岩場に来て、魚とか貝とかイソガニなどを見つけると興奮するのだ。
「おっ。イソガニがいるぜ」
羽柴はそう言うと、足元にいるイソガニを拾い上げて俺達に見せてくる。捕まえられたからか、羽柴はちょっと楽しそうだ。
「おっ、いたか」
「へへっ。イソガニゲットだぜ。高校生になっても、こういうのを捕まえられると嬉しいもんだな」
「そっか。……羽柴を見ていたら俺も捕まえたくなってきたな」
イソガニがいないかどうか周りを見てみると……サクラの足元にイソガニがいた。
「サクラ、足元にイソガニがいるぞ」
「えっ、うそ」
そう言うと、サクラは俺の後ろへと移動する。
また、サクラが移動したからか、それまでゆっくり歩いていたイソガニの歩く速度が上がる。ただ、捕まえるには問題ない速さなので、右手を素早く伸ばしたら難なく捕まえることができた。
「よっしゃ、俺もイソガニゲット」
「良かったじゃないか、速水」
「ああ」
自分もゲットできると嬉しいもんだな。羽柴と左手でハイタッチ。
「あっ、速水君と羽柴君がイソガニゲットしてる」
「ですね。2人とも嬉しそうです。2人を見ていると、昔、イソガニをゲットして喜ぶ兄を思い出します」
「そうなんだね。……ダイちゃんも羽柴君もイソガニを捕まえられて凄いな。私、イソガニはハサミで指を挟まれるのが怖くて、今でも触ることはできないな」
「そうか。……そういえば、昔もサクラはイソガニを見つけると、俺や和奏姉さん、美紀さんの後ろに隠れてたよな」
「そうだったね。ダイちゃんは昔からイソガニとか平気で捕まえられるよね。そういうところ、かっこいいなって思ってた。もちろん、今もね」
サクラはニッコリと笑いながらそう言ってくれる。
思い返せば、小さい頃からイソガニなどを捕まえると、サクラは「凄いね!」って笑顔で言ってくれたっけ。そのときも嬉しかったけど、恋人になった今言われると嬉しいのはもちろんキュンともさせられる。
「あ、ありがとう、サクラ」
「かっこいいって言ってもらえて良かったな、速水」
「こういうことでもいい雰囲気になれるなんて。さすがは幼馴染だね」
「ですね、青葉先輩」
羽柴と小泉さんは明るい笑顔で、杏奈はいつもの可愛らしい笑顔でそう言ってきた。
「お、おう」
特にからかわれているわけではないのは分かっているけど、ちょっと気恥ずかしさがあるな。サクラも同じ気持ちなのか頬をほのかに赤くしていた。
俺にずっと掴まれているからか、イソガニはハサミや脚を激しめに動かしている。なので、海水の近くに置く。すると、イソガニは海水の中に入っていった。
「杏奈ちゃん。向こうにも海水が溜まっているところがあるよ」
「本当ですね。行ってみましょう」
「そうだね」
小泉さんを先頭に海水が溜まっている他の場所に向かって歩き始める。そのときだった。
「きゃっ!」
足を滑らせたのか、先頭にいる小泉さんの後ろで歩いている杏奈が後ろに転びそうになる。
「杏奈!」
素早く杏奈のすぐ後ろまで駆け寄り、転びそうになる杏奈のことを抱き留める。後ろに倒れ始めたタイミングだったので、杏奈と体がぶつかってもそこまでの衝撃はなく、踏ん張ることができた。
「大丈夫か、杏奈」
「杏奈ちゃん、大丈夫? ダイちゃんも」
「小鳥遊のことを抱き留めたもんな」
「2人とも大丈夫?」
「俺は大丈夫だ。杏奈は大丈夫か?」
「は、はい」
再度問いかけると、杏奈はそう返事をして、俺の方に顔を向ける。
「足が滑ってしまいました。後ろに倒れそうになったときはどうなるかと思いましたが、大輝先輩のおかげで転ばずに済みました。ありがとうございました」
杏奈はいつもの明るく可愛い笑顔でそう言ってくれた。杏奈の笑顔を見られて安心した。サクラ達も同じ気持ちなのか、安堵の笑みを見せている。
後ろから抱きしめているので、杏奈の体がとても華奢なのだと分かる。また、触れている部分から杏奈の体の熱がしっかりと伝わってきて。
「あと……大輝先輩に助けてもらえたのが嬉しいです」
えへへっ……と、杏奈は声に出してはにかむ。俺と目が合うと、杏奈の頬がほんのりと赤くなっていって。そんな杏奈がとても可愛くて。
俺に助けてもらえたのが嬉しい……か。きっと、それは俺への好意があるから出る言葉だろう。もしかしたら、転びそうになったのがきっかけでも、俺に後ろから抱きしめられているこの状況も嬉しいのかもしれない。
「そっか。そう言ってくれて嬉しいよ。杏奈を助けられて、杏奈に怪我がなくて良かった」
「はいっ。……大輝先輩、もう離して大丈夫ですよ」
「ああ」
俺が抱擁を解くと、杏奈は俺から少し離れてこちらに振り向く。杏奈は持ち前の明るくニッコリとした笑顔で、
「大輝先輩。ありがとうございました!」
と、元気良くお礼を言ってくれた。お礼は何度言われてもいいものだ。
こういう場所でも、先輩として杏奈のことを助けられて良かった。
その後も磯散策をしていく。
海水が溜まっている場所では魚や貝、イソガニなど色々な種類の海の生き物がいるから、みんな楽しそうだ。ただ、転びそうになったときに俺に助けられたからか、杏奈は特に楽しそうにしていた。




